シルクロード

神在月

第1話

 私は、歩いていた。

 手にはコンビニのレジ袋、足元にはアスファルトで舗装された道。

 髪は金髪の地毛だけど、何処から見ても何の変哲もない、下校中の女子高生。


 はいそこ、下校中の買い食い禁止とか言わない。


 と言うか、実際には買い食いじゃないのだけれど、食べてないし。と、誰に説明するでもなく、私は辿り着いた洋館の前で足を止めた。


 そう、洋館、物語とかでよく吸血鬼が住み着いてたりする、あの洋館。

 私は慣れた手つきで鍵を開け、金属製の少し錆びついた門を開ける。

 一応言っておくけれど、自宅ではない、私の家はこのすぐ向かい側のなんの変哲も無い一軒家だ。

 ならなんで家に行かずにこっちの玄関を開けているのかというと……


「銀子さーん、食べ物買ってきたよー。」


「はいはーい、いつもありがとうねー」


 返事は、数秒の遅れで帰ってきた。二階の自室の扉が開いて、エントランスの階段を降りてくる姿が見える。


「あ、でもまた銀子さんって呼んだでしょ、シルバーさんって呼びなさいっていつも言ってるのに。」


 目の前に立ったのは、銀の髪を後ろで束ねて、眼鏡を掛けたメイド服姿。身長は私より視線一つ分くらい高いけど、線が細くてすらっとしているせいか、思いの外小柄に見える気がする。


「いや、シルバーさんって言い難いし、大体どっちも本名じゃないんでしょ?」


 メイド服を着ているけれど、家政婦と言うわけじゃない、何故ならこの家にはこの人しか住んでいないのだから。


「嫌よ、銀子なんてお婆ちゃんみたいでしょ、私まだまだ若いんだから、お洒落に呼んで欲しいじゃない?」


 いや、私シルバーさんの年齢知らないし、というか、実はこの人、女性ですらないのだけれど。


「はいはい、確かに若いですねー、でも年取ってもシルバーさんの場合お婆ちゃんじゃなくてお爺ちゃいたたたたたたたたっ!?」


「ふふふ、悪いこと言うのはこのお口かしらぁ?」


 思いきり頬をつねられた、痛い。


「大体性別なんて関係無いの、何処から見ても私は綺麗なメイドさんでしょう?」


 本人も否定はしていないことからわかるけど、いわゆる女装と言うやつ。

 普通に考えたらかなり気持ち悪いんだけど、この人の場合、下手をするとそこらの女の人よりずっと美人に見えることも事実なのだった。

 女装していながらこれだけ綺麗なんだから、普通に男性の格好をしていても綺麗だと思うけど、残念ながら私もこの人が男性としての服装をしている所を見たことがない。


 持っていたコンビニ袋を受け取るとシルバーさんは踵を返して部屋へ向かいながら、私に振り向いた。


「それじゃ、何時もみたいにお茶しましょう、クローちゃん。」


 美園クロー、それが私の名前。


 これは、私とこの少し変わった人との、なんの変哲もない物語。

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