シナリオ「魁! 課金ガール」

@nakazee

本編

■登場人物

・立山ハガネ(31) … 筋金入りのアイドルオタク。気に入ったコには高額の課金も厭わない。現在は地下アイドル西立川あるみに夢中。


・渡 鉄也(29) … 地下アイドルを口説き落とす事が趣味のイケメンホスト。「クラブ美面(be men)」のNo.13。数多のアイドルファンの、そしてハガネの敵。


・西立川あるみ(17) … ローカルアイドルグループ「めたる組」の青担当。少しづつ知名度も上がってきており、鉄也のターゲットになる。白熱するハガネと鉄也の抗争に否応無しに巻き込まれる事となるが…


・北立川ちたん…めたる組の赤担当


・南立川くろむ…めたる組の黄担当


・白熊…「めたる組」の熱烈ファン、通称“めたらー”の一人。色白巨漢だからその名が付いた。推しメンは、あるみ。


・社員… めたらーの一人。正社員ではなく、英語のshineからその名が付いた。つまりハゲ。推しメンは、ちたん。


・ハチマキ…めたらーの一人。ガリガリで常にハチマキ巻いてる。推しメンは、くろむ。





■コンビニ

店員「ありがとうございましたー」


客が居なくなった隙を見て、レジ前でお喋りする若い男女の店員。


男「えー、たまちゃんって、シー行ったことないんだ?」


女「そーなんですよー。何回か誘われた事はあるんですけどータイミングが合わなくてー」


男「あーじゃあさ、今度の休みの時一緒に行かない? 奢るよ?」


女「え! いいんですかー?」


■同・バックヤード

そんな会話の後ろで、ジュース類を棚に卸す化粧っ気の無い女性。

仏頂面でダルそうに、ただ黙々と手だけ動かしてる。

シフト表片手に飛び込んでくるレジ女。


レジ女「たてやまさん! 立山さん! 今度の10日、あたしとシフト変わってもらえませんか⁉︎」


女性「10日⁉︎」


立山と呼ばれた女性。即答で


立山「ダメ」


レジ女「えーでも、10日あたしとチェンジしたら立山さん2連休になるんですよー? ほら」


立川「2連休とかカンケーないの! うちのコの大事な日なの! アンタ命より大切な約束アタシに破れってぇの⁉︎」


エラい剣幕で一気にまくし立てる立川。


■レジ前


トボトボと帰ってくるレジ女。


レジ男「…やっぱダメだった?」


レジ女「怒られちゃいました」


レジ男「まぁ気にしない。俺の動かせるか聞いてみるよ」


レジ女「立山さんってお子さんいるんですね。まだ若そうなのに…大変だよなぁ」


レジ男「ん?」


レジ女「え?」


レジ男「子供? 立山さんに? 居ないよ」


レジ女「ええ? だってウチのコの大事な日だって。命より大切な約束って!」


レジ男「ああ…“ウチのコ”…」


レジ女「幼稚園の運動会とかじゃないんですか⁉︎」


レジ男「あれはねぇ…」


■ライブ会場

アイドル「ちたんです。あるみです。くろむです。三人合わせて、めたる組です!」


アイドル「聞いてください! ♬金属アレルギ〜〜!」


サイリウム両手に、周りのファン(男性)と掛け声や音頭をピッタリとシンクロさせてる立山。

超・笑顔。


アイドル「あたし、西立川あるみは、今日、17歳になりました! みんな“約束”守って来てくれて本当にありがとぉ!」


イエーィ!

叫ぶファンたち。とりわけ立山、声がデカイ。「はっぴーばーすで!あるみーん!」と揃ってコール。


■レジ前


レジ女「アイドル⁉︎ え? 立山さんアイドルの追っかけしてるんですか? 女なのに?」


レジ男「握手券欲しさにCD何十枚と買ってたな。だいぶ課金してるみたい」


レジ女「課金⁉︎」


立山「おつかれさまでしたー」


返事も聞かず、スタスタとレジ前を通り過ぎていく私服姿の立山。


レジ男「ああ、今日“発売日”か」


レジ女「発売日? 何の?」


レジ男「“ウチのコ”の(笑)」


■CDショップ

本日発売!のPOPが貼られたアイドルグループのCD。

「めたる組♡ 待望の1stアルバム」

パッケージには握手券入りの文字。

それを問答無用で、店頭にあるだけ分を抱えてレジに持ってく立山。


レジ係「えーと…30枚で6万9千円です…」


その爆買いにレジも他の客も目を丸くするが、何食わぬ顔で財布(ベロクロ式)をバリバリ言わせて万札を広げる。


立山「裏にあるのもちょうだい。箱で」


■メインタイトル

『魁! 課金ガール』


■握手会 会場

100人くらいが列を成して「めたる組」の三人と握手してる。

出口近くて不満をこぼしているオタ数名。


デブ「今日の握り、剥がし厳しすぎんよ〜」


ガリ「まぁそんだけ売れてきたってことだよなー」


係員「握手は一人3秒になりまーす!」


ストップウォッチを見て、時間になったら強制終了で“剥がさ”れるファンたち。


ハゲ「ほらフォロワーも三万超えてるし〜!」


デブ「あ〜これ以上人気出ないでほしいッ! あるみ〜〜ん‼︎」


ガリ「くろむ〜ん‼︎」


ハゲ「ちたんそ〜‼︎」


オタ列の中、自分の番をwkwkしながら待ってる立山。


係員「握手は一人3秒までですー。バースデープレゼントはこちらにお願いしまーす」


係員に握手券を渡して、嬉しそうに赤のコ、黄色のコと握手する。

が、緑のコに来た途端に一気にテンションMAX。


立山「あるみちゃ〜〜ん!」


あるみ「おねーさん! また来てくれたんですね!」


立川「来るよ〜“約束”だもん〜!」


あるみ「嬉しいです〜」


握手と言うより、両手を握り合ってピョコピョコ跳ねてる二人。


あるみ「あ、そーいやおねーさんって、名前なんていうんですかぁ?」


立川「(心の声)キターー!」


立川「ハガネ。立川ハガネ」


あるみ「カッコいい! 強そう! あたしたちとお揃だ!」


ハガネ「ホントだ!嬉し〜!」


係員「時間です」


ベリベリ。親交虚しく剥がされるハガネ。


ハガネ「じゃあ!(口パク)また回ってくるから!」


あるみに手を振るハガネ。あるみも笑顔で振りかえす。

前を向くハガネ。


ハガネ「(心の声)やった! 遂に! 認知して貰えた! 頑張って養ってきてよかったー! この喜びプライスレス‼︎」


嬉しさを抑えきれない様子でグフグフ笑みをこぼすハガネ。懐から出てくる大量の握手券。

いきなり、この会場には似つかわない黄色い歓声が響く。


ハガネ「?」


いかにも、というホストファッションに身を包んだイケメン。

キラキラという効果音まで聞こえてきそう。

周りのキモオタと比べると余計イケメンっぷりが際立つ。

実に嬉しそうな「めたる組」一同。

驚愕するハガネ。


ハガネ「アイツ…⁉︎」


代わりに説明してくれるオタ三人組。


デブ「で、出たー! 地下アイドルを狙い堕としては食い散らかすホスト崩れ! 伝説の出禁王! 渡 鉄也(ワタリ テツヤ)だ!」


ハゲ「1年前のベリーストロベリーベリー事件で行方不明と聞いていたが…生きていたとは!」


ナレーション「説明しよう! ベリーストロベリーベリー事件とは、松戸を中心に人気が出ていたローカルアイドルグループ「ベリーストロベリーベリー」のキャプテン「山苺ももか」が急に謎の引退、メジャーデビュー目前で解散という痛ましき事件の事である。噂ではファンと付き合い出して、そのまま食われてポイされたとの説も出ているが真相は不明だ!」


