青の廃墟( 6 )
「脱出ゲームとかだと、これをはめ込む穴がどこかにあったりするわよね」
というアオイの言葉をきっかけに、私たちは再び青い廃墟を彷徨っている。
私は最初、廃墟から離れよう、と提案した。しかし、そんな私に対してアオイはこう言い放った。
「さっき少し見て来たけれど、ずっと草原が続いているだけよ。第一、あなたのその足ではそんなに歩くことはできないでしょう?」
絆創膏の貼られた自分の足をもう一度見つめる。思い出したかのように鈍い痛みが走った。
──しかし、それ以前に大事なことに気づく。
「それじゃあ家に帰れないじゃないか」
「私は、何処に住んでいたのかなんて覚えていないのだけれど」
アオイが少し苛立ったように感じた。そういえば、彼女は何も覚えていないのだったか。
「──それに、私はここから離れたくない。何故だかわからないけれど、強く、強くそう思うの」
何故か、今にも泣きそうな顔で呟くアオイにかける言葉など、この私には見つかる筈もない。
──そして、私たちはアスファルトの上を歩いている。アオイは先ほど見つけた青い宝石を手に持ち、嵌りそうな隙間を探しているようだ。しかし、こうして改めて廃墟を見回して気づいたことがある。
あまりにボロボロすぎて気がつかなかったが、この廃墟はもともと学校かなにかだったらしい。机も椅子も無いが、蔦が絡まっている壁をよく見ると黒板らしいということが分かった。しかし、建物は一階建てで、それほど大きいようには見えなかった。
「小学校か、中学校か、高校か……」思わずひとりごちる。
するとその言葉が聞こえたのか、少し離れたところにいるアオイが大声で言う。
「幼稚園か保育園かもしれないじゃない」
そうじゃない、と思う。デジャヴだ。しかし、別に言い返す必要もないだろう。アオイは廃墟に戻って随分と元気になったようだ。私は不機嫌な女性の扱いには慣れていない。少しホッとする。
最初にいた部屋はどうやら教室の一つだったようで、廊下に出れば別の教室に行けそうだ。この教室を一通り見て回ったら別の教室も見に行こうか。
ところが、考え事をしていたのがいけなかったのか、窓ガラスの破片に素手で触れてしまった。指先に鋭い痛みが走る。痛っ、と小さく声に出てしまったが、アオイには聞こえていないようだ。良かった。またあのハンカチを赤く染めたくはない。しかし、そうしてふと思い出す。膝の傷口を覆った彼女の純白のハンカチ。
一体どうやって濡らしてきたのだろうか。
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