第154話 存在理由
一面真っ白に染め上げられたグースカダー山の雪原の上を、
目的地はもちろん、
『……場所を教えてもらえれば一人でも良かったんだが……わざわざ着いてきてもらって済まない』
俺がカーに向かってそう言う。
雪豚鬼の集落でカーと族長のハクムに氷狼の居るだろう、グリフォンの繁殖地の場所について訪ね、さぁ行ってくるかという話になったのだが、その際に案内を買って出たのがカーだった。
俺としては一人でも問題ないし、そこまで迷惑はかけられないと一度断った。
カーは彼ら雪豚鬼のカルホン氏族にとって重要な戦力であるわけだし、それを一時とは言え借り受けるというのは問題があるだろうと思っての言葉でもあった。
しかし、カーは、『友人が困っているときに手を貸せず、何が友か』と言い張り、ハクムもハクムで『
彼らのこのような態度は、俺にとって古い時代の
もちろん断ることなど出来るはずもなく、最後には頷くことになったのは言うまでもない。
『……アインが
『確かにそれもそうだが……集落からカーを奪ったようで申し訳ないのだ』
『何、一時のことだ……それに、集落でも言ったが最近、氷狼は集落の周りをうろついていることが少ない。奴らと戦うには俺の力が必要だろうが、それ以外の魔物相手であれば雪豚鬼の戦士達が気後れすることなどない。心配は必要ないのだ』
『なるほど。そういえば、話を聞くに強力な魔物がいるのは氷狼と、お前達雪豚鬼、それに雪ゴブリンだという話だったが……他にもいるのか?』
それはネージュに聞いた話とも一致する。
カーは俺の言葉に少し考えてから言う。
『……いや、今はそれほどの者はおらんな。
ハクムはやはり、物知りであり、かつその知識を使って物事を考えることが得意なようだ。
そんな彼の予想がそういうことのようで、それは俺が考えていたこととも一致する。
『そこまでは納得のいく話だな。しかし他にもそういう魔物はいないのか?』
この質問はカーが“今は”と前置きをしたからこそのものだ。
これにカーは頷き、
『ああ、今は、いない。昔はいたようだが……山を下りて出て行ったりした者もそれなりにいてな。また、そういった魔物が出現した初期の方は……掟もなく、争いも激しくて絶滅にまで追いやられた種族もいたのだ。その結果、我らと氷狼、そして雪ゴブリンが残った、ということだな。もちろん、今では我らの他にも魔物は多くこの山に住んでいるが……その争いの後にこの山に入って住み着いた魔物達には我らのようなものは生まれぬようでな……』
争い、とはカー達のような者が生まれ、その力を活用した魔物同士の戦争のことだろう。
そしてそのときには雪豚鬼、氷狼、雪ゴブリンを除いた他の魔物は山から一旦いなくなった……だが、その後に山に魔物が入ってくるのは当然で、しかしそういった魔物達にはカーたちのような魔物は生まれない、と……。
理由はなんとなく想像がつくな。
おそらくは……ネージュの母の力を受け入れられる器の問題だろう。
カー……というかハクムはそれぞれの魔物の特性から、その器の大きさが決まるような理解をしていた。
雪豚鬼は体が強靱で、氷狼は精霊に近くて、雪ゴブリンは可能性の固まりの魔物だから、と。
しかし俺はそれは必ずしも間違いではないとは思うが、もう一つ理由があると思った。
それは、彼らグースカダー山固有の魔物種族こそが、ネージュの力を数千年、数万年と受けた結果生まれた存在であるということだ。
雪豚鬼、氷狼、雪ゴブリンはいずれも他の地域にはいない存在だ。
少なくとも俺が前世、魔族だった頃にはいなかった。
同じ名前で呼ばれる存在はいたのだが……それらとは別の種族になっていると言って良い。
そしてその理由はネージュの母の創造神に等しい力の影響だ。
それを受け続け、種族が変容し、さらにネージュの母の力を受け入れる器が出来て、だからこそカー達のような者が生まれるようになった。
それが真実なのだろうと思う。
この予想を確定するためにはネージュの母に真相を尋ねるのが一番だろうが……もう彼女はこの世界にはいないからな……。
もっと色々と調べて見るしかないだろう。
とはいえ、大体正しいと思うのでその予想をカーに言ってみると、
『確かに、納得の行く説明ではある。そうであれば外から入ってきた魔物はまだ種族そのものがこの山の魔物のように変化していないために雪竜様の力を受け入れられぬと理解できる……まだ住み始めて数百年しか経っておらんからな。そしてそれだけの力を持っていた雪竜様はもうこの世界を去られているということを考えると……もう我らのような種族が生まれることはないということか』
『そうとも言い切れないな。ネージュがいつか、彼女の母と同じくらいの存在になる日は来るはずだからだ。しかしそれはかなり先のことになると思う。今まで通りの生活をしてる分には、そういった魔物の種族は中々生まれないだろうな』
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