異世界からの脱出方法は?

風音

プロローグ

 学校から帰宅した僕は散らかった部屋の片隅におかれた湯沸し器のスイッチをいれ、それからいそいそとパソコンを立ち上げ、「シャイニング・フィールド」を開いた。前回セーブした場所の景色が画面に浮かび上がり、そこに自分のアバターが光と共に現れた。「シャイニング・フィールド」は広いフィールドの中を自由に駆け回りモンスターを倒したりクエストをこなしていくゲームで、今巷で話題となっている。わりと複数人でチームを組み楽しんでる人が多いが、僕はそういうのは煩わしくいつも一人プレイしている。


カチッと音がなった。お湯が沸いたようだ。手を伸ばした範囲にあったカップ麺をひとつつかみお湯を注ぐ。それを床の上におき、俺はゲーム画面に目を戻した。無意識のうちにコントローラーを触っていたのか気がつくと見覚えのない場所に出ていた。辺り一面草原が広がり、その奥に、白く光る建物が見える。神殿か何かか?だとしたら何か特別な武器が手にはいるかもしれない。そう思いそっと近づき、入り口まで来て中をのぞきこんだ。どこまでも続くような深い闇が奥にすくっている。入るか、やめるか。迷っていると奥から魔物が出てきた。今までみたことがないタイプだ。試しに、今ゲーム内で最も強いと言われている剣で攻撃してみる。当たったがあまりきいていないようだ。それと同じ魔物が奥からまだまだわいてくるのが見えた。危機的状況とは裏腹に僕のかおには笑みが浮かぶ。確信した。この奥には何かいいものがある。ニヤリと笑いながら俺は魔物の群れへと突っ込んだ。


何十回倒され、何十回やり直しただろうか。ついに俺はモンスターを倒し、長い長い階段を下り、最奥の空間へと到達した。予想に反してボスキャラはいない。宝箱が置いてあることもない。それでも何かないか俺はその中を探し回った。ふと、壁にドアがあることに気がついた。回りと同じく淡く輝く白い石で作られていて気がつかなかった。

「まだ部屋があったのかよ。」

僕はぼやきながら、ステータスを確認する。HPは満タン、MPは半分以上。続いて持ち物。高級薬草大量、MP回復剤もそこそこ。1つMP回復剤をとりだし使う。よし、これで何が出ても大丈夫だろう。石の扉に手をかける。ドアが少しずつ開く中からは白い光が溢れ出す。それはパソコンの画面を白く染め、やがてはリアルの僕までも…。


え?

ちょっと待ってくれ。今のは何だ。

僕は…。

ここはどこだ?


気がついたら、暗闇の中に一人立っていた。ゲームに熱中してる間に夜になっていたのか?


いや、それでも、自分の手が見えないほどの暗闇なんてあるか?


1人焦っていたときだった。ポッと水色の明かりが少し離れたところでついた。恐る恐る目を凝らすと白いドレスを身にまとった人影が見えた。そっと何かにつられるようにそちらに足を踏み出す。と、同時に人影が振り向いた。金髪に深い海のような青い目をした少女がにこりと笑いながら僕の方をみていた。その口がゆっくりと開かれ、

「異世界、行ってみない?」

満面の笑みでそう言われた。

「いせ…かい?」

何だこれは、夢か?目をぱちぱちさせながら俺は問い返す。

「うん。君が毎日四角い箱の中で遊んでいるような世界。」

四角い箱…あぁ、パソコンか。確かに今はやりのそういう小説を読むたびにワクワクして、行けたら羨ましいなとは思うが、まさか自分の身にこんなことが起こるとは思わなかった。

「ぜひ行ってみたいです!」

もちろん僕はそう返す。すると、まぁ、いわゆる神様みたいなものだろうその少女はそっと俺に手を差し出した。その手をつかむ。ぶわっといきなり強い風が吹いた。強風の中なんとか目を開くと、

「うわぁ。」

空だった。空の中に浮かぶ石の床に自分はたっている。その景色に見とれている間に少女に手を引かれ進む。少女が止まった気がしてはっと視線を戻すと目の前には…

「投石機…?」

いつぞや「シャイニング・フィールド」とは別の、戦闘ゲームでみたまんまのばかでかい、でも簡素な作りの投石機が目の前にあった。その、まぁ、本来なら岩を乗せるところになぜか座らされる。

「って、ちょっと待てっ!!何だよこれは!!?」

あり得ない状況に思わず叫んだ。こんなもんで飛ばされたら普通に死ねるって。いくらなんでもこれはダメだって。

「わ、わかった、これはあれだろ…なんかの罰ゲームだろ!?…異世界行こうとか夢持つなってやつだろ!わかった、帰る、帰りますから、」

下ろしてくれ!結構高さがあり、自力では降りられないのでとりあえずじたばた暴れることにした。俺はまだまだ青春真っ只中、高1なんだ!こんなところで死ぬとか嫌すぎるっ!少女はそんな俺を見ながら、

「大丈夫!風魔法で落下時の衝撃は軽減するから死んだりしないよっ!」

グッと親指をたてそう言った。

「いやそういう問題じゃねぇっ!絵的にダメ、これ絵的にダメなやつ!!」

てか、そもそもこんな装置じゃどこ飛ばされるかわかったもんじゃない。初期装備の今の状態でいきなり強いモンスターがいる場所にいこうものならどっちにしろ終わるからっ!!

「大丈夫!」

僕の心を読み取ったのか…いや、顔に出ていたんだろう、うん…少女は投石機の足元にある箱に目をやり、

「これで行き先決定できるんだなー!狙った場所にしっかり飛ばせるよ!」

ってなんだよそのハイテク設備は!パソコンすか、GPSで場所特定して飛ばす感じっすか。いや落ち着こう、ここは(たぶん)異世界、GPSはない…はず。

「それで。最初はやっぱり「はじまりの町」から?」

定番地名来たー!!もちろん一にも二にもなく頷く。

「は、はいっ!」

とりあえず、信じることにしよう、うん。

「おっけー。あ、そうそう私忘れるところだった、これ。」

少女が腕輪を差し出した。

「それがあったら、何か困ったときに私と連絡とれるから、壊さないように気を付けて。

そんなものまでくれるのか、まぁこれならなんかあったときでもなんとかなるな。ありがたく受け取り腕にはめる。

「それじゃ、いきまーすっ!!!目標、はじまりのまちっ、ドーンッ!!…ってえぇ、ちょっとまっ」

何か少女がいいかけた気がする。だが、投石機は止まらず、僕は空中に投げ飛ばされた。どこまでもどこまでも上っていきそして落下が始まる。耳元で風が吹き抜けるおとがビュービューなっている。怖くなりそっと僕は目を閉じた。


ぶわっという音とともに風が起きた。その風に抱かれるようにして緩やかに僕は地面に降り立った。耳がまだ変なのだろうか、町に降りたはずなのに何も聞こえない。唾を飲みながらそっと目を開けた。そして、


「え。」


ここはどこだ!?

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