シナリオ「ゼクシィ男子のつくりかた」

@nakazee

本編

□登場人物


・深瀬 美緒 …… あたし


・須賀 啓太 …… ゼクシィ男子


・岩淵 茜 …… 友人


・笹岡 晃 …… 元カレ


・愛原 愛美(らぶはら らぶみ) … ゲイバーのママ。百戦錬磨のオカマ


・その他の方々


□オープニング


白地にフェードイン。

遠くから歌が聞こえる。

結婚協奏曲を奏でる歌声。


♫パパパパーン パパパパーン パパパパン パパパパン パパパパン

パパパパン

I love you forever 貴方だけの為〜♫


□室内

いきなり若者の顔面アップ。


若者「なぁ! どうかなコレ!」


何かの情報誌を開いて見せる。


女(声)「かくやす…にせたいじゅうたく…?(格安二世帯住宅?)」


若者「家余りのおかげで都内でもこんな安い物件が出てきたんだよ! この広さでこの家賃なら納得だろ! 2階が俺たち。1階をお母さんたちに使ってもらってさ」


女「ちょ! ちょちょちょ! 何度も言ってるけど、早いから。

あたし、まだ、結婚する気ないから!」


若者「どうせいつかするんだから、今から考えといて損ないっしょ」


女「はいい⁉︎」


若者「でさ〜、こいつの良いところが〜」


女「ねぇ! ねぇねぇねぇ! あたし、まだ23な訳? わかる?

社会人として、まだまだこれからって時に、結婚とか考えられない訳」


若者「わかった!」


女「うん(安堵)」


若者「俺がんばる!」


女「そうじゃなくて」


思わず眉間を抑える女。


若者「でも早くしないとマズイよ。美緒のお母さんにも手伝ってもらう訳だしさ」


美緒「…え、え? いま何て⁉︎」


若者「美緒のお母さんに相談したら超気に入ってくれてさ! 敷金出してくれるって! だから早めに決めちゃわないと」


美緒「お母さん⁉︎」


若者「うん」


美緒「いつ⁉︎」


若者「いつもだよ。最近色々と相談に乗ってもらってんだ。お母さん、学生結婚だったんだね。俺、超近親感沸いちゃってさ〜」


笑顔でスラスラ話す若者に対し、

愕然の表情の美緒。


□イメージシーン

屋外。足軽の格好の若者。

手には鍬(またはスコップ)


