第2話

 いつも通りに案内されたのは、シルバーさんの自室の一つ。

 いや、この人の家なんだから全部この人の自室なんだけど、大体いつも、階段を登って右のこの部屋にいるみたい。

 部屋の中は意外にシンプルで、白い壁に大きめの窓、家具もテーブルやクローゼット、ベットがあるくらいで、エントランスみたいに大っきな絵画が飾られてたりはしていない。

 ただ、窓も家具もアンティーク調で、素人目にもお安い物じゃない事は見てわかる、絶対にホームセンターや普通の家具屋さんで売ってないやつだよアレ、というかどうして一人暮らしなのにベットがキングサイズなんだろ……。

 

 とは言え、私はそんな事にはもうすっかり慣れてしまっているわけで、今も肘掛け付きの椅子に腰掛けてコンビニスイーツを食べている。なんだろうこの場違い感。


「ねぇクローちゃん、買ってきてもらって言うのはどうかと思うのだけどね?」


 向かい側に座ったシルバーさんが、なにやら眉を潜めてこちらを見ている。はて、何かおかしな物買って来たっけ?お菓子は買って来たけど。


「どうかしたのシルバーさん、別におかしくないでしょ? わらび餅。」


「オカシイわよーーっ!!」


「にゃっ!?」


急に声を荒らげないで欲しい、おかしな声がでちゃったじゃん。


「な・ん・で、洋館に住まう美人メイドさんとのお茶会でわらび餅なのよ! 何時も私紅茶入れてるでしょ!? 玉露切らしてるのよ今!!」


 しまった、羊羹にした方が良かったのかな、洋館だけに。


「……なんだか今、部屋の温度が5度くらい下がった気がするのだけどクローちゃん。」


「冷え性ですか?腹巻き買ってきますよ?」


「し・な・い・わ・よ!!」


 むう、わがままな。


「はぁ……まぁいいわ、合わないわけではないし……けど本当に渋いチョイスするわよねクローちゃんは。」


 肩を落として溜息をつきながら、シルバーさんがわらび餅を行儀よく楊枝で口に運び出す。

 何だかんだ言って何時も食べるのだから、最初から食べればいいと思うんだけどなー。


「あー、私お婆ちゃん子だったから、洋菓子より和菓子の方が好きなんですよ、あっ、でも洋菓子も好きですよ? たまにシルバーさんが焼いてくれるケーキとか。」


 これは本当で、シルバーさんは月に一回くらいケーキを焼いてくれる。

 その時に手に入った材料で何にするか決めているみたいで、これがまた絶品。

 考えてみると、私がこうして遊びに来る様になる前は、身の回りの事は全部自分でやっていた筈なんだから、料理が出来ても不思議じゃないのか、コスプレとはいえメイド服だし。


「ふふ、ありがとうね。最近はクローちゃんが色々買ってきてくれるから助かるの、家から出なくて良いから。」


「引き篭もりみたいな事言わないでください、普段は普通に買い物してるんですよね?」


 前々から気になっていた事を聞く、そもそも、外でシルバーさんを見かけた事は一度もない。

 はじめは女装しているからかと思っていたけれど、宅配便には普通にあの格好で対応してるし、そもそも人目を気にするようには見えない。


「んー、食材とかは定期で届けて貰ってるし、必要なものは使用人に連絡してお願いしているのよ、クリーニングは月に一度家まで来てくれて、後は最近はインターネットで何でも買えるじゃない?」


「……なんだか聞き慣れない単語が……ブルジョアジー」


 そっか、こんな洋館に住んでいるだけあって、かなりのお金持ちなのは間違いないのか……けどなんの仕事してるんだろう、まさか本当に貴族とか? いやいやいそんな時代錯誤な。


 でもまぁそれはそれとして、つまり家から出ることはほぼ無いと言うことで、それはあんまり良くないと思うというか……


「んー、じゃあ、デートしましょう?」


「ふぇっ!?」


 デート!?え!?何を急に言い出したのこの女装!?


「ふふ、大方、家から出ないのは良くないとでも言いたいんでしょ? なら、今度の土曜日、二人で一緒にお出かけしましょう?」


「むむぅ……」


 ズルい。


 何故かはわからないけど、たまにシルバーさんはこっちの頭の中を読んでる見たいな反応をする時がある。

 しかもそういう時は、決まって私が悩んで言い出せない時なのだ。

 けど、それがちょっと嬉しい自分も居たりして、その事を問い詰めたりした事は無いわけで。

 

「でも、出かけるって何処に行くんです?」


 顔を見ることはせず、私は尋ねる。顔を上げればシルバーさんのニヤニヤした顔があるのは、見るまでも無く分かっているからだ。


「そうねぇ、実は、知人がこの近くで喫茶店を出した見たいなの。折角だし、そこへ行ってみないかしら?」


 意外、私以外の知り合い居たんだシルバーさん。いや、それは当然居るはずなんだけど、なんだろう、少しだけ、モヤっとした気持ちが浮かんだ気がした。


「わかりました、なら予定開けて置きますね、シルバーさん」


 そう言って顔を上げると、やっぱりニヤニヤした笑顔が見えた。


「ふふ、楽しみね、クローちゃんとのデート。」


 遊ばれてる気がして釈然としない。けれど、その顔が嫌いかというと、どうしても、そうは思えないのであった。


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