再現シーン。

どう見てもその鉄也そのもの。


ハガネ「いやいや!明らかだろコレ!火を見るより明らかだろ!」


ガリ「…まさか、あるみんが次のターゲット⁉︎」


ハッと振り返るハガネ。

まんざらではなく握手に応じてるあるみ。


係員(♀)「あの…時間です!」


女の係員を壁ドンする鉄也。


鉄也「すまないが…もう少し彼女を祝いたいんだ。いいかな?」


係員「(赤面)あっ…はいい…」


鉄也「ありがとうお嬢さん」


係員の手の甲にキスする鉄也。


係員「はうぅ!」


あるみ「あーー! 遠藤さんズルいーー!」


係員「すっスイマセン!」


ガリ「終わりだー! アイツに狙われたらぺんぺん草も残らねぇ! 「めたる組」もこれでお終いだぁ…!」


膝から崩れ落ちるガリ。


デブ「そんなの…許せねぇ!」


ハゲ「お、おい!」


制止も聞かずダッシュするデブ。


デブ「おい! その薄汚い手をあるみんから離しやがれ!」


ポカーンとする鉄也とあるみ。


鉄也「ああ、時間だね。ごめんね」


あるみ「あん♡」


パッと手を離す鉄也に対し、名残惜しい感満載のあるみ。

それ見て石炭噛み潰したような顔になるハガネ。


鉄也「じゃ、またね」


デブ「まて! お前の正体はわかってんだぞ! 渡 鉄也!」


鉄也「ほぅ? まさかこんな所でその名を呼ばれるとは。僕も少しは売れてきたのかな?」


デブ「ふざけるな! どーせまたあるみんを食ったらポイしようって腹だろう! そんなの俺たちが許さねぇぞ!」


ハゲ・ガリ「そーだそーだ!」


ハガネ「そーだそーだ!」


鉄也「(平然と)証拠は?」


デブ「しょ、証拠?」


鉄也「この渡 鉄也。天に誓ってそんな不埒はしていないと誓える。それに六本木一番店のホストと有ろう者がそんな真似をしたらどうなるか。少し考えれば分かるだろ?」


あるみ「ホスト?」


鉄也「申し遅れました。六本木ビーメンの鉄也と申します」


手品のようにシュッと名刺を出してあるみに手渡す鉄也。他のメンバーや、係員にも目ざとく手渡す


鉄也「あ、これプライベートLINEなんで、よろしく」


係員「きゃあ!♡」


ガリ「さりげなく連絡先を渡してるぞ!」


ハゲ「何て奴だ。平然とピンチをチャンスに変える。か…勝てねぇ。俺たちみたいなコミュ障にゃ逆立ちしたって勝てっこねぇ…!」


デブ「あきらめんな!くそぅ!こーなったら力づくでも…」


係員「お客様同士のトラブルは困ります。忠告を聞かない場合は出禁になりますよ」


デブ「でっ…出禁んん⁉︎」


あるみ「仲良くしてくださいッ!」


デブ「いや待ってくれあるみん! そいつは…!」


鉄也「客観的に見て、勝手な言い掛かりに飽き足らず、暴力にまで訴えようとしてるのは、間違いなく君たちの方だ」


シャキーン! 白熊たちを指差す鉄也。その先にハガネの姿も。


ハガネ「え? あたしも⁉︎」


デブ「あるみん、聞いてくれぇ!」


鉄也「どちらが危険人物か、火を見るより明らかじゃないか? (あるみ達に)どうかな?」


うんうんと頷くあるみたち。係員。


鉄也「(オタたちにも)君たちは、どうかな?」


戸惑いながらも(周りの反応に倣って)頷くオタたち。

一人が「そう思います」なぞと言い出すと、こぞって同調圧力になる。

あるみとメンバー、スタッフ、オタまで味方に付けてドヤ顔で立ち塞がる鉄也。


鉄也「さ、どうする?」


デブ「〜〜〜!」


ハガネ「あんた達、行くよ!」


デブの腕を掴んで出口に引っ張るハガネ。


デブ「え?」


ハガネ「このままじゃ分が悪い。出直すよ!」


ハゲ「いやあんた何者よ?」


一斉に弾ける帰れコール。

ハガネを先頭に、出口へ向かうガリとハゲ。


デブ「ちくしょー! 覚えてやがれ!」


テンプレ通りの捨て台詞を吐いて、ダッシュで後を追うデブ。


鉄也「(皆に)迷惑かけてゴメンね」


■会場出口

ハゲ「あんた何者だよ! なに仕切ってんだよ⁉︎」


デブ「いや…ありがとう。あのまま残ってたら吊るし上げにされてた」


ガリ「でもどーすんだ? このままじゃあるみんは陥落。めたる組もベリーの二の舞だぞ!」


デブ「だからって…俺たちにゃもうどーすることも…」


ハガネ「諦めたらそこでお終いだよ」


ハゲ「さっきっからあんた何なの⁉︎」


デブ「借りが出来たな。俺は白熊。そう呼ばれてる」


ハガネ「ハガネよ。立川ハガネ」


デブ「強いな」


握手するハガネと白熊。


ハゲ「なにこの流れ?」


白熊「その五月蝿いのは社員。こっちの細いのはハチマキ」


ハチマキ「よろしく」


ハガネ「(ハゲを見て)…社員?」


白熊「英語の方」


ハガネ「ああ…シャイン(笑)」


社員「なんかムカつくなーコイツ!」


ハチマキ「で、どーする?」


ハガネ「対策を練るの。何でもいい、アイツの情報を聞かせて」


社員「えーめんどくせーなー! だいたい話したところであんたに何ができんだよ」


札ビラのように大量の握手券を取り出すハガネ。


社員「え⁉︎」


ハガネ「タダでとは言わない。11月まで使えるシリアルナンバー入りの本物よ。これだけあれば好きなだけ握手できる」


白熊「すごい」


ハチマキ「あんた何枚CD買ったの⁉︎」


社員「何でも言います、お嬢様!」


ハガネ「契約成立ね。でも、やるのはあたしだけじゃない、皆でやるのよ。あたし達の居場所を守るために」


なんかエンディングみたいな雰囲気で空を見上げる三人。


社員「……なんこれ?」


■居酒屋

ハガネ「いやー噂には聞いてけど、まさかこの目で見るとは思わなかったねー」


いきなり生ジョッキの四人。もう半分出来上がってる。


白熊「どの面下げて出て来れるんだって話ですよ。フルボッコにされてもおかしくないでしょフツー?」


ハチマキ「いや、あれはね、そーとーずる賢いですよ。単純に腕力だけならね白熊さんの方が強いかもしれないけど…」


社員「あるみんどころか、スタッフや他のめたらーまで一瞬で味方にしちっゃたもんなぁ…」


ハチマキ「実際、他のめたらーも内心はムカついてるに決まってんですよ。裏連れ込んでヤッちまおうかの世界ですよ。でも…」


社員「それやったら確実に出禁。ファンクラブも抹消でしょ。怖くてとても出来ませんわな」


白熊「そーゆー周りから埋めてくやり方、好きじゃないわ」


ハチマキ「白熊さん、真っ直ぐだからねー」


ハガネ「アイツのさ…」


白熊「ん?」


ハガネ「いや、渡鉄也のさ? アイツと本当の企みとかの言質取れれば、あるみんの目を覚ますこと出来ないかな? 今のままだと、あたしらタダの嫉妬厨じゃん」


白熊「確かに…」


ハチマキ「言ってましたもんね? 証拠は、って。逆に言えば証拠さえあればヤツの悪事を白日の下に晒せるってことですよね!」


社員「でもどーやって?」


白熊「乗り込むしかないかなー」


社員「乗り込む?」


ハチマキ「まさか、アイツの店に⁉︎」


白熊「六本木ビーメンだっけ? 」


社員「ムリだぁ! 敵地も敵地、アウェイじゃねーか! 相手は海千山千のホストだぞぉ⁉︎ 俺たちみたいなコミュ障が乗り込んだって返り討ちになるのがオチだって!」


白熊「死中に活を見出さねば勝てぬ戦もある!」


社員「勝てないから! 特攻する前に玉砕だからそれ!」


ハチマキ「そもそもさ、ホストクラブに男の俺たちがどーやって乗り込むの? 入口で止められない?」


白熊「せめて女の子が居たらなぁ…」


ハチマキ「………」


社員「………」


三人の視線がハガネに集まる。


ハガネ「エッ! えっ? ええっ⁉︎」


■ホストクラブ前

煌めく看板「ホストクラブ 美面(Be Men)」

精一杯の女子力アップの姿でホストクラブの前に立つハガネ。愕然とした顔。


ハガネ「…嘘でしょ?」


呼び込み「いらっしゃいませ〜」


慌てて背を向けるハガネ。

代わりにOLらしい2人組が店内に入っていく。


OL「ケンちゃんいるー?」


呼び込み「勿論です、お待ちしておりましたよ」


OL「ホント⁉︎」


時計を気にしてオドオドと挙動不審のハガネ。


ハガネ「も〜〜みんな本当に来るのかな? やだよあたしだけなんて…」


声「ハガネちゃん〜おまた〜」


現れるデカい図体のドレス姿の女。いやさオカマ。


オカマ「あんもぉ、ギリギリ間に合ったかしら?」


ハガネ「白熊さんん⁉︎」


白熊「やだもぉハガネちゃん、シオリって呼んで♡」


ハガネ「ええええ⁉︎」


白熊「ほら、行くわよ」


臆さずカツカツとヒールを響かせて店内に入っていく白熊シオリ。


白熊「(呼込に)鉄也いる?」


呼込「勿論です。お待ちしておりましたよ」


白熊「ホント⁉︎」


呼込「お嬢様とオカマ様、ご案内でーす!」


白熊「ヤダ、バレてる?」


ハガネ「バレるっしょそりゃ」


■廊下

ピンクとブルーの照明の廊下。

壁には在籍ホストが人気(売り上げ)順に並んでいる。


ハガネ「いた!」


渡 鉄也。13位。


ハガネ「うわ〜ビミョ〜」


その後ろを女性客たちが通り過ぎていく。


客「今週こそトオルを一位にしないと!」


客「だよね! うちらが応援しないと出世できないもんね!」


ハガネ「………」


微妙な顔になるハガネ。


■店内

活気に満ちてる店内。

大はしゃぎの女性の周りを取り巻いてコールしてるホストたち。

オタ芸のように一糸乱れぬ動きを見せる。

「うわああ」と圧倒された顔でその様子を見てるハガネ。無意識に白熊の腕を掴んでいる。

常連のような顔で細巻きタバコくわえてる白熊。


ハガネ「なんか…現場のあたし達みたい。オタ芸打って、コールして」


白熊「そうかもね。違うのはコールされてる側が「客」ってことだけかな?」


客「も〜ケンジ上手い〜! よ〜し、ドンペリ3本入れて!」


ホスト「ハイ頂きました〜!」


ホスト「ケンジさん、ドンペリ3本頂きました〜! 累計、現在5位!」


歓声、


ケンジ「(客に)ありがとう、俺、絶対ナンバーワン取るから!」


客「ケンジなら行けるよ! 今週給料入るから最後まで応援するね!」


ハガネ「あのコも…」


白熊「ん?」


ハガネ「いや、ここの客も給料ぜんぶブッ込むのが当たり前なんだなぁって。すごく気持ちわかる」


白熊「そうね」


ハガネ「初めてあるみちゃん見た時さ、このコを育てたいって本気で思ったんだよね。ホコ天の現場で、緊張で上手く踊れなくて泣きそうになってるあるみちゃん見てさ」


白熊「うん」


ハガネ「少しづつ推されてきて、どんどん可愛くなってきて、ああこのコはどこまで高みに登れるんだろう。このコの翼になりたい、その為には全てを犠牲にしても構わないって」


白熊「そうね」


ハガネ「端から見たら、ただ名前覚えて欲しいだけの認知厨だけどね。ハガネなんてハンネも見え見えだし」


白熊「それでいいんじゃない? だってそれ以外の生き方できないんだもの。一所懸命生きてる人間を誰も否定できないわ。あるみんと一緒に貴女も輝いてる。あたしはそう思うわよ」