若者「埋め終わったぞお! 次は内堀だ!」


全員「オー‼︎」


若者「いくぞー‼︎」


全員「うおおおお‼︎」


勇ましく雄叫びを上げ、鍬を振り上げ、一斉に向かってくる大勢の足軽のイメージ。

全員、若者の顔。


□室内

美緒「(絶叫)いやあああ〜‼︎」


□メインタイトル

「ゼクシィ男子のつくりかた」


□喫茶店

疲弊した顔で、テーブルに突っ伏してる美緒。


美緒「疲れたようもぉ…」


友達「凄いね。確実に外堀埋めに来てるね(笑)」


美緒「まさかうちのおかんとも通じてるなんて思わなかったよ…」


友達「でもいいじゃん。ある意味、毎日がプロポーズでしょ?」


美緒「ブッちゃんゴメン、それ笑えないし」


友達「そお? いーと思うけどなぁ、ぱっと見、お似合いだし」


美緒「あたしもね、別に嫌いって訳じゃないんだ。一緒に居ても苦痛じゃないしさ。でもさぁ、それとこれと話は別でしょ?」


友達「そおお?」


美緒「だってさ、就職氷河期を必死で乗り越えて、やっとの想いで今の会社に入り込めたってのに、あの努力が全部無駄になっちゃうんだよ?」


友達「でもその会社で再会できた訳でしょ? ほら…あれ? 名前何だっけ?」


美緒「スガ」


友達「そー須賀先輩。だったら無駄じゃないじゃん」


美緒「そーなんだけどさぁー」


友達「先輩が言ってるの? 仕事辞めろって」


美緒「いや、仕事は続けてもいいって…」


友達「じゃあいいじゃん! 何が不満なの?」


美緒「プライドの問題なんだよう! あたし、結婚するなら仕事すっぱり辞めて家に入るべきだと思うし。そうあるべきだと思うし」


友達「今時そんな人居ないって! 子供出来たんならともかく、考え古すぎるよ」


美緒「わかってるよそんなこと! でも気持ち的に無理なの! そんなどっちつかずの中途半端な気持ちで結婚に逃げたくないの!」


友達「よくわかんないなぁ私には。最高の勝ち組じゃん。自慢にしか聞こえないー」


美緒「だからーー!!」


□ゲイバー

ママ「そりゃ無理よ。理解される訳ないって」


美緒「やっぱりあたしワガママなんですかねぇ?」


ママ「ん? あたしは判るわよ。ケジメつけたいんでしょ? やるからにはキチンとさ」


美緒「それ! そうケジメ! あー何であの時その言葉が出てこなかったかなー!」


ママ「出てきても多分通じなかったと思うよ。価値観違う人間に何言っても無理だって。はいビール」


美緒「価値観なぁ…」


ママ「結婚なんて究極の価値観の擦り合わせだからね。美緒ちゃんみたいにどことなく踏み出せないってことは、何かしら問題があるんじゃない。自分じゃ気付かないだけでさ」


美緒「問題なぁ…強いて言えば、あの押しの強さかなぁ。結婚してもあのプッシュが続くのかと思うと正直耐えられる自信ない」


ママ「そんな凄いんだ?」


美緒「学生の頃や入社したばっかの頃は頼りになる先輩だと思ってたんですけどね。いざ付き合ってみると…その…重い(笑)」


ママ「あーー(察し)」


美緒「贅沢な悩みなのはわかってるんですよ!」


ママ「わかってるわよ、よーくわかる。恋愛なんてシーソーゲームなんだから、片っぽが重かったら残った方は宙ぶらりんだからね」


美緒「そうシーソー! ママ凄いなぁ、なんでそんなに女心がわかるの?」


ママ「あんたバカにしてる?」


美緒「だって今まで生きてきてこんなにわかってくれる人、友達にも居なかったもん。親はうるさいだけだし、彼はアレだし」


ママ「今時のゼクシィ男子だもんね(笑)」


美緒「ん? んん?」


ママ「ほら、ゼクシィってあるじゃない、結婚の雑誌のさ。やたらと結婚したがる男子をそう呼んでるの。あたしが勝手に呼んでんだけどね(笑)」


美緒「そーだ! ゼクシィ男子だ! うーわー、わ〜〜」


妙に納得して感動してる美緒。

心配そうな顔になるママ。


□部屋

ゼクシィを開いて、真剣な顔で蛍光ペンでマーカー引いてる啓太。

それをじーっと観察してる美緒。


美緒「ホントに見てる…」


ふと啓太と目が合う。


啓太「…ん?」


美緒「ううん、何してるのかなって」


啓太「式場をね」


笑顔が固まる美緒。


啓太「ここなんかどーかな? 駅から近くてレンタルドレスも豊富で、おまけに本場の外人シンガーが歌ってくれるイベント付き! それでいてこの値段はホント穴場だよ」


