華鳥風月
イロマグロ
プロローグ
序:自画自賛
ある世界の話をしよう。
この世界……、名前を仮に『破綻世界』とする。
破綻世界は率直に言って狂っている。
腐っている。
壊れている。
歪み切っている。
まず、犯罪が多い世界だ(無論我々から見た犯罪行為であり、この世界では合法なものも多い。)
置き引きや万引きぐらいの犯罪では罪に問われないし、銃刀法も存在しない。
堂々と帯刀していたとしても警察(的な役割の組織)は何も言わないだろう。
人身売買など当たり前であり、テロだの通り魔だのは日常茶飯事だ。これは特別治安の悪い街の説明ではない。
世界規模でこんな調子なのだ。
犯罪が多い割にだいたいの都市で町並みは小奇麗だが、これはただ単に医療費や福祉費に行くはずの税金が使われているだけである。(驚くべきことに税金制度は機能しており、民主主義国家が大半である。)
破綻世界において、殺人罪は大した罪ではない。
そこそこの金を積めば即釈放される程度だ。
そもそも、殺人罪で逮捕される人間などほとんどいない。
警察もろくに捜査しようとはしない。
むしろ、強盗や空き巣などの方が大事件とみられる。
さらに、平等という言葉が存在しないのではないのかというほど差別が激しい。
なぜこんなことになっているのか。
普通とはかけ離れた、この世界特有の常識が原因である。
破綻世界では、誰もが自分に何の才能があるのか知っている。
とある儀式をすれば測定が可能、その人物が持つ才能がすべて判明する。
あくまでも才能であり、努力して身に着けることは可能である。
が、単純な心理として、そんなもの知らない方が幸せであり、才能が無いと知ったうえで努力を続けられる人物など稀だろう。
人々は才能に沿った努力を続け、持つものと持たざる者の差は開き続ける。
そのうえ、この才能の数は大幅にバラつきがある。
それゆえ、才能の少ないものは差別的扱いを受け、実の親にすら捨てられる。
………彼らも、そのまま野垂れ死ぬことができればまだ幸せだったのかもしれない。
彼らは死ねない。いや、死ぬは死ぬが蘇る。
この世界における、もう一つの特権。
それが蘇生因数である。読んで字のごとく、これは死亡した時の復活回数だ。
赤い帽子の配管工の残り人数と同義である。
平均100程度、多い者は数十万、少なければ一桁。これもまた差別の原因である。
復活時には健康体に戻るので、この世界の人間は大病や大怪我は『死んで治す』。
ちなみに、蘇りの際に才能が一つ増える。
――――この世界は腐っている
商売敵を蹴落とすため(蘇りには数日かかる)暗殺者が派遣され、殺し殺されたで揉めた挙句により多くの人が死ぬ。
――――この世界は壊れている
生まれつき蘇生因数に余裕がある子供は、あろうことか実の親に何度も殺され、才能を増やそうとする。
――――この世界は歪み切っている
優秀な跡継ぎを増やすために上流階級では一夫多妻は当たり前。
絶望して死のうにも、蘇りは自身の意思と無関係に働く。
親に捨てられ、飢えをどうにかするため犯罪に手を染める子供も多い。
重ねて言うが、この世界は狂っている。腐りきっている。
―――――――――そうなるように作ったのだから当たり前だが。
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