ハガネ「ありがと、ママ」


白熊「うん。…ママじゃねーし!」


鉄也「おまたせー。なんだ、ちゃんとした格好できんじゃん」


前の席にドカッと座る鉄也。


鉄也「そっちの方が、よっぽど魅力的だし素敵だぜ?」


ハガネ「え? バレてる?」


鉄也「バレるっしょそりゃ(笑)」


白熊「あたしは?」


鉄也「(ガン無視)で、何の用?」


ハガネ「え?」


白熊「ガン無視かよ…」


鉄也「ただ遊びに来た訳じゃないんでしょ? 何が訊きたいの?」


スッとハガネたちの周りを囲む後輩ホストたち。


白熊「やだ? 囲まれた?」


ハガネ「そこまでわかってるなら話は早いわ。あるみちゃんにこれ以上近づかないで」


鉄也「ふ〜ん、嫌だと言ったら?」


ハガネ「あるみちゃんに、アンタの過去をぜんぶ話すわ。最低の男だってことをね」


鉄也「ふ〜ん」


ハガネ「あたしを舐めないでよ。これでもあるみちゃんと相互フォローし合ってる。直接垂れ込むこともできるんだから!」


白熊「あんたいつの間に⁉︎ ずるい!」


ハガネ「今はそれどころじゃないでしょおお!」


鉄也「そうみたいだね。立山ハガネさん」


ハガネ「…え? 何で私の名前…」


鉄也「彼女のフォロー。よく見てみ」


慌ててスマホでTwitterを開き、あるみのフォローを見てみるハガネ。

自分の名前の下に「渡 鉄也」


ハガネ「えええ?」


鉄也「いまから敵陣に乗り込むってことを堂々とツイートするのはどーかと思うよ。危機感なさすぎ」


ハガネのツイートをわざわざ見せる鉄也。


白熊「ちょ! あんた何やってるの⁉︎ 敵に情報ただ漏れじゃない!」


思わず唇嚙みしめるハガネ。


鉄也「そもそもさ、俺があるみちゃんを狙ってるとして、それを止める権利が君らにあんの?」


ハガネ「それは…!」


鉄也「あるみが嫌がってるなら話は別だぜ」


白熊「ついに呼び捨てに…!」


鉄也「でもさ、ほら」


LINEを見せる鉄也。

嬉しそうに会話してるあるみと鉄也。

「明日シー行こう」「嬉しい♡」なんて会話も。

目を見開いてるハガネの後ろで、ムンクの叫びみたいな顔の白熊。


鉄也「まさか今時、アイドルは恋愛禁止〜!なんて言い出すんじゃなかろうね?」


ハガネ「ちゃんとした恋愛なら問題ないわ! そうじゃないから問題なんでしょ!」


白熊「そーだそーだ!」


ハガネ「目的はなに? どーせまた食ったらポイなんでしょ? アイドルを食ったって箔が欲しいの?」


白熊「なら別にあるみんでなくてもいいじゃない⁉︎ もっと売れてるアイドル狙えばいいでしょ?」


鉄也「君ら、勘違いしてないか?」


ハガネ「勘違い?」


鉄也「彼女はアイドルである前に、フツーの女の子なんだぜ? 恋もしたい、遊びたい、でもアイドル活動も頑張りたい。そんなあるみを少しでも助けてあげたいと思うのはそんなにおかしなことか?」


ハガネ「純粋にファン故って言いたいの…? ふざけないで!」


鉄也「じゃあ逆に訊くけどさ、あるみのファンを見て、誰か彼氏にしたいと思うか?」


ハガネ「え?」


鉄也「すぐ横にも居るじゃないか、熱烈なファンが。彼…彼女?」


白熊「男よ!」


鉄也「彼氏にしたいか? これ?」


じ〜〜っと白熊を見上げるハガネ。目が合って、思わず目を逸らす。


白熊「なによ⁉︎」


鉄也「正直だね」


白熊「あんたたち失礼よ!」


鉄也「これをあるみに置き換えて考えてみなよ。四六時中好きでもないオッさんたちに追い掛け回されて。プライベートは無いに等しい。そんな奴隷みたいな暗い青春をあるみに押し付けたいのか? たまには普通の女の子の幸せを味あわせてあげたいとは思わないのか?」


ハガネ「それは…欺瞞よ!」


鉄也「いいや真実だね。そして俺は自慢だが見た目だけはイイ。女なら誰だってイケメンとデートしたいだろ?」


白熊「そうだけどぉ…」


ハガネ「お前が納得すな!」


鉄也「君らファンは、あるみの幸せを願うと口では言いながら、その実は身勝手な理想に縛り付けることしかしない。俺はそれを一瞬だけでも解き放つ。俺と一緒に居る時だけは、あるみはサチコで居られる。それのどこが問題なんだ?」


白熊「でも食ったらポイでしょーがよ!」


鉄也「帰ってきてほしくないのか?

俺が手放さなかったらサチコは二度とあるみに戻らなくなるぞ! 責任とって結婚すれば満足か? それでいいのか?」


白熊「それは…」


鉄也「ベリーストロベリーベリーの時は残念だった。ももかはああ見えてとても心が弱いコだった。立ち直るのに1年かかったよ。もちろんその間支え続けた」


白熊「ホントそれ?」


鉄也「(頷く)でもサチコは強い。あの子は俺との思い出を糧に、あるみとしてステージでより輝けるはずだ。頼む、俺を信じてくれ」


白熊「…くううっ! 悔しいけど、あんたを信じるわ。ウチの子をよろしくお願いしま…」


ハガネ「それでいいの? あんたのファンは?」


鉄也「……ん?」


ハガネ「あたし、ずっと思ってた。形態は違っても本質は同じ。アイドルもホストも、それを取り巻くファンの構造まで」


鉄也「…ほう?」


ハガネ「あなたも一位になりたいんでしょう? 渡 鉄也さん。現在…」


鉄也「…13位。ぶっちゃけナンバー争いの圏外だ」


ハガネ「でもファンはいる。無理だと思っても貴方を信じて懸命に応援してる」


鉄也「なにが言いたい?」


ハガネ「その命より大事なファンを裏切って楽しいのかと訊いてるのよ!渡鉄也!」


鉄也「………」


無言でハガネを睨みつける鉄也。

一歩も動じないハガネ。


鉄也「(唐突に) カオリー!」


向かいのテーブルから現れるキャバ嬢みたいな女性。結構酔ってる。


カオリ「ちょっとテツヤー!おーそーいー」


鉄也「ごめんな。(ハガネ達に)このコはカオリ。俺の一番の上客、つまり俺のエースだ」


カオリ「えー、オネーサンも鉄也の太客? ぶっちゃけ負けねーから!」


鉄也「いんや、ただの初回」


カオリ「なーんだ、よろしくッ」


鉄也「カオリさぁ、西立川あるみって知ってる?」


カオリ「…誰?」


鉄也「地下アイドル」


カオリ「えー知らねー(笑) なに鉄也狙ってんのー?」


鉄也「まぁな」


カオリ「てか地下アイドルなんかダサいの狙わないでさぁ、もっとデカイのいこうよー。あゆみたいなさー」


鉄也「いやー、あゆクラスはアキラさんでも厳しいなー」


カオリ「そぅお?」


ハガネ「あの…」


カオリ「なにー?」


ハガネ「悔しくないんですか…? その…自分が応援してるコ…ホストが違う女を狙ってるだなんて」


カオリ「んー、そーゆーのはもう通り過ぎたなかなー」


ハガネ「え?」


カオリ「だってそーゆーとこ含めて好きになっちゃったんだもん。それに有名人落としたらそんだけ箔つくしー。そしたらあたしらの株も上がるしー」


ハガネ「………」


カオリ「鉄也さ、まだ全然ナンバー行けてないけどさ、あたしは絶対!行けるって信じてる! だからソープも辛くないッ! あたしが頑張ればその分出世できんだもん。やるっしょ? ふつう」


ハガネ「カオリさんの推しメンなんだね」


カオリ「推し? んーまぁーそーゆーこと!」


ハガネ「わかるよ」


カオリ「嬉しー! おねーさん握手! (鉄也に)身を削って育ててるんだからなー、ナンバーならないと許さないぞおー!」


鉄也「わかってるって! ほら戻った戻った!」


カオリ「はいー早くねー」


鉄也「おうー」


立ち上がるハガネ。


ハガネ「帰るわ」


鉄也「もういいのか?」


ハガネ「ええ…。男としては、アンタはやっぱり最低よ。でもアイドル…ホストとしては、尊敬できる。必死なんでしょ? 応える為に」


鉄也「…………」


白熊「(よく飲み込めてない) ん? ん?」


ハガネ「あるみちゃんは渡さない。でもアンタの生き様は否定しない。また“現場”で会いましょう」


鉄也「ああ…」


後輩「2名様お帰りですー! お嬢様とオカマ様ー!」


ハガネの後ろ姿をじっと眺めてる鉄也。


■店外

白熊「なんだかよく分からなくなっちゃったわね。煙に巻かれた感じ?」


ハガネ「そうだね。でも収穫はあった。結局、好きで付き合おうとしてる訳じゃないってこと」


懐からICレコーダーを取り出すハガネ。


ハガネ「言質、頂きました」


白熊「やるじゃないハガネちゃん! この策士!」


ハガネ「最低っぷりを示す証拠にはならないけど、少しは考える材料になるかな…」


白熊「そーね。決めるのはあるみんだもんねぇ…」


ハガネ「うん…」


不意に鳴り出す着信音。

太陽にほえろ!のテーマ


白熊「わたしだ。ああ、社員さん? …え? なんだって⁉︎」


慌てて通話中のスマホに耳を近付けるハガネ。


社員「(声)悪い、もう協力できない」


白熊「おいちょっと待て!おい!」


■ファミレス(?)

まるで面談のように向かい合って座ってるハガネ・白熊組と社員・ハチマキ組。


ハガネ「どーゆーこと? なんで急に…」


社員「僕たちが君たちに協力しようとしたのは「めたる組」存続の危機。そう思ったからだ」


ハガネ「でしょ? だったら…!」


ハチマキ「状況が、変わったんですよ」


ハガネ「状況?」


社員「一時間前、公式から正式に発表があった。めたる組はメンバーが増える」


ハガネ・白熊「え⁉︎」


慌ててスマホを調べる二人。

Twitterを最新ツイートで更新すると公式アカで情報が流れる。


社員「新メンバー3名加入。東中野あえん、西日暮里にける、そして北千住まぐねだ」


ハガネ「エリア広ッ!」


社員「合計6名。仮にあるみんが脱退したとしても5名。めたる組は安泰だ」


白熊「おいちょっと待て!そんな理由で…」


ハチマキ「僕たちには立派な理由です! 忘れたんですか? もともと僕はくろむん推し。社員さんはちたんそ推しですよ!」


白熊「でも…!」


社員「こないだアイツと揉めた時、俺もハチマキ君もそっちの一派に思われてる」


ハガネ「そっちって…」


社員「君らはあるみん推しだ、必死になるのはわかる。でも俺たちにゃ関係ない! 一派と思われてトバッチリを食うのはゴメンなんだよ! 握手券は要らないからもう関わらないでくれ!」


白熊「キサマーー!」


女装姿のままブチ切れて、社員の胸ぐら掴む白熊。


ハガネ「ダメーー!」


ハチマキ「白熊さん落ち着いてー!」


白熊「保身ばっかり気にしやがって! それでもお前ら“めたらー”か⁉︎」


社員「ファンを裏切ってホストに尻尾振る女なんて、めたる組には要らない!」


白熊「まだ言うかーー!」


ハガネ「やめてーーー‼︎」


■コンビニ(朝)

ボーっとした顔でレジ内に突っ立っているハガネ。


チーフ「立山さん、大丈夫? ひどい顔だよ」


ハガネ「ああ…ちょっと昨夜トラブルがありまして…」


■回想

警官に両腕掴まれ、パトカーに押し込まれようとしてる白熊(女装)