美緒「どこ?」


啓太「ん?」


美緒「ばしょ」


啓太「ああ…小樽(笑)!」


美緒「……」


なんかツッコもうとして、諦めて口を閉じる美緒。


美緒「お腹空いた、なんか買ってくる」


啓太「いってらっさー」


□外

ため息交じりで歩く美緒。

脳裏にママの声が響く。


ママ「あたしは嫌いじゃないわよ」


□回想

ママ「旦那の収入目当ての寄生虫みたいなクソ女より、よっぽど好感持てるけどね」


美緒「うちの母がそうだったから、余計嫌なんですよね」


ママ「まぁ、母親なんてのは大体そんなもんだけどさ(笑)」


美緒「自立したいんですよ。経済的にも、精神的にも。男に頼って生きるなんて、そんなのしたくない。少なくとも、対等でないと結婚しても……んー何て言えばいいのか」


ママ「美緒ちゃん、「奥さん」とか「家内」って言い方、嫌いでしょ?」


美緒「あまり好きじゃありません」


ママ「やっぱり(笑)」


美緒「どーでもいーことに拘ってるなって自分でも思いますけどね」


ママ「大事だと思うよ。一生を左右するんだから、妥協はダメでしょ。まだ若いんだからさ」


美緒「こんなんだったら、元カレの方がまだマシだったのかなぁ」


ママ「あら? ちょっとアナタ、聞かせなさいよ」


美緒「放置気味で、愛を感じなくなって別れたんですけど、今から思えば丁度いい距離感だったのかなぁって。今のカレが強引なだけになおさら?」


ママ「足して2で割ったら丁度よさそうね」


美緒「それあたしも思います! ホントそう」


ママ「どーする? ヨリ戻そうなんて連絡来ちゃったら?」


美緒「ないない(笑) ないですよ。もう別れて一年も経つし、向こうだって新しい彼女出来てる筈だし」


響くLINEの着信音。


□公園

ハッとスマホを見る美緒。


美緒「マジで…⁉︎」


声「よぉ、久しぶり」


□喫茶店

元カレ「痩せた?」


美緒「んー? どうかな?」


元カレ「ストレス?(笑)」


美緒「…かも(笑) そっちは?」


元カレ「ああ。俺、院に行ったのって伝えたっけ? 研究研究でもう休む暇もない感じ」


美緒「アキラがまさか研究職に進むとは思わなかったけどね」


元カレ「なに?そんな意外?」


美緒「だってイメージ真逆じゃん。みんな驚くと思うよ」


晃「まぁ、あの頃はアホみたいにボール追いかけ回してたからな」


昔に想いを馳せる美緒。


晃「そーいやさ、付き合ってるんだって? 須賀先輩と」


美緒「あ…うん。誰から?」


晃「ブッちゃん」


美緒「ああ…」


晃「毎日がプロポーズだって?(笑)」


美緒「あのクソアマ〜〜!」


晃「俺に言わせりゃ、そっちの方がよっぽど驚きだよ。よく先輩と接点あったな」


美緒「まぁ、色々と偶然が重なりまして、…怒ってる?」


晃「なにが?」


美緒「先輩とのこと、黙ってたの」


晃「なんで? 美緒の自由だろ。何で俺が怒んの?」


美緒「いや、なんとなく…」


晃「いくら俺でもそこまでクズにはなんねーよ。見くびるなって」


美緒「うん…だよね…」


晃「…先輩、束縛強いの?」


美緒「束縛…って言うか、囲い込みって言うか…兵糧攻め…?」


言葉に詰まってしまう美緒。


晃「飲むか?」


美緒「え?」


晃「酒。シラフじゃ言えねーだろ?」


美緒「いやいやムリだって、ダメだって!」


□居酒屋

美緒「かーー! 久々のビール美味めーー‼︎」


ジョッキを一気飲みの美緒。


晃「飲んでないんだ?」


美緒「だって先輩、お酒飲めないもん」


晃「マジで? 意外」


美緒「付き合って初めてその人がわかるってあるよねー。まさかあんなに結婚したがるゼクシィ男子なんて思わなかったし」


晃「ゼクシィ男子って、ひでぇな(笑) ーー俺は?」


美緒「ん?」


晃「いや、やっぱ失望? したのかなって」


美緒「アキラは見たまんまじゃん。少なくとも付き合ってる時はさぁ。クール気取ってて、束縛ゼロで、記念日もイベントも何も無し。おまけに風船みたいに女の子んとこフラフラ。ねぇ、あたしどんだけ泣いたと思う?」


晃「ああ…はい」


美緒「あたしが別れようって言ったのってさ、嫌いになったからじゃないんだよ? 晃と一緒に居て惨めだったし、愛されてる感無かったし、あたしって一体何なのって。ってもうー何なんだよーおまえー!(殴る)」


