第6話

 エレシアさんに別れを告げて喫茶店を後にした私とシルバーさんは、ちょっと遠回りして帰ることにした。


 理由は特にないけど、ただ、私がもう少しシルバーさんと何処かへ行ってみたかったから。

 そう伝えたら、シルバーさんは最初目をパチクリさせて、けど、すぐに頷いて微笑んでくれた。


 そこからは、なんの変哲もない散歩道。公園の噴水を眺めたり、何気ない街並みに視線を向けて、塀の上にいる猫ちゃんに挨拶。

 何故かシルバーさんは思いっきり猫に威嚇されてたけど、何か背後霊でも付いてるのだろうか?

 偶然出会った学校のクラスメイト達にシルバーさんをどう紹介した物かと思ったら、シルバーさん、近所に住んでるお姉さんとか自己紹介していた、嘘つきめ。


 とまあ、そんな感じで二人でお散歩していたわけなんですが、いきなり目の前に人影が割り込んできた。


「あー!貴女貴女貴女貴女アタタァ!!」


 連呼しすぎて最後世紀末覇王見たくなってますが大丈夫ですか貴女。


「うぇ? ええと、私です?」


「そう、貴女よ貴女!」


 割り込んできた人影は、白い着物に朱の袴姿……いわゆる巫女服姿の少女だった。


「人違いです。」


 シルバーさんの手を引いて歩き出す。絶対関らない方がいいもんアレ、町中で巫女服来ていきなり奇声を発してるとか通報されても文句言えないと思う。


「こらー!逃さないわよ!貴女!巫女に興味はないかしら!?」


「ないです」


 シルバーさんの手を引いて歩きだす、絶対関らない方がいいもんアレ、町中で巫女服来ていきなり奇声を発してるとか通報されても文句言えないと


「クローちゃんクローちゃん、何かループしてる気がするわよ?」


「さも当然の様に人の心読まないでくださいシルバーさん。」


 とは言え、関わりたくないのは共通認識のようで、二人で足早にその場を立ち去るべく駆け出した。


「待ちなさーい!貴方みたいな逸材逃しはしないわよ、是非ともうちの神社で巫女としてアルバイトしてもらうわ! あ、連れの男は要らない、あっちいけ!!」


 なんと、一目見ただけでシルバーさんを男だと見抜くなんて、あの巫女、どうみても変態だけどホンモノですよ!どうみても変態だけど!


「……そんな……初対面の相手にバレるなんて……」


 そしてシルバーさんが地味に愕然としてる、たしかにショックかもしれないけど、そこまで……?


「逃げるなぁ!ええい、行きなさい雷鳥さん!!」


 雷鳥!?あの高山地帯で見かける変な模様した鳥!?


 思わず振り返った私とシルバーさんが目にしたのは、およそ想像していた雷鳥とはかけ離れた鳥だった。


 まず、大きさ、雷鳥と呼ばれたその鳥は、2メートルを超える程の巨躯を誇っていた。

 色は白に、羽の半分が青色の稲妻模様になっている。

 が、そんな特徴は、それ以上に衝撃的なその形に全て塗りつぶされた。


 卵……だった。


 卵、どうみても卵みたいな形をしていて、そこから二枚の翼と、棒みたいな足とクチバシが生えてる……えぇ、なにあのUMA。


『ライチョー!』


 ……ツッコミどころしかないけど、とりあえずこれだけ言っておく。


「……雷鳥は雷鳥とは鳴かないと思います……」


『……セヤロカ?』


 喋ったあああああああああああ!?


「えぇっ!?なに!?なんです、あれ、本当に鳥なの!?えぇ!?」


 ダメだ、思考がまとまらない。というかあんなデフォルメキャラみたいないい加減存在見て正気保つとか常識的にムーリー!


 助けを求める様にシルバーさんの方を見るも、既に顔を背けて知らんぷりモードに入ってしまっている、自分が標的にされてないからってちょっとズルくないですかシルバーさん?


「ふふふ、今ですよ雷鳥さん、あの金髪美少女をかっさらって巫女に洗脳ちょうきょ……って、あれ?あららららら?」


 巫女服姿の少女の上に降り立ったタマゴ鳥が、少女の肩の布に足の爪を食い込ませ、獲物を持ち去る猛禽類の様に飛び上がる。


『カエルヨー』


 片言の言葉使いで鳥が鳴き、そのまま懸架するように少女ごと空を飛び去っていく。

 なにあれ、何のために来たのだろうか。


「ああもう!憶えてなさいよ!次こそ巫女にしてやるんだからあああー!!」


 恨み節の様な捨て台詞が虚空に響いて遠ざかっていく。

 うん、心のそこからお断りします。


「……なんだったんですかね、あれ」


 うう、頭が痛い……あんな変な物の見たから脳が拒否反応起こしたのかな……。


「忘れましょう……多分覚えてると良くないわ。」


 そういったシルバーさんの横顔が、本の少しだけ、怪訝そうな表情に見えたのは、一体どうしてだったのだろうか。

 

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