目の周りに青タン作って怒り収まらぬ様子の社員と、オロオロしてるハチマキ。

連行される白熊に追いすがろうとするハガネ。

スローモーション。BGMは聖母たちのララバイ。


■コンビニ

ハガネ「朝の4時までかかりました。警察の取り調べなんて受けたの31年間生きてて初めてっスよ」


チーフ「そう…なんだ…。じゃ、じゃあ眠気覚ましに新聞出しといてもらえるかな? 人居なくてさ、今まで出せなかったんだよね」


ハガネ「ダメじゃないスか、何やってんすか」


フラフラと雑誌コーナーへ向かうハガネ。


ハガネ「てか、宮野くんどうしたんですか? 多摩川さんも居ないし…」


チーフ「ああ、昨日ディズニーシーではしゃ過ぎて、揃って寝坊だとさ。いい身分だよねえ、羨ましいよホント」


ハガネ「(思い出す)ああ…ヘェ〜」


新たに届いたスポーツ新聞を広げて、購入しやすいようにセットする。

黙々と手を動かしていたハガネだが、ふと新聞(Tスポ?)の一面が目に入る。

一気に覚醒するハガネ。


ハガネ「ええええ〜〜っ‼︎」


■繁華街

午前中の静かな繁華街をコンビニのユニフォーム姿で、手にスポーツ新聞握りしめたまま走り抜けるハガネ。


■ホストクラブ美面

午前中なのにハイテンションで営業してる美面。

そこへ駆け込んで来るハガネ。


ハガネ「渡鉄也いる! 話があんの!」


呼込「ちょっと何ですかアンタ!」


ハガネ「いいから呼んで! 早く‼︎」


呼込「困ります! 痛客だ!店長ーー!」


■美面・従業員トイレ

スポーツ新聞を手渡すハガネ。


ハガネ「これ」


一面は「未成年・地下アイドル! 酒とタバコとニャンニャンの実態!」

ツインテールの少女とホスト風男とのキス写真。目線こそ入ってるが、片方はどう見ても鉄也。(ピアスが同じ)

他にもタバコを手にしてる写真や、缶チューハイを飲んでる写真も。


鉄也「ええ⁉︎」


ハガネ「これアンタでしょ? 相手は…あるみちゃん?」


鉄也「ウソだろ…なんでこんな…!」


ハガネ「今はまだ名前出てないけど、こんなのすぐ特定される。あんた言ってたよね? 人並みの幸せを与えたいって。これのどこがだよ! 女の子の人生ぶっ壊して何が楽しいんだよ!」


鉄也「違う!」


ハガネ「何が⁉︎」


鉄也「確かに写真は撮ったさ。記念撮影のつもりで…でも、全部あるみのスマホでだぞ」


ハガネ「え…?」


鉄也「俺の手元には一枚もない。疑うならあるみに直接聞けばいい。この写真も…全部あるみのスマホの中のやつだ…」


タバコ咥えてVサインの二人。


ハガネ「どーゆーこと…?」


鉄也「わからない。手違いで流出したのか、あるいは…」


ハガネ「…まさか! あるみちゃんが自分で? なんのために?」


鉄也「そんなの俺が知るかよ!」


完全に目が泳いでいる鉄也。ヤバイヤバイを連発。爪を噛んで、いつものクールさをどこかに置き忘れたよう。

ため息を吐くハガネ。


ハガネ「相互フォローしましょう。あたしたち」


鉄也「え?」


ハガネ「一時休戦。情報を共有しましょう。何かわかったら教えて。こっちも何かあったら教えるから」


鉄也「ああ…とりあえずあるみに聞いてみる。わざとなのか、違うのか」


ハガネ「お願い」


出て行こうとするハガネ。


鉄也「おい!」


ハガネ「ん?」


鉄也「…すまねぇな」


ハガネ「あんたもあのコの涙、見たくないんでしょ? お互いさま」


鉄也「…そうだな」


ハガネ「じゃね! あるみちゃんの件はよろしく!」


(注:実際は、昨日の今日でこのような展開はあり得ません。理詰めなら後1日必要です。が、長くなるだけなので敢えて映画的嘘をつきます)


■美面 入り口

外に出た途端、鳴り出すスマホ。

液晶画面を見て、電話をかける。


ハガネ「もしもし、ハチマキさん?」


■オフィス街

スーツを来て、オタの空気が微塵も出てないハチマキ。


ハチマキ「もしもしハガネさん? 関東スポーツ見た?」


ハガネ「やっぱり気付くかぁ…。その件で、例の鉄也んとこ乗り込んだ」


ハチマキ「ええ⁉︎」


ハガネ「写真撮ったのは間違いないらしいんだけど、流出させたのはあるみちゃん本人かもしれないんだよね。あるいは事故?」


ハチマキ「あるみんが⁉︎ 何のために?」


ハガネ「それをいま鉄也に訊いてもらってる」


ハチマキ「アイツ信用できんのか⁉︎」


ハガネ「今は信用するしかないよ。他に手がないんだし…」


ハチマキ「むうう…。2ちゃんでも大荒れだし、Twitterもブログも大炎上中。このままだと公式に声明出るんじゃないかな。こんな大変な時期に白熊さんとは連絡取れないし…」


ハガネ「そーだ忘れてた! 社員さんは、なんて?」


ハチマキ「社員さんと連絡つかないんだよ。既読にならないし…。まさかブロックしてんじゃないだろうなぁ」


ハガネ「社員さんが取り下げないと、白熊さんガチで刑務所行きだよ!」


ハチマキ「さすがに初犯でそれはないと思うけど…エライ剣幕で怒ってたからなぁ…示談に応じないつもりなのかな?」


ハガネ「ああもう…身内で争ってる場合じゃないのに…!」


ハチマキ「明日のライブ、新生めたる組の初披露があるって噂だから、もしかしたら社員さんも…」


■ライブ会場

すでに出来てる行列。

会場入り口には大きな貼り紙。


『西立川あるみは体調不良の為、本日のライブは欠席させて頂きます』


なんだよそれー! 説明しろよー!

例のスポーツ新聞片手に殺気立ってるあるみ推しの面々。それを冷ややかに眺めている他のメン推し連中。

呆然とその光景を眺めてるハガネとハチマキ。


ハチマキ「…事実上の切り捨てにきたか…」


ハガネ「えっ?」


ハチマキ「今日披露するのはあるみん抜きの5人のめたる組だ。つまり、新生めたる組にあるみんは居ませんよって公式アピールなんだろうな」


ハガネ「そんな…! そんなこと…!だって誰が流したかまだ判ってないのに」


ハチマキ「誰が、なんてもう関係ないんだよ。未成年のあるみんが酒タバコ、おまけあんな写真まで…。公式としては“そんなコは最初から居なかった”事にせざるを得ないだろうさ」


ハガネ「でも…」


ハチマキ「あのモー娘の加護ですら喫煙でアウトだったんだ。ここまで出ちゃうと…もうどうしようもないかもな」


ハガネ「そんな…!」


糸が切れたようにガックシ肩を落とすハガネ。呆然と視線を這わせる。


ハガネ「…社員さん…?」


ハチマキ「どこ?」


ハガネが指差した先に社員の姿。

こっちに気付いて慌てて逃げ出す。


ハチマキ「え? 社員さん⁉︎」


ハガネ「待って!」


ハチマキを追いかけるハガネ。


■路地裏(会場裏?)

息を切らせて駆け込んでくるハガネ。

社員の姿は無い。


ハガネ「何なんだよもう…! 何なんだよ‼︎」


路地裏の夜空に絶叫するハガネ。

聞こえてくるのは遠くのサイレンのみ。

顔を抑えて泣き出すハガネ。


ハガネ「誰も幸せにならないって…こんなのありかよ…‼︎」


立ち尽くしたまま肩を上下させてるハガネ。

入場開始したらしい。遠くから雑多な騒めきと拡声器の声が聞こえてくる。

戻ろうとしないハガネ。

じっと会場入り口の方向を見つめている。

やがて、ゆっくりとスマホを取り出す。

開くTwitter。

すでに鍵が付けられてるあるみのアカウント。

それ以前の投稿は「裏切られた」「このヤリマンビッチが!」といった恨み節のオンパレード。

ハガネ、Twitterのメッセージを起動。

新規で、あるみの名前を入力する。

あるみのアカウントのメッセージが開く。


ハガネ「こんにちは。なんか大変なことになっちゃいましたね。心無い書き込みとか多いけど、あるみちゃんのしたことは一人の女の子としてはけして間違ってません。同じ女だからわかる、うん! とりあえず私はこれからもあるみちゃんを応援し続けますので、よろしくです!

追伸 好きに生きていいんだよ」


躊躇いながらも、送信。

メッセージが貼り付けられる。


ハガネ「…来ないだろうなぁ…」


自嘲気味に笑い、首を振るハガネ。

そのままポケットにスマホを仕舞おうとした時に、響くメッセージの着信音。

画面を見るハガネ。


ハガネ「……ウソ…‼︎」


ドアの閉まる音がして、ハッと振り返るハガネ。

大きなマスク姿で、大きな荷物を抱えて、スマホ片手に立ち尽くしている少女。

ハガネを見て「あっ…」といった表情。


ハガネ「……あるみ…ちゃん?」


小さく頷く少女。

そんな少女をただ見つめるハガネ。

ポツポツと雨が降り出して来る。


■カウンター

本降りになりつつある窓の向こう。

白いカウンターに置かれるペーパーカップのホットコーヒー。


ハガネ「飲みなよ、暖まるよ」


無言で頷くあるみ。


ハガネ「ここは大丈夫。あたしの店だから、安心して」


カメラ引くと、ハガネのバイト先のコンビニのフードコーナー。


■レジ

レジ女(多摩川)「立山さん、なんで女のコ連れ込んでんですか? しかもあんなドヤ顔で…」


チーフ「俺に聞くなよ!」


■フードコーナー

ハガネ「ま…さ、この騒ぎもいずれ落ち着くし。誰が写真を流したのか犯人探してるから。だからさ、安心して…」


あるみ「めたる組…クビになるかもしれません。たぶん…なります」


ハガネ「…そっか」


あるみ「おねーさんには…ずっと応援してもらってたのに…いつも観に来てもらってたのに…あたし…」


とうとう大粒の涙を溢すあるみ。


ハガネ「あーもう、大丈夫。大丈夫だから」


あるみを抱きしめ、背中をやさしくポンポンするハガネ。

一層ザワつくレジ。


■レジ

レジ女(多摩川)「ポンポンしてます! ポンポンしてますよ立山さん!」


チーフ「ちょ! 声が大きい!」


レジ男「おはよーございまーす」


多摩川「宮野くん! 大変! 立山さんレズ疑惑!」


宮野「え? (あるみを見て)あれ?」


■フードコーナー

あるみ「…あれ…違うんですよ…」


ハガネ「うん? 違う?」


あるみ「タバコとか…お酒とか…あたしやってません。エッチなんてしてません。そー見える様にって…鉄也さんが…演出だって」


ハガネ「んん? 鉄也が? 演出?」


あるみ「キスは…しました。でも、チュッって軽いやつですし。タバコも咥えてたら不良に見えるよなーって、やってみてーって。誰かに見られたら困るから嫌だって言ったんだけど、まぁあたしのスマホで撮るんならいいかなって…」


