青の廃墟( 7 )

「小さな川が流れていたの」


 アオイは言った。


「草原の中に、いきなり小さな川が流れていたのよ、それだけ」


 小さな川、別に大したことでもなかった。しかし何故か、アオイが、少しぎこちなく見えた。



 校舎を一通り見て回ったが、驚くくらいに何もなかった。ぼろぼろの教室がいくつかあるだけ。そもそも、崩れすぎていてよくわからない部屋もあった。


 正直、完全に手詰まりだ。



 そうして、何もやることがなくなり、適当な教室の床に寝そべっていたとき。


「遊びましょう」


 アオイはこう言い放った。

 まあ、現在とても暇だということは、確かだ。


「遊ぶって言っても、遊べそうなものは特に持っていないけど」


「これがあるじゃない」


 にやり、と笑ったアオイの掌の上には、ブルートパーズが輝いていた。どうするのか見ていると、アオイはそれを両手で包み込んだ。


「いくわよ。せーの」


 と言うと、次の瞬間、アオイは素早く右手と左手を分ける。


「どっちの手に入っているでしょうか」



 ──しょうもない遊びだ。まあ、やることもないし、いいか。確率は二分の一だし、適当に、「右」と答える。


 すると何故か、アオイは、とても悲しげに、笑って、言った。


「チトセは、ここにいては駄目」


「いきなり何を言い出すんだ」


 アオイは私を無視して、続ける。


「私は、貴方とは違う」


 話がさっぱりわからない。急に、どうしたのだろう。


 アオイは、ぽつりぽつりと、話し始める。


「チトセが、最初に膝を擦りむいていたとき。膝からは血が出ていたでしょう」


 するとアオイはおもむろに立ち上がり、ガラスの破片を手にとった。


 そして、──自分の腕を、それで思い切り、切り裂いた、はずだった。


「あれ、血が、出てない」


 驚く。アオイの腕は、青白い腕には、傷一つ付いていない。


「私の記憶は全て無くなってしまった。もう、しまった。でも貴方はまだ、きっとぎりぎり、大丈夫だわ」


 そして、私の言葉を待たず、アオイは右手を広げる。その上には、ブルートパーズが輝いている。


 真っ青な瞳が、まっすぐに私を見つめる。


「正解よ、おめでとう。そして」


 それを、大きく振りかぶって、


「さようなら」


 地面に叩きつけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る