晃「おまえ、そんな絡むキャラだったか?」


美緒「うるさいよー……でも…」


晃「ん?」


美緒「別れて初めてその人がわかることもあるんだな、って…」


晃「………」


さり気なく美緒の肩を抱く晃。

胸に頭を預ける美緒。

互い視線が絡み合い、どちらかとなく唇が近づく。

流れをぶった切るように急に振り返る美緒。


美緒「あ、ママー!」


□ゲイバー

ママ「あらいらっしゃい」


美緒「ママー、今日は元カレ連れてきた!」


ママ「え? 噂のゼクシィ男子じゃなくて⁉︎」


美緒「そっちはお休みー!」


ママ「(晃に)どーもはじめまして」


うやうやしく名刺を渡すママ。

名前が「愛原愛美」


晃「あいはら…まなみさん…?」


ママ「らぶはら・らぶみと申します」


ほぐっ。喉から変な音が出る晃。


美緒「ママ〜、ビ〜ル〜」


ママ「ちょっと飲み過ぎじゃない? 大丈夫?」


美緒「誰かと飲むのって久々でさ〜」


ママ「あたしとは毎回じゃない」


美緒「だってママはママだもん」


ママ「なにそれ?はい、じゃあ乾杯。素敵な元カレさんも」


美緒「アキラだよー」


ママ「あら、ますます素敵! はい乾杯」


晃「美緒、よくここに…?」


ママ「最近は週1か2かな? 今週は週3」


美緒「ママー。何か歌うー」


ママ「はいはい、一回100円だからね。みんなー美緒ちゃんが歌うわよー」


拍手喝采。


ママ「(晃に) 驚いた?」


晃「まぁ少し。付き合ってる時はこんなトコに来るイメージなかったんで…」


ママ「女は変わるのよ。特にあれくらいの歳のコはコロコロ変わる。そうでなくちゃいけないしね」


晃「はぁ…」


何か歌い出す美緒。(下ネタソング?)


ママ「元カノがゲイバーにハマって幻滅?」


晃「いえ、そんなことは…!」


ママ「顔に書いてあるわよ。嘘のつけない人ね」


晃、額をおしぼりで拭う。


ママ「今が一番ストレスかかる時だからね。こんなトコで発散しなきゃやっていけないんじゃない?」


晃「結婚…ですか?」


ママ「女にとって結婚ってやっぱり人生最大のイベントよ。その次が出産。どちらも一度経験したら後戻り出来なくなる。男の人は簡単にリセットできるけどね。女はそうはいかない。ストレスにもなるわよ」