ハガネ「それ、ホント⁉︎」


あるみ「ええ…ハイ」


ハガネ「やった! これで疑惑が晴れた! 鉄也のヤツ、何やらせてんだよ…」


あるみ「でもでも、誰も信じてくれなくて、あたしが勝手に自分でバラしたことになってるし…」


また泣き出すあるみ。

言葉に詰まってしまうハガネ。


宮野「あのー、ちょっとイイすか?」


ハガネ「なんだよリア充」


宮野「うえ?」


ハガネ「タマちゃんと二人でディズニーシー行くような輩が来るとこじゃねぇんだよ。とっとと戻った戻った」


宮野「そのコ、俺らと同じ日にシーにいたコっすよね?」


ハガネ「え?」


あるみ「え?」


同時に顔を上げるハガネとあるみ。


宮野「そのアタマ(ツインテール)とそのニーソ(猫プリントニーソ)、見覚えあんなーって。ほら」


自分のスマホを見せる宮野。

動画を再生。

デカイ船の舳先(アメリカンウォーターフロントのSSコロンビア号?)をバックに、どセンターに写ってる多摩川。


宮野『(声)楽しいですかー?』


多摩川『サイコーでーす!』


ハガネ「ケッ!」


宮野『今日は、この後どーしますか?』


多摩川『二人で食事してぇ、パレード観てぇ、お泊まりエッチです! やだもー恥ずかしー!』


ぶもっ! 鼻の辺りから変な音を出すチーフ。

顔を真っ赤にして絶叫する(現実の)多摩川。


多摩川「みーくん‼︎(怒)」


宮野「あ、ごめん」


ハガネ「あんた何言わせてんの…?」


あるみ「エッチしたんですか…?」


宮野「………わかった? 今の後ろ」


ハガネ・あるみ「ええ⁉︎」


注視するハガネとあるみ。

もっかい再生される動画。

指でスワイプすると拡大される後ろの風景。

そこに写っているあるみと鉄也。


ハガネ「あ…!」


喫煙所でタバコ吸ってる鉄也。

あるみに火の点いたタバコを差し出し、咥えてみろアピール。

嫌々ながらも咥えるフリをするあるみ。

それをスマホで撮影する鉄也。

顔の向きとか、指先とか、妙に細かい演出。


あるみ「そう! これですコレ!」


自分のiPhoneのフォトライブラリーを皆に見せるあるみ。

完全に一致。


宮野「あ、やっぱ? なんか目立つなーって、ずっと気になってたんすよ」


ハガネ「宮野! お手柄! あたしの休みあげる!」


宮野「マジすか! やった!」


ハガネ「コレLINEでちょうだい」


宮野「いっすよ」


多摩川「やだよ! あたしが恥ずかしいだけじゃん⁉︎」


ハガネ「そこは人助けだと思って!」


多摩川「知らないコの為に、なんで自分の恥を拡散しなきゃならないんですか!」


宮野「いいじゃんそれくらい。それに今更隠す必要ないだろ?」


多摩川「そーだけどぉ…」


ハガネ「え? あんた達…もうそーゆー関係?」


宮野「ええ、まぁ。な?」


多摩川「………バカ」


ハガネ「……リア充爆発しろ」


チーフ「うああああん!」


急に絶叫して床に突っ伏し号泣するチーフ。


ハガネ「えーーーそっちーー⁉︎」


チーフ「いつもこーだ! 俺が惚れたコはいつも誰かに奪われちまう!やっぱり若くてイケメンがいいのかー!ちっくしょーー‼︎」


多摩川「え? チーフ? え、嘘?」


宮野「(チーフに)すんません」


多摩川「いやーチーフは…最初っからないなー(笑)」


宮野「なんか、すんません」


チーフ「うああああんん!!」


ハガネ「めんどくせーなーもー」


あるみ「アットホームな職場ですね」


ハガネ「あるみちゃん、世間ではそれはブラックと呼ぶのよ」


あるみ「そうなんですか?」


何気なくガラス窓の向こうを見る多摩川。そこに貼り付いてる顔。


多摩川「(絶叫)ひゃあ!!」


ハガネ「‼︎ ……社員さん?」


宮野「知り合い?」


ハガネ「ちょっとこのコ絡みで…(外に出る)」


皆が唖然としてる中、外に出て社員を引き連れて来るハガネ。


ハガネ「(社員を引っ張りながら)…何やってんですか? なんで逃げたんですか!」


社員「いや、あの…」


皆の視線に気づいて会釈する社員。

あるみの横に座らされて小さい身体をより小さくさせる。あるみとは目を合わせられない。


ハガネ「あたしと同じ、このコのファン。正確にはこのコとは違うコのファンだけど…」


宮野「ああ! じゃあ彼女が立山さんの追っかけてるアイドル?」


多摩川「え? このコが⁉︎」


あるみ「西立川あるみです…」


多摩川「本名?」


宮野「んな訳ないっしょ。やっぱなー、見た時から可愛いと思ってたもんなぁー」


多摩川「……あん?(怒)」


ハガネ「ハチマキさん心配してましたよ。白熊さんを許せない気持ちはわかるけど、今は身内で争ってる場合じゃないです」


白熊「………」


ハガネ「入口のあの貼り紙見たでしょ? 酒もタバコも完全なヤラセ。エッチの事実も無し。なのにあるみちゃん、勝手にクビになりそうなんですよ? そんなの許せます?」


社員「ヤラセ…?」


ハガネ「ええ!」


社員「じゃああのチューの写真は?」


あるみ「………」


黙ってしまうあるみ。目を背ける。


社員「酒タバコなんかどーでもいいんですよ。アイドルが男と…それもよりによってあの渡鉄也とキスしてた。それだけでもう立派な裏切り行為ですよ」


ハガネ「社員さん」


社員「ちたんそ推しの僕ですら許せないと感じるんですから、あるみん推しの方々はそりゃハラワタ煮えくり返るどころの騒ぎじゃないんじゃないですか。クビも妥当だと思いますよ (あるみに)違いますか?」


あるみ「…………」


何も言い返せないあるみ。


ハガネ「待って。あるみん推しならここに居るけど。あたし別に裏切られたなんて思ってない」


社員「そりゃ、ハガネさんは女性だからそう思うかもしれないけど、めたらーの大半は男だ。しかもコミュ障非リアのキモオタだ」


多摩川「よくわかってんだ」


宮野「しーっ!」


社員「キモオタにとっての理想の女の子が、天使が目の前に居る。だから惜しみなく金を突っ込める。なのにその天使が実はそこらのメスガキと同じだったら困るんですよ!」


ビクッと身体を震わせるあるみ。

怒りの顔になるハガネ。

口を開こうとした時ー


多摩川「え? 何なんですかこの人? 超ムカつく」


宮野「おい!」


チーフ「タマちゃん、ちょっと!」


ハガネ「いいよ、タマちゃん。言って」


チーフ「立山さん⁉︎」


多摩川「メスガキで何が困るんですか? あたしらがいつ貴方に迷惑かけました?」


社員「アンタらはいいんですよパンピーなんだから。でもこのコは違う。ローカルとは言えフォロワーも3万人を越える立派なアイドルだ。ファンに夢を売る商売の筈だ。なのに実は男が居ましたなんて許されると思いますか⁉︎ 」


多摩川「アイドルだから恋愛禁止? 理想を裏切っちゃいけない?」


社員「ええ、アイドルならね」


多摩川「それって奴隷と何が違うんですか?」


社員「え?」


ハガネ「鉄也にも言われた。君らファンは幸せを願うと口では言いながら、身勝手な理想に縛り付けることしかしないって。悔しいけどそこだけは同意できる」


社員「あいつの肩を持つのか⁉︎」


ハガネ「(あるみに)鉄也さんのこと、どうなの? 正直に」


あるみ「好き…です…ごめんなさい!」


ハガネ「(社員に)人を好きになる気持ちは誰にも否定できない。それを認めないって言うなら、そんな勝手なヤツこそ、あたしはファンとして認めない」


頷く多摩川。

薄く笑顔を見せるあるみ。


社員「…….わかってないなぁハガネさん!」


声を荒げる社員。


社員「いいですか? 皆が怒ってるのはそこじゃないんですよ! プライベートで何しよーが知ったこっちゃない!酒飲もーがヤニ食おーがセックスしよーが好きにしたらいい! 」


社員「ただ金を取る以上、プライベートは隠し通すのがプロじゃないんですか⁉︎ それが奴隷だって言うなら、世の社会人は全員奴隷ですよ! 」


社員「(多摩川に)アンタ、ムカつく客がいたらどうします? 奴隷じゃないなら当然言い返しますよね? そうですよね?」


多摩川「それは…」


社員「まさか笑ってやり過ごすんですか? それこそ奴隷じゃないですか? 何で我慢するんですか?」


ハガネ「………」


社員「プロだからですよね。仕事だからですよね。だから我慢してる、我慢できる。なのに夢を売るのが仕事のアイドルが『人間だから我慢しません』なんて理屈、どーやったら通用するんですか! プロ失格だと言ってるんです僕は!」


