第54話 視野

悪竜の視野は本当に狭い、

そして視認できる範囲も、

物事を認められる距離も、

どれも狭かった、

もともと狭い隙間に、

落ち込んで生まれた故に、

話の理解力も無かった。

魔法書を読むには読解力が要る、

その読解力が悪竜には欠如、

していたので、魔法書を食べることで、

魔力を補い続ける一方向であり、

ひとつひとつの文書に向き合う、

余裕自体が無かった。

なんとなく感覚で得たものを、

眼で認めて続けて連続的に、

話しているのを悟っていたが、

今や、超大国と一体となったゆえに、

その知性自体が暴走し、すべてのものの、

考えとどこかで結びつきはじめた。

アヤト シングレ ダノマ イセイ

あとは クラリイナ アンジュリィ

大魔女テファイ それぞれ一度、

電撃が走ったことのある名前をなぞり、

忘れてしまった名前を二度掘り起こすことが、

出来るかさえ謎であった。

一等文士でさえ記憶力はさだかではない、

人間に残された記憶力はそう大きくなく、

すぐにでも限界を迎える。

限界になった記憶容量を抱えたものは、

多くのバグを孕んで生き続けなければならない、

にも関わらず、社会に適応するだけの、

能力を悪竜は持っておらず、

これを破壊することでしか、

己を保つことは出来なかった。

「覚えられることって限られてるから」

人の記憶の限界に挑んで話を描いている。

大量のエピソードを産み出さなければ、

人はそれぞれを順序立てて記憶できない、

ゆえにそれぞれのキャラクタは舞台で動き、

役割に基づいて、話を回してきた。

とするなら、今の段階で忘れてしまった物語は、

いちいち悪竜の感覚に乗せて思い出さなくても良い、

物語である。

人間がすべて死んでしまったわけではないのだから、

ひとつひとつを向き合う必要があることもない。

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