晃「…深いっすね」


サビでノリノリの美緒。


ママ「貴方はどうしたいの?」


晃「え?」


ママ「ヨリを戻したいようには見えないからさ。なにか相談事でもあったのかなぁって」


晃「そんなことまで分かるんですか⁉︎ 凄いっすね!」


ママ「伊達に男42年、女30年やってないわよ」


晃「俺…こんど結婚するんすよ」


ママ「あら、おめでとう」


晃「いわゆる婿養子ってやつで」


ママ「逆玉? 最高じゃない?」


晃「それでいいのかなぁって」


ママ「…プライド?」


晃「…もありますけど、俺本当にコイツ幸せに出来るのかな。てか本当に父親になんかなれんのかなって…」


ママ「授かり婚?」


晃「デキ婚っすよ、ただの」


ビールを煽る晃。


晃「全然心の準備ができてないんですよ。正直、逃げたいです」


ママ「うーん」


晃「(自嘲)サイテーっすね、俺」


ママ「責任とプレッシャー」


晃「…はい」


ママ「…を感じるってことは、あんたはマトモな人間ってことよ」


晃「え?」


ママ「それがフツー。何も心配することはない。大丈夫。あんたなら出来るわよ、立派に」


晃「マジすか…?」


ママ「伊達に男43年、女30年やってないわよ」


晃「一年増えてますよ?」


ママ「今月 誕生日だからさ(笑)」


笑いあう二人。

ふとカウンターのスマホの振動に気づく晃。


晃「美緒ー、ケータイ鳴ってるー」


美緒「えー誰ー?」


晃「おい…須賀先輩…!」


美緒「あ」


ママ「え? 噂のゼクシィ男子?」


美緒「ヤベ」


□部屋

啓太「どゆこと?」


美緒「ごめん」


啓太「ごめんじゃなくてさ、コンビニ行ったっきり5時間帰って来なかったら普通焦るだろ」


美緒「はい」


啓太「飲みたいなら最初からそう言やぁいいじゃん。誰も飲むななんて一言も言ってないだろ」


美緒「ごもっともで」


啓太「俺がもっと心配性だったら失踪届出してたよ。誘拐だと思ってさ」


美緒「仰るとーりでございます」


啓太「美緒さぁ」


美緒「無念の極みでございます」


啓太「反省してねーだろ」


美緒「左様でございます。え?」


啓太「やっぱり」


美緒「ズルい! 引っ掛け!」


啓太「何が不満なわけ?」


美緒「え?」


啓太「そうやっていつも自分を押し殺してさ、言いたいことあんなら言わなきゃ伝わらないぜ」


美緒「…………ぇぇええ⁉︎」


啓太「なんだよ」


美緒「啓太が、それ言う?」


啓太「なんだよ?」


美緒「今日一番ビックリした…うーわー」


啓太「だからなんなんだよ⁉︎」


美緒「あたし、いつも言ってるよ。啓太、あたしの言ってること聞いてないって、自分から自白したんだよ今?」


啓太「はあ?」


美緒「結婚しない。したくない」


啓太「え?」


美緒「いや『え』じゃねーし」


啓太「なんで? いきなり」


美緒「はああ⁉︎ いまなんて⁉︎」


啓太「男か? 他に男が出来たのか⁉︎」


美緒「あのさ、人の話少しは聞いたら? 言わなきゃ伝わらないってどの口が言うわけ? マジウケるわ! 笑えねー」


啓太「誰なんだよ…?」


美緒「んえ?」


啓太「そいつ、おまえの浮気相手」


美緒「なに言ってんの?」


啓太「いいから連れて来いよ、話があんだよ!」


美緒「てめえの脳内と話してろよ! もういい! 付き合ってらんない!」


啓太「ちょ待てよ」


美緒「離してよ!」


啓太「てめーいい加減にしろよ」


美緒「こっちのセリフ…きゃ!」


力任せにベッドに吹っ飛ばされる美緒。壁に頭をぶつける。


啓太「人を裏切ったらどーなるか教えてや…」


ドンドンドン!

いきなり激しくドアがノックされる!


啓太「なんだよ!」


ドスドスとドアに向かう啓太。

ぶつけた額をさする美緒。


啓太「うるせえな!何時だと思ってん…!」


威勢良くドアを開ける啓太。そのままフリーズ。

目の前にいる黒スーツ、サングラス。明らかにヤの付く大男。


ヤクザ「何時だと思ってんだコノヤロー! 夜中まで大声出しやがって! 舐めてんのかアアン‼︎」


啓太「す…すいません」


ヤクザ「すいませんで済んだらケーサツ要らねーんだよコノヤロー。人の睡眠邪魔しやがって、どーケジメとるんだコノヤロー」


啓太「いや、あの…」


しどろもどろの啓太。

完全にビビってる美緒。


ヤクザ「んん?」


何かに気付いたのか、いきなりズカズカと土足で部屋に入り込むヤクザ。

ベッドの美緒の前まで来る。


ヤクザ「いいオンナ連れ込んでんじゃねーか。今日はこれで勘弁してやるわ」


啓太「いや、あの、待ってください」


ヤクザ「おお、話わかるな! ニイチャンありがとな!」


啓太「いやあの、待ってください!」


ビビってる美緒に顔を近づけるヤクザ。


ヤクザ「(小声で) あたしよ」


美緒「………(ママ⁉︎)」


こっそりウィンクするヤクザ(愛美ママ)。


美緒「(ええええ?)」


ママ「話はついたじゃねーか! ナニ渋ってんだコノヤロー!」


啓太「(泣)ついてません!」


ママ「いーからどけ。おいネーチャン、行くぞ」


啓太「美緒おおお!」


ボロ泣きしてる啓太の横を通って、ママについて行く美緒。


ママ「オイ言っとくが。これはお互いの同意に基づいた立派な契約だからな。もし裏切ったらどうなるか…わかってるよなぁ、あん?」


啓太「………」


ママ「どーなんだコノヤロー!」


啓太「はい! はい…」


奇妙な姿勢のまま固まって動けない啓太。

黙ってそれを見てる美緒。

ドアが閉まる。


□車内(タクシー内?)