うんうんと頷いてるチーフ。


ハガネ「プロ失格…か、そうだ…ね。写真って証拠が出ちゃったら、なに言われても仕方ないよね…」


あるみ「おねーさん…⁉︎」


多摩川「立山さん…!」


やっとわかったか、満足げな顔になる社員。


ハガネ「でも、その写真が本人の意思に関係なくバラまかれたとしたら? それでもプロ失格なの?」


社員「え?」


ハガネ「これリベンジポルノと同じだよ。あるみちゃんは被害者なんだよ。被害者を叩いて楽しいの?」


社員「ポルノ⁉︎ え? アレ本当にハメ撮りなのか? どこにあるんだ⁉︎」


あるみ「ないです!」


ハガネ「物の例えです‼︎」


多摩川「サイテー!」


天を仰ぎ見る多摩川。

注目してるチーフと宮野。


多摩川「(男二人に)喰い付いてんじゃねーよ!」


社員「ない⁉︎」


ハガネ「さっきからそー言ってんじゃん!」


あるみ「(自分のiPhoneのカメラロールを見せる)これだけです!これだけ‼︎」


宮野「キスまでしといて、最後までやらないって珍しいですよね?」


チーフ「普通はとっくに貫通してると思うよな」


多摩川「そこ! もう黙って! てか黙れ!」


あるみ「まだ一回目のデートだし、エッチ目的だったら嫌だな〜と思ってたら、鉄也さんちゃんと判っててくれて。今日はキスまでねって。一番軽いのチュッって」


多摩川「紳士だねー!」


あるみ「ホントそーなんですよ! 優しいんですよ! あたしのこと本当に好きだから、心も身体もちゃんと守ってあげたいって!」


多摩川「あーーーいーなー! そーゆーの!(チラッ)」


宮野「俺⁉︎」


社員「ホストの手口にまんまと引っかかっちゃって、まぁ(笑)」


あるみ「(激昂)あの人の何を知ってるんですか⁉︎」


社員「知ってますよ。1年前にも地下アイドルを食ってポイしてグループを解散させたA級戦犯だ。そんなヤツを信用する方がどーかしてる!」


あるみ「そんな根も葉もない噂を信じる方がどーかしてます!」


興奮して立ち上がるあるみ。

その肩を抑えるハガネ。


ハガネ「あるみちゃん。気持ちはわかるけど、今はここで言い争ってる場合じゃない。抑えて、お願い。社員さんもオトナなんだから!」


口を噤む二人。険悪な雰囲気でお互い背を向ける。


ハガネ「ねぇ…社員さんはどうしたいの? めたる組が、ちたんそが、活躍できるのが望み?」


社員「……そうだ。俺にとって、ちたんそだけが最後の天使だ。彼女さえ残ってればそれでいい」


ハガネ「ならさ。まだわからない? そのちたんそも、いつ何のタイミングで切り捨てられるか判らないってこと」


ハッと顔を上げる社員。


ハガネ「今回のあるみちゃんみたいに」


社員「なにを…そんな馬鹿な」


ハガネ「ずっと不思議に思ってた。あまりにもタイミングが良すぎるって。まるであるみちゃんを辞めさせる誰かの意思が働いてるみたい」


あるみ「……!」


社員「誰かって…だれ?」


ハガネ「たぶん、めたる組の上に存在する誰か…」


社員「ハハッ! くだらない!(笑) 今度は陰謀論ですか? 不祥事がバレてクビになった、それ以上も以下もないでしょう?」


ハガネ「でも…!」


あるみ「次は…きっとあのコだと思う…」


ハガネ「ん?」


あるみ「次はちたんだと思います。狙われるの」


ハガネ「狙われる? 誰に?」


あるみ「あの…これ内緒にして欲しいんですけど… あたし実は…先生に告白? …されまして……」


ハガネ「ええ⁉︎」


社員「先生って…まさか、秋山たんく⁉︎」


多摩川「だれ?」


オーナー「秋山たんく! 懐かしいなー! 俺が学生の頃の人気バンドのボーカルだよ! 邪眼Z! 代表曲は「セーラー服をマシーンLove!」知ってる?」


多摩川「知りません」


ハガネ「今はこのコたちをプロデュースしてるの。歌もたんくが全部作ってる」


多摩川「へー偉いんだ」


あるみ「最初はレッスンかなと思ったら、呼ばれたのあたしだけで、その…なんていうか…俺と付き合ったら…もっとメイン張らせてやるぞ…って」


多摩川「うわーいるいる! そーやって仕事と恋愛を天秤(はかり)にかける男! マジキモいよねー!(チーフを見る)」


チーフ「なぜ俺を見る⁉︎」


社員「付き合うも何も、あいつ妻子持ちじゃねーか⁉︎」


あるみ「それ言ったんですよ! でも、俺と付き合うのか付き合わないのか、どっちなんだって迫られて…「できません」って言ったら先生、急に不機嫌になって…」


ハガネ「それ、いつの話?」


あるみ「2ヶ月前…かな。それから露骨にあたし以外のメンバー…特にちたんを贔屓するようなって、あたしの知らないうちにメンバーが増えて…気がついたらクビで…」


ハガネ「次はちたんその番…か」


頷くあるみ。


社員「そんな!」


あるみ「あのコ、実は先生のこと大嫌いだから絶対にOKしないと思う…」


ハガネ「社員さん、自分で言ったよね? あるみちゃんが辞めてもめたる組は安泰だって。ならちたんそが辞めてもまだ四人いる。めたる組は安泰だよ。そーゆーことだよ?」


ガッと立ち上がる社員。


社員「そんなの…許せねぇ!」


ハガネ「なら、あの時の白熊さんの気持ちわかるよね? その気持ちを真っ向から切り捨てたんだよ。俺には関係ないって、関わらないでくれって」


ハッとした顔になる社員。

力が抜けたようにイスに座り、項垂れる。


ハガネ「許してとは言わない。協力しあお? ね?」


頷く社員。

笑顔になるハガネとあるみ。


宮野「あのさー、ちょっといいすか?」


ハガネ「なんだよリア充まだ居たのかよ」


宮野「居ますよ!」


ハガネ「チーフ忙しいんだから戻れよ早く」


宮野「いやあのさ、濡れ衣だってのはわかったけど、どーやって(あるみのiPhoneを指す)この写真をリークしたの? そのトリックがわからないと状況変わりませんよね?」


ハガネ「うーーーん…」


宮野「そのたんくってのが限りなく黒幕っぽいけど」


社員「たんくが? 渡鉄也ではなく?」


ハガネ「今回に関しては、鉄也は限りなくシロだよ。アイツがあるみちゃんに近づいたのは、アイツ自身の意思じゃないと思う。依頼されたんだよ。おそらく秋山たんくから仕事として…」


あるみ「依頼? 依頼って何ですか? 仕事って⁉︎」


ハガネ「あるみちゃん?」


別人のように取り乱すあるみ。


あるみ「鉄也さん、仕事で私に近づいたって事ですか? 嘘ですよね! ねえ!」


ハガネ「あるみちゃん、聞いて」


あるみ「聞きたくないです! どうして…⁉︎ 先生も…メンバーも…お母さんも…みんなあたしのこと否定して…! 鉄也さんだけなんですよ! “あるみん”なんかじゃない、ただの“サチコ”でいいんだって認めてくれたのは!なのに…何でそんな事言うんですか!」


ハガネ「あるみちゃん」


社員「あるみん」


あるみ「その名前であたしを呼ばないでください!」


ハガネ「……じゃあ…サチコちゃん」


チーフ「もし秋山たんくが黒幕だとしてさ」


ハガネ「え?」


チーフ「何でこんなキス写真なんだろね? もし本気で終わらせたいなら、ハメ撮りさせるべきじゃない? その方が確実に再起不能に追い込めるんだからさ。彼女、いくつ?」


ハガネ「先週17になったばっかです」


宮野「高校生⁉︎」


あるみ「あ……実は…(ハガネに耳打ち)」


社員「に…22ィ⁉︎」


ハガネ「5歳もサバ読んでたの⁉︎」


多摩川「うそ、あたしより上⁉︎」


宮野「スゲェ! 見えない!」


あるみ「すいません」


チーフ「はぁ〜。やっぱこれ依頼されたやつだよ」


ハガネ「え?」


多摩川「なんで?」


チーフ「彼女が未成年なら、下手に手ェ出したら淫行で逮捕。でも実際は成人女性で肉体関係を結んでも問題ない。なのにキスだけ。何でかな?」


多摩川「だから愛があるからでしょ? ヤリモクじゃないって」


ハガネ「チーフ、さっきから何が言いたいんですか?」


チーフ「表向きは未成年なんだろ? もしハメ撮り流したら確かに大スキャンダルにはなるけど、警察も動きかねない。なにしろ未成年って設定だからね」


ハガネ「その設定って言い方やめ」


チーフ「仕掛ける側としては厳しいよね。幾ら金を積まれたって逮捕される依頼なんて受けれる訳がない。現役ホストなら尚更だ。実際は成人だから問題無いと言いたいけど、それをやると今度は秋山たんく側の都合が悪くなる。何でかわかる?」


宮野「そっか! うちのアイドルはサバ読んでますよってのをバラす事になっちゃう!」


チーフ「そう。ハメ撮りが出回る。ファンが淫行だと騒いで通報する。実は成人だとバレる。結果、信用を失いファンからソッポを向かれる。彼女を破滅させようとしたら自分が破滅したでござる。自分たちがダメージを受けず攻撃できるギリギリの妥協点がこの写真なんだ。こんなポッキーゲーム程度のキスね」


多摩川「なんでそんなに詳しいんですか?」


チーフ「そりゃ援交で一度お世話になったからね!」


多摩川「もう死んでください!」


あるみ「そんな…! ただの偶然ですよね?」


チーフ「もちろん詳しくは彼氏に聞かなきゃわからない。彼はなんて? 連絡取り合ってんでしょ?」


あるみ「………」


ハガネ「え?」


あるみ「連絡…つきません。LINEも既読にならなくて…」


ハガネ「ええ?」


チーフ「もう確実じゃない。出来レースだよ最初っから」


あるみ「違う!違う! 違う‼︎」


ハガネ「…サチコちゃん、これ」


ICレコーダーをテーブルの上に置くハガネ。


ハガネ「鉄也の店に乗り込んだ時に聞き出したの。この中に真実が入ってる。聞く覚悟…ある?」


驚いた表情でハガネを見るあるみ。

ちいさく、しっかりと頷く。

再生ボタンを押すハガネ。

流れるハガネとカオリの会話。


『カオリさぁ、西立川あるみって知ってる?』


『…誰?』


『地下アイドル』


『えー知らねー(笑) なに鉄也狙ってんのー?』


『まぁな』


『てか地下アイドルなんかダサいの狙わないでさぁ、もっとデカイのいこうよー。あゆみたいなさー』


『いやー、あゆクラスはアキラさんでも厳しいなー』


『そぅお?』


『あの…』


『なにー?』


『悔しくないんですか…? その…自分が応援してるコ…ホストが他の女を狙ってるだなんて』


『んー、そーゆーのはもう通り過ぎたなかなー』


『え?』


『だってそーゆーとこ含めて好きになっちゃったんだもん。それに有名人落としたらそんだけ箔つくしー。そしたらあたしらの株も上がるしー』


あるみ「………‼︎」


拳をぎゅっと握り、唇嚙み締める。


『男としては、アンタはやっぱり最低よ。でもアイドル…ホストとしては、尊敬できる。必死なんでしょ? 応える為に』


『ん? ん?』


『あるみちゃんは渡さない。でもアンタの生き様は否定しない。また現場で会いましょう』


『ああ…』


『2名様お帰りですー!』


プチっ。レコーダーを切るハガネ。


ハガネ「……鉄也の口からは、最後までサチコちゃんが好きだって言葉は聞き出せなかった。サチコちゃんに近づいたのはね、ファンのため。ホストの自分を支えてくれる客のため。サチコちゃんと同じなんだよ。鉄也もアイドルなんだよ」


