第130話 夜の屋敷

 その日の夜。


 ――ごちそうさまっ!


 と、レーヴェ村に存在する我がレーヴェ家の屋敷の食卓で、リュヌと二人で宣言し、そして、


 ――お休みなさい!


 と叫ぶように言って素早く自室に下がった。

 母アレクシアと父テオはそんな俺とリュヌを見て目を丸くしていたが、結局、


「え、ええ……おやすみなさい。アイン、リュヌ……」


「こんなに早く寝るのか……? まぁ、そういう日もあるか……お休み」


 と言って無理矢理自分を納得させていた。

 なんだか申し訳ない気分になってくるが、これは必要なことであるので仕方がない。

 ただ、両親も慣れて来たもので…というかリュヌが来てから俺の奇行も度を増しているところがある。

 いつものことか、と諦めているところもあるのかもしれない。

 元々俺はまともな子供でもないしな……。

 かといって危険なことをしているわけではないから叱られる、ということにもならない。

 実際には死霊術とか魔道具作りとか一般的に言って失敗すればめちゃくちゃ危険な行動をとっているわけだが、そんなことは両親には知りようがない。

 まぁ、もちろんちゃんと気をつけているし、どちらも慣れたものなので危険では無い……はずだ。

 そして、部屋に戻った俺とリュヌであるが、二人そろって服を外出着に着替える。

 さらに俺は《人形創造ボアニカ・クレアソン》の魔術を使い、外見上は俺たちそっくりの人形を作った。


「主どの。ご命令を」


「右に同じく」


 そう言っている俺たちの身代わり人形。

 毎回自分で使っておいて思うが、自分がもう一人いる、というのは何だか脳が混乱するな。

 この魔術に失敗し、発狂する魔術師がたまにいる、という話が理解できる気がする。

 自分がもう一人いることがどうしても受け入れられなくなって、混乱し、そして狂ってしまうのだ。

 全く安全な魔術ではないが、やはり俺は慣れているので問題ない。

 俺は二人の人形に向かって言う。


「今日の夜、俺たちは留守にする。したがって、お前たちにはそこで俺たちの代わりにベッドで眠っていてもらいたい。いいな?」


「承知いたしました」


「……同じく」


 頷いた人形二体がいそいそと俺たちの寝間着に着替え、ベッドに入ったところまで見届けて、


「よし、じゃあリュヌ、行くぞ」


 そう言って俺たちはそっと外に出る。

 あまり派手に動くとアレクシアはともかくテオが気づく可能性があるので慎重に、だ。

 

「……どうやら気づかれないで済んだな」


 リュヌがそういったのでほっとする。

 父は結構鋭い方なので、リュヌでもそうそう油断は出来ないらしい。

 とはいえ、今までで気づかれたことはまだないのだが。


「子供の体というのも楽なことばかりでは無いな……ま、いい。リュヌ、急ごう」


 そして俺たちは転移装置のもとへと向かった。

 もちろん、自らの足で、である。

 あの洞窟まで大人の足でも相当かかるが、俺たちなら軽いものである。


 *****


「……暗いとなんだか雰囲気が変わって見えるの……」


 転移し、グースカダー山からネージュに運んでもらって問題の屋敷にたどり着くと、早速俺たちは探索を始めた。

 確かにネージュが言うように、昼間のときとは違って、屋敷の中にはなんだか空恐ろしいような雰囲気がある。

 それは必ずしも気のせい、というわけではなく、この屋敷の中に結構な死霊が集まっているからに他ならない。

 ほとんど意思すら持たない、弱い死霊であるが、これだけの数が集まると言うことはそれを集める存在がいるということだ。

 死霊がこの屋敷を呪っているというボリスの話はどうやら正しいらしい、と一目で分かった。


「……で、問題の死霊はどこにいるんだ?」


 リュヌがそう聞いてきたので、俺は答える。


「……はっきりとは分からんな。この屋敷の中であるのは分かるが……魔力で探知しても良いんだが、それをすると消してしまうか、逃げられる可能性もある。地道に探すしか無いだろう」


 普段であれば魔力探知でもって楽をして探すのだが、今回の死霊については用事がある。

 今、その死霊が呪っているらしい前オーナーらの呪いを解いてほしいし、それに加えて少し考えていることもあるのだ。

 消滅させる可能性のある行動は避けることとしておきたかった。

 

「……地道に足でね。じゃあ、三人で別れて探した方が良いんじゃねぇか? 俺は死霊も見えるようになったし……あぁ、でもネージュは見えるのか?」


 リュヌは色々と修行の成果もあり、死霊術の基礎たる死霊の視認についてはある程度出来るようになっていた。

 だから問題ないだろうが、確かにネージュはどうなのだろう。

 リュヌの質問に、ネージュは答える。


「大丈夫なの。見えるの。私の目はとってもいいの」


 それが真竜としての能力なのか、ネージュが努力して身につけたものなのかは分からないが、とりあえず見えるならそれでいいだろう。

 じゃあ、というわけで……。


「別れて探そうか。だが、無理はするなよ。呪われました、なんてことになったら面倒だからな」


 まぁ半ば冗談だが、絶対にあり得ないとまでは言い切れない。

 特にリュヌは。

 ネージュはそもそもかなり丈夫だろうし、人間の死霊の呪いぐらい弾き飛ばす抗魔力があるはずだから心配要らないだろう。 

 その点、リュヌも俺特製のかなり抗魔力の高い体であるので問題ないとは思うが……念のためである。

 俺の言葉に二人とも頷いて、


「あぁ、せいぜい気をつけるぜ……先に見つけた奴が何か奢ることにしようぜ」


「私も気をつけるの~。死霊探し競争なの!」


「別に構わないが……大した金がないからな。俺とリュヌが負けたら出世払いだからな」


 そして、リュヌとネージュは別々の方向に歩き出した。

 俺も、二人が進んだ方向では無い方へと進む。

 なんだかんだ、多分あっちだろう、という見当はついてたりするので俺が負けることは無いはずだ。

 ずるだって?

 いいや、断じてそうではない。

 俺は俺の能力を最大限活用して勝負に勝つだけだ。

 そもそも、賭けを言い出したのは俺ではないしな……。

 

 しばらく屋敷の中を進んでいると、怖気を感じる部屋を一つ、見つける。

 どうやら、ここのようだ、と理解した俺は気を引き締めて扉の取っ手を掴んだ……。

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