バタン! ドアが閉まる。


ママ「あーー! 肩凝る! やっぱこの格好慣れないわー!」


美緒「ママ、ありがと」


ママ「出しゃばるのもアレかなぁと思ったけど、来て良かった。完全に逆上しちゃってたもんね、ゼクシィくん」


美緒「うん…」


晴れない顔の美緒。


ママ「…裏切られたと思ってる?」


美緒「そこまでは言わないけど…」


ママ「まぁ、あそこまで脅されたら何もできなくても仕方ないわ。 下手すると美緒ちゃん殺されちゃうかも〜〜だし。そこだけはフォローしとくわね」


美緒「うん…」


額を抑える美緒。

いまさらながら震えが止まらない。


ママ「怖かった?」


美緒「…殺されるかと思った」


□回想

強い力で腕を捕まれ、そのままベッドまで吹っ飛ばされる美緒。

怒りに満ちたまま近づいてくる啓太のイメージ。


□車内

美緒「あたし結婚なんか出来ないよ、したくない、怖いよ…」


膝を抱えて泣き出す美緒。

そっと手を握るママ。


ママ「自分を責めちゃダメ。美緒ちゃんは悪くないよ。わかった?」


鼻水すすりながら頷く美緒。


美緒「あたしママみたいな男がいいー!(泣)」


ママに抱きつく美緒。

やさしく抱きとめるママ。


ママ「ありがと。でもね美緒ちゃん、それ私をバカにしてるからね」


□会社前(夕方)

美緒「お疲れさまでしたー」


スーツ姿で、頭を下げながらロビーから出てくる美緒。

額に絆創膏。


美緒「あ…」


エントランスに居た啓太とバッタリ。

先に目を逸らす啓太。罰が悪そうにコソコソと背を向ける。


美緒「ちょっと…!」


□公園(公開空地)