無表情のまま、大きく見開いた眼からポロポロと涙が溢れるあるみ。


あるみ「あたしの中身が好きだって言ってくれました、自信なくてもいいんだって言ってくれました、整形前の醜い顔でも可愛いって言ってくれました」


宮野「ええ⁉︎」


多摩川「シッ!」


社員「そりゃホストならそれくらい…」


ハガネ、無言で社員をぶっ叩く。


あるみ「鉄也さんのこと一番わかってるのはあたしなんだ! 鉄也さんだってあたしと同じ寂しい人なんだ! それを少しでも支えてあげたい! そう思うのはいけないことなんですか? ねえ⁉︎」


ハガネ「…あるみん」


あるみ「⁉︎」


泣いてるハガネ。


ハガネ「みんな同じなんだよ…!あたしも…社員さんも…カオリさんも…みんなみんな「力になりたい」! 全てを貢いで支えてあげたい。一番わかってるのは自分だけだ、ってそう思いたいんだよ!」


チーフ「立山さん、給料のほとんど追っかけに突っ込んでたもんね。いままで幾ら課金したの?」


ハガネ「今はその話いいですから!」


社員「全部突っ込むのはあたしらには当たり前なんですよ。地方でライブがあるなら遠征は当たり前だし。新曲が出たら予算の限り買い占めるのは当たり前。そんだけやっても見返りは無し。でも、それでいいんです。だって、このコらは僕の扶養家族みたいなものですから。家族を養うのは当たり前でしょ?」


多摩川「見返りないのにどーしてそこまで? わからない」


ハガネ「わからないと思うよ。わかんなくていいんだよ。自分が満足できれば、課金した分、このコが羽ばたいてくれると思えれば、それでいい。それでいいんだよ」


社員「世間からは、あたしら“養分”って言われてますがね(笑)」


自虐ぎみに嗤う社員。


宮野「え? じゃあ彼女(あるみ)もホストの養分?」


全員、一斉に宮野を睨む。


ハガネ「ちょ…!」


ガッと立ち上がるあるみ。

ダッシュで土砂降りの中を駆け出て行く。


ハガネ「待って!さっちゃん!」


追いかけようとするが、雨脚の強さに阻まれ、慌てて傘を取り出す。


社員「ハガネさん!」


ハガネ「全員呼んで!大至急!」


社員「了解!」


ハガネ「さっちゃーん‼︎」


■ホストクラブ美面

駆け込んで来るハガネ。


呼込「いらっしゃいまー、またアンタか!」


ハガネ「鉄也….てか女の子来てない⁉︎」


呼込「女の子? うちホストクラブっすよ。女の子来るに決まってんじゃないすか?」


ハガネ「そうじゃなくて、鉄也目当ての…じゃない。未成年っぽいコ!」


呼込「未成年? うち未成年は入場禁止ですよ?」


ハガネ「まだ来てないのかな…?」


声「あ、おねーさん!」


振り返るハガネ。


ハガネ「カオリさん?」


カオリ「また来たんだー。すっかりハマってって感じー? にひひ」


ハガネ「あーまぁー」


カオリ「今日も鉄也いないよ」


ハガネ「え? そーなの?」


カオリ「うん、だからウチ帰るわ。鉄也以外に金落としたくないもん」


ハガネ「ああ…だよね」


カオリ「(呼込に)てか鉄也どーしたの⁉︎ アメブロも閉鎖してるしー、Twitterもアカ消えてるしー。まさか辞めてないよね⁉︎」


ハガネ「アカ消えてる⁉︎」


呼込「それはないです! 鉄也さん、操作ミスって消しちゃっただけです! ハイ!」


カオリ「ならいいけどー! 勝手に辞めたら一生許さないって伝えといてよ!」


呼込「はい、必ず!」


カオリ「じゃーね、おねーさん。次は合番でね!」


ハガネ「うん、じゃまた」


カオリを見送るハガネ。


ハガネ「(呼込に)アカ消したってどういうこと?」


呼込「知らないです。聞いてないです」


ハガネ「操作ミスったくらいで簡単にアカ消える訳ないでしょ? なに隠してるの?」


呼込「知らないす」


ハガネ「ふ〜〜ん、カオリさ〜ん! ウソらし〜よ! カオリさ〜〜ん‼︎」


呼込「いやあのちょっと!」


ハガネ「ウソつくならさ、もっとバレないウソつきなよ。浅すぎるよ」


呼込に耳打ちするハガネ。


ハガネ「誰にも言わないからさ、正直に教えてよ」


呼込「(ため息)俺が言ったって内緒ですよ? 鉄也さん、一昨日付けで異動してるんですよ」


ハガネ「移動?」


呼込「人事異動です。博多プラチナに」


ハガネ「博多…⁉︎ え、やっぱ左遷? 飛ばされた?」


呼込「出世したんですよ、幹部に。栄転です栄転」


ハガネ「幹部? 栄転? 13位なのに?」


呼込「(笑)幹部は売り上げとは関係ないです。ナンバーは売り上げさえあれば誰でもなれるけど、幹部は信頼ないとなれませんから。鉄也さん、オーナーからの信頼も厚いですし」


ハガネ「ふ〜〜ん」


意味ありげに頷くハガネ。


ハガネ「それは例えば、ハニートラップを必ず成功させる、とか?」


ドヤ顔から、一気に顔が曇る呼込。


呼込「知らないです」


ハガネ「……ありがと。参考になったわ」


傘をさして、美面から立ち去るハガネ。

歩きながら、電話連絡。


ハガネ「もしもし社員さん? うん、もうあの店に鉄也居ないって。詳しい事は後で話す。で、さっちゃんだけど……え? そっちに居る⁉︎」


■ミニバン

ドアを開けて助手席に滑り込むハガネ。

運転席のハチマキ。


ハチマキ「おつかれさまー」


白熊「(声)おかえりなさいー」


ハガネ「ああ白熊さん、ひさしぶー」


振り返るハガネ。

女装姿の白熊。

と、横にいる社員。


ハガネ「何故に⁉︎」


白熊「いや、またあの店に乗り込むって聞いたから。正装しなきゃと思って」


ハガネ「それ正装なの⁉︎」


ハチマキ「で、渡鉄也は何て?」


ハガネ「それなんだけどー、さっちゃんは?」


後ろを見る社員と白熊。

三列目の後部座席に、びしょ濡れのまま、固い顔で座ってるあるみ。


白熊「店の近くで座り込んでるところを拾ったの。多分…怖くて店まで行けなかったのね、きっと」


ハガネ「…さっちゃん」


あるみ「……バカですよね、あたし………」


ハガネ「………」


白熊、無言であるみの頭を撫でる。

声を殺して号泣するあるみ。


白熊「いいのよ、いいの。泣きなさい、いっぱい。それだけの価値があるんだから。あったんだから」


あるみをやさしく抱きしめる白熊。

白熊の胸で声を出して泣き出すあるみ。


ハチマキ「白熊さん…あれ本職ですよね…?」


ハガネ「あたしもそう思う…」


■コンビニ

帰ってくる四人とあるみ。

かけ寄ってくる宮野。


宮野「立山さん! 遂に…オカマ⁉︎」


白熊を見て驚く宮野。


白熊「失礼ねアンタ‼︎」


ハガネ「なに?」


宮野「リサが発見したんすよ! スマホの中身を勝手に見る方法!」


ハガネ「おーもぉ下の名前で呼んでやがんのか、爆発しろこの」


宮野「うえ⁉︎」


多摩川「立山さ〜ん、見つけちゃいました〜! オカマ⁉︎」


白熊「先刻っから何なの失礼な店ね!」


ハチマキ「いや極めて自然な反応かと」


多摩川の周りを囲む一同。


チーフ「(宮野に)なんか立山さんと愉快な仲間たちって感じだよねー」


宮野「実際愉快ですしねー。俺、立山さんがあんな面白い人だとは思いませんでしたよ」


チーフ「俺も(笑)」


多摩川「iPhone限定なんですけど(あるみに)iPhoneだっけ?」


頷くあるみ。


多摩川「これあたしのなんですけど、こーやって電源ケーブル挿して、ヘイSiri!」


ピポン。反応する多摩川のiPhone。


iPhone「ご用件ハ何でしょうカ?」


一同「えええ?」


多摩川「カメラロール、見せて」


勝手にカメラロールに切り替わるiPhone。


ハガネ「え? え? 何やったの?」


多摩川「そのままですよ。買った時の設定のままだと、電源挿したまま『ヘイSiri』って言うと起動するんです。Siriって知ってますよね?」


社員「人工知能か…」


ハチマキ「いつの時代の人ですか?」


白熊「え? え? それってみんなそーなの?」


多摩川「設定変えれば大丈夫ですけどね。ほらあたしら、そこまで良くわかんないじゃないですか?」


うんうん頷くあるみ。


多摩川「ここまで来たら、後はメール立ち上げて添付してもいいし、ネットで宅ふぁいる便にアップしてもいいし」


チーフ「なるほど、全然わからん」


宮野「マジすか?」


多摩川「よーするにパスワード知らなくても中身見れちゃうって事です。充電しっ放しでうっかりその場を離れたら簡単にデータ抜かれちゃう」


チーフ「はぁ〜ハイテクは怖いなぁ」


多摩川「と、ゆーわけで、みーくん、はい」


宮野「はい?」


多摩川「問題ないかチェックしてあげる。貸して」


宮野「え? いやマズイよ、みんなも居るし…」


多摩川「あたしの恥ずかしいの流しといてそれはないよねー? いいから早く貸してよ」


宮野「いやだから…」


ハガネ「(あるみに)この写真撮った後で、充電したままその場を離れた時は?」


あるみ「歌のレッスンで…防音室狭いから私物は外に出してました…見ててやるから大丈夫だって…」


ハガネ「それは、誰?」


あるみ「先生…です…!」


白熊「おっし!繋がった!」


一斉にガッツポーズを取る面々。


ハガネ「完全に計画的犯行だったんだ。さっちゃんを辞めさせる為、ホストを雇って証拠写真を撮らせて、リークする。許さない」


宮野「でも、物的証拠はないよね。知らないって言われたら終わり」


ハガネ「物的証拠は、ね」


白熊「ん? 」


ハガネ「このネタを拡散するの。出来る限り。ネットでも、口コミでも何でもいい。めたらーの一人一人に知らせる勢いで」


あるみ「え……?」


ハチマキ「状況証拠はバッチリだし、動画もあるからね! 一気に拡散するよ!」


白熊「おっしゃ! お店のコにも手伝ってもらうわ!」


あるみ「あの…」


ハガネ「振られて逆恨みって…一番許せない!」


あるみ「待って!」


社員「待ってくれ! そんなことしたら…めたる組は…!」


ハガネ「……めたる組は、終わるかもしれないね…」


社員・あるみ「そんな…!」


ハガネ「決めるのはもちろんさっちゃんだよ。さっちゃんが許せないなら、あたしも許せない。どんな手を使ってでも潰してみせる」


白熊「いいわね! あたしも乗るわ!」


ハチマキ「僕も、ここまで知っちゃったら今までみたいに愛せないですね」


社員「いいから!みんな少し冷静になれよ!めたる組を潰す? 本気で言ってるのか?」


ハガネ「冗談でこんな事言うと思う?」


社員「そうじゃない! 今までめたる組にどんだけ突っ込んで来た? 年50万か? 70万か?あの努力を全部ドブに捨てるってのか⁉︎ それにめたらーは俺たちだけじゃない! 他の連中はどうするんだ⁉︎」