ベンチに座る美緒。

缶コーヒーを手渡す啓太。でも側に寄らず、立ったまま、なんとなく挙動不振。


啓太「あの…大丈夫…だった…?」


美緒「まぁ、なんとか、うん」


啓太「その…ごめんな、守れなくて…」


美緒「うん、まぁ、仕方ないよ、あの場合」


啓太「スッゲェ心配したけど…美緒が無事でよかった」


美緒「(イラッ)…無事じゃないけどね、けっして」


啓太「そう…だよな、うん…ごめん」


下を向き、美緒を視線を合わそうとしない啓太。

そんな啓太の挙動をじーっと見つめる美緒。


美緒「聞かないんだ」


啓太「なにを…?」


美緒「あたしが、何されたか」


啓太「言いたくないだろ? 言わなくていいよ」


眉間のシワがますます深くなる美緒。


啓太「俺はさ」


美緒「うん」


啓太「自分が許せないんだ」


美緒「…うん」


啓太「惚れた女ひとり守れないくせに、結婚結婚だなんて…一人て大騒ぎして…バカだよな、ホント」


少し頬が緩む美緒。


美緒「うん」


啓太「俺わかったんだ。俺にはさ、美緒を幸せにする資格がないって」


美緒「…うん?」


啓太「俺は俺自身を許せない。これは俺が一生背負う十字架だ。それはいい。でも、美緒は幸せになって欲しい。俺と同じ十字架を美緒に背負わせたくないんだ」


美緒「ううん? ごめん、ちょっと意味がわからな…」


啓太「俺を見たら、美緒は嫌でもその十字架を思い出すだろう。それが俺には耐えられない。傷つくのはもう俺だけでいい。美緒を守りたいんだ」


美緒「(???)…うん」


啓太「わかった?」


美緒「まぁ…? なんとなく…だけど」


啓太「よかった!」


途端に安堵の顔になる啓太。


啓太「俺、これからもずっと美緒の味方だから! 美緒と知り合えてホント良かった。元気でな! じゃあな!」


晴れやかに立ち去ろうとする啓太。


美緒「ちょっと待てやああ!」


啓太「(ビクッ)な…なに⁉︎」


美緒「なにじゃねーよ。え? ちったぁ反省してるかと思ったら、なに? 別れ話かよ!」


啓太「いや、だから、それは美緒を守るために…」


美緒「テメェの為だろ! ハッキリ言ゃあいいじゃん、ヤクザにレイプされた女は要らないって!」


啓太「こ、声が大きい!」


美緒「よーやくわかった。なんだかんだ言って自分しか見てないんじゃん啓太。あたしと結婚したいのも都合のいい女だからでしょ? 大事なのは自分なんでしょ?」


啓太「そ、そんなことないよ」


美緒「ちゃんと人の目ェ見て言えよ!」


啓太「(絶句)」


美緒「あたし、今ヤクザさんの女になってるの。助けてくれるんだよね? 裏切らないよね? 啓太!」


涙目の啓太。

深々と頭を下げる。


啓太「……勘弁してください…!」


美緒「なんだよそれ…」


啓太「あ、あの人にちゃんと伝えといて! 警察に言ってないからって! 約束は守って…!」


美緒「消えて」


コソコソと美緒の前から立ち去る啓太。

その背中に向かって、無言で缶コーヒーを投げつける美緒。


ベンチに崩れ落ち、頭を抱える。

感情が一気に噴き出して、震えが止まらない。

思い立ったようにスマホを取り出す。

いつの間にか受信のあるLINE。


晃「今日、入籍しました! これから大変だけど頑張ります。美緒も結婚ww がんばってな!」


奥さんと幸せそうな自撮り写メ。


美緒「ぐうう!」


声にならない悲痛な叫び声を上げる美緒。

ただただ、嗚咽に震える。


若者「あの…大丈夫ですか?」


美緒「なんでもないです! 大丈…!」


グシャグシャの顔を上げる美緒。

その目が一点で止まる。


若者「あ、これ良かったら…」


ポケットティッシュを差し出す若者。

その手をガシッと両手で掴む美緒。


□部屋(美緒の部屋?)

イケメンの若者にベタベタの美緒。


美緒「ねぇ、タッくん〜。ここなんかどうかな? ほら、本場のシンガーが歌ってくれてこの値段って! お値打ちじゃない?」


イケメン「あの…美緒さん、俺全然稼げてないんで…それにこれ小樽じゃないですか⁉︎」


美緒「大丈夫だって〜。まだまだ若いんだから、足りない分はオネーサンが出すわよ〜」


イケメン「そーゆー問題じゃなくて、俺まだ二十歳なんで、結婚とかは全然考えてないとゆーか」


美緒「あらぁ、若いうちに籍を入れとくと何かと便利よ。銀行マンは結婚しないと出世できないって言うしー」


イケメン「銀行マンじゃないんですがそれは」


美緒「じゃあこれは? 家余りのおかげで都内でもこんなステキな物件が出てきたの! この広さで家賃なら納得でしょ! 2階があたしたち。1階をお母さまに使って頂いて」


イケメン「お母さま?」


美緒「タッくんのお母さまに相談したら超気に入ってくれて敷金出してくれるって!」


イケメン「俺の母さんに⁉︎」


美緒「うん」


イケメン「いつ⁉︎」


美緒「いつも。最近色々と相談に乗ってもらってんだ。お母さま、学生結婚だったんだね。あたし、超近親感沸いちゃってさ〜」


笑顔でスラスラ話す美緒に対し、

愕然の表情のイケメン。


□イメージシーン

屋外。足軽の格好の美緒。

手には鍬(またはスコップ)


美緒「埋め終わったぞお! 次は内堀だ!」


全員「オー‼︎」


美緒「いくぞー‼︎」


全員「うおおおお‼︎」


勇ましく雄叫びを上げ、鍬を振り上げ、一斉に向かってくる大勢の足軽のイメージ。

全員、美緒の顔。


□室内

イケメン「(絶叫)NOおおお〜‼︎」


美緒「ウフッ♡」


□エンディング


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