ハガネ「じゃあこのままでいいっての? さっちゃんだけがこんな理不尽な目に遭って構わないって⁉︎」


社員「だから俺はあるみん推しじゃないとなんど言えばわかるんだ! 君らがめたる組を潰す気なら、俺は全力でそれを阻止するぞ!」


ハチマキ「社員さん!」


社員「うるさい! お前ら全員敵だ! 裏切り者だ!」


あるみ「ごめんなさい…あたしのせいで…ごめんなさい…!」


ハガネ「さっちゃんは悪くないよ! 全然悪くないよ!」


突然、鳴り出すあるみのiPhone。

表示されてる名前を見て固まるあるみ。

皆に頭を下げて電話に出る。


あるみ「はい…ヤナセです…。はい…はい…社長にもご迷惑おかけして本当に申し訳ありません…」


ハガネ「社長…?」


白熊「社長って?」


ハチマキ「めたる組は全員バイバイプロジェクトって芸能事務所に所属してるんですよ。事務所たってエキストラ専門の小さいトコですけどね」


ハガネ「へぇ〜」


白熊「あんたよく知ってるわね⁉︎」


ハチマキ「まぁ表に出てこない情報だし、コアなめたらーでも知らない方が普通ですけどね。ここの社長と秋山たんくが大学の先輩後輩で、売れてないエキストラ女優を集めて「めたる組」を作ったって話」


ハガネ「じゃあクビって…」


ハチマキ「あくまでも「めたる組を」って意味でしょうね。事務所はこれくらいじゃクビにしない筈です」


あるみ「オーディションですか…? はい行きます! 喜んで!」


ハガネ「ああ…(安堵)よかった〜!」


社員「じゃあ、いいのか? めたる組を潰す話はこれで無くなったのか?」


ハガネ「それとこれとは話が別でしょうよ」


社員「なんでー⁉︎」


白熊「めたる組をどーこーするかはともかく、秋山たんくには一矢報いたいよね。コイツが元凶な訳だし」


あるみ「はい…明後日の16時…はい…アリスワールドさんですね。了解しました! はい、ありがとうございます!失礼します!」


ハガネ「おしごと?」


あるみ「ハイ! オーディションがあるって…あたし元々お芝居したくて事務所入ったんで、なんか、嬉しいです!」


白熊「よかったじゃない。災い転じて何とやらだね」


あるみ「はい! もう皆さんにはなんて感謝したらいいか…本当にありがとうございました!」


ハガネ「めたる組は辞めても、さっちゃんのことはずっと応援してるからね」


あるみ「ありがとうございます!」


ハガネ「やだ、泣かないでよぉ」


あるみ「だって…!」


チーフ「ちょっとまって!感動のなか悪いんだけど、アリスワールド?」


あるみ「はい! 明後日行くオーディションの会社なんですけど」


チーフ「そこ、アダルトビデオの会社だよ!」


全員「え…⁉︎」


チーフ「ロリっ娘専門のAVメーカーだよ。いつもお世話になってるから間違いないって!」


固まる一同。

顔面蒼白になるあるみ。


多摩川「本当に…一度死んで貰えません?」


■街並み

渋谷のスクランブル交差点。

信号が青になり、一斉に歩行者が思い思いの方向へ歩き出す。

オーロラビジョンに映し出される映像。


『めたる組inc! 遂にメジャーデビュー!』


5人の女の子が笑顔で歌い踊るプロモーション映像。

映像の中には、コンサートの観客席でサイリウム振ってる社員とハチマキの姿も。

それをぼんやり見上げてるハガネ。


ハガネ「(声) 出る⁉︎」


■回想

夕暮れの河川敷。

歩きながら会話してるハガネとあるみ。


ハガネ「えっ、えっ、AVだよ! クパァが出回っちゃうんだよ!」


あるみ「知ってますよ(笑)」


ハガネ「え? 事務所に脅された? 違約金払えって? 親にバラすぞって?」


あるみ「ハガネさんネットの見過ぎ(笑) …最初はね、もう辞めちゃおかなーって考えたんです。ある程度夢は叶ったし、人前でエッチなんて考えられないし」


ハガネ「でしょ? でしょお?」


あるみ「でもね、めたる組を辞めても、西立川あるみじゃなくなっても、まだあたしを応援してくれる人達がいて。その人達の為にも、期待を裏切っちゃいけないかなって」


ハガネ「あたし、別にさっちゃんがAV行かないから裏切りだなんて思わないよ⁉︎」


あるみ「それにね。ハガネさんだけにぶっちゃけるとー」


小悪魔めいた笑みを浮かべるあるみ。


あるみ「お金欲しいんです、あたし。鉄也さん博多行っちゃったじゃないですか? 飛行機代もかかるし、応援続けるにはもっともっとお金必要だし。ただのOLじゃとても遠征費用、捻出できないしね」


ハガネ「ああ…」


あるみ「これがあたしの生きる道なんです。ファンの期待に応えて、かつ、鉄也さんを応援して行きたい。大好きなんだもん。…ダメですかね?」


笑いながらも涙を流すハガネ。


ハガネ「…いいよ。すごくいい。あたしは、さっちゃんの永遠の味方だし」


あるみ「ありがとう、ハガネさん。(涙ぐむ) ありがとう…!」


■街並み

白熊「どうしたの?」


ワイシャツ姿の白熊にポンと肩を叩かれ、我に帰るハガネ。


ハガネ「本当にこれで良かったのかなぁって。無理にでも止めた方が良かったかなぁって」


白熊「そうだねー。こればっかりは何とも言えないなぁ」


紙袋からDVDのパッケージを取り出す白熊。


白熊「今日発売。めたる組のメジャーデビューにぶつけてくるとは、よぅやるわ。インタビューでも結構ぶっちゃけてるみたいだし、秋山たんくもこれでしばらくはガクブルなんじゃないかな?」


『伝説の脱退アイドル、待望の解禁!』

『あたしをAVスターにしてくださいッ‼︎』

『立川 はがね』


白熊「それあげる。ついいつもの癖でまとめ買いしちゃってね」


ハガネ「ありがと」


礼を言いながらパッケージの中身を開けるハガネ。


白熊「握手券は入ってないから(笑)」


ハガネ「ああ、いつもの癖が(笑)」」


何気にパッケージの裏を見て驚くハガネ。


ハガネ「おっふ…!」


白熊「デビュー作にしちゃ過激だよね」


表パッケージのあるみ。変わらない笑顔。


白熊「この芸名。ハガネさんから貰ったんだってね」


ハガネ「喜んでいいのものやら…何というか…」


白熊「喜んでいいんじゃない? あるみんの一番信用できる人の名前なんだし」


ハガネ「そう…なのかな?」


白熊「そうじゃないの?」


ハガネ「………」


白熊「ま、問題はこれからだけどねー。AV女優って無茶苦茶メンタル病みやすいっていうしー」


ハガネ「え? そーなの? え、あ、どーしよ⁉︎」


白熊「その時はじっくり話聞いてあげなよ。友達、なんでしょ?」


ハガネ「………うん…!」


ようやく笑顔を見せるハガネ。


ハガネ「(白熊に)そーゆー格好してれば男に見えますねー♡」


白熊「ぶっとばすぞテメ(笑)」


■コンビニ

ハガネ「いらっしゃいませー」


レジで接客してるハガネ。


ハガネ「たまちゃん、もういいから。先に休憩入っちゃってー」


多摩川「あ、はーい」


宮野「あ、じゃあ俺も…」


ハガネ「おめーはダメだよ!」


宮野「何故に⁉︎」


多摩川「頂きまーす(笑)」


同僚と笑顔で会話を交わすハガネ。

バックヤードの奥であるみのビデオ観てるチーフ。多摩川に見つかり「もー本当に死んでください」呼ばわり。

ふと、窓の外を見るハガネ。

雲ひとつない青空。

耳の奥に聞こえるコンサートの残響。


ハガネ「…………」


ふと、カウンターにモノがドサッと置かれて我に帰るハガネ。


ハガネ「いらっしゃいませー」


女性客「あれー? おねーさん?」


え? 顔を上げるハガネ。


ハガネ「……カオリさん⁉︎」


カオリ「おねーさん、ここでバイトしてんの? マジウケる(笑)」


なんだなんだ? バックヤードから出てくる多摩川とチーフ。


カオリ「あ、それより聞いたー? 鉄也、いま博多いるって! チョームカついたんで今から乗り込んでやろーと思ってー!」


ハガネ「え? 今から? 飛行機ですよね?」


カオリ「当たり前じゃん! どこに行ったって逃がさないんだから!遠征だよエンセー!」


ポカーンとした顔のハガネ。

やがて、盛大に笑い出す。


多摩川「なんだなんだ?」


チーフ「また立山さんの愉快な仲間か?」


カオリ「なにがおかしいのよう!」


ハガネ「あー、そーだよなーと思って。あたしら、そーゆー人種だよなー」


カオリ「ん? ん?」


ハガネ「カオリさん! ご一緒してもいいですか!」


カオリ「え? マジ? 一緒にエンセーしちゃう?」


笑顔で頷くハガネ。

ええええ⁉︎ 驚愕のチーフ、宮野、多摩川。


■コンビニ、外

チーフ「(声)ちょっと! 立山さーん!」


エスケープするようにダッシュで走り去るハガネとカオリ。


ハガネ「ヘイ!タクシー!」


■タクシー車内

カオリ「おねーさん、やるねー! そーゆーの大好き!」


ハガネ「実はね、もう一人連れていきたいコがいるの」


喋りながらLINEに打ち込むハガネ。


ハガネ「皆でいこーよ、 合番で(笑)」


カオリ「いいねー! くーワクワクするー!」


ピロン。LINE着信音が響くハガネのスマホ。

液晶画面を見るハガネ。パアッと笑顔が広がってー


■エンディング



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シナリオ「魁! 課金ガール」 @nakazee

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