第112話 説明
「お互いの自己紹介も済んだところで、だ。俺たちがどうやってここに来たのか、だったな」
俺がそう言うとネージュは身を乗り出して尋ねる。
「そうなの! ぜんぜん気配を感じなかったの。突然、山の上の方に現れたから……びっくりしたの」
彼女の認識からするとそうなのだろう。
リュヌもそれを聞いてなるほどと納得している。
「そういうことならいきなり襲いかかられても仕方ねぇよなぁ……」
そんなことを言っている。
どこまで話すか、というのは悩むところだが、ネージュは割と理性的で穏やかなことがここまでで何となく分かっている。
つまり、全部話してしまってもいいだろう、と思う。
俺のことを大分、強く見積もっているようだし、仮に転移装置の場所を教えたとしても、いきなり転移装置をぶちこわす、なんてことはあるまい。
「さっきも言ったが、俺たちはネス大陸からここにきた。で、その方法は……転移装置だよ。知っているか?」
「……知らないの」
「だよなぁ……。古い装置だからな。あの山の切り立ったところ辺りに洞窟があって、そこに遺跡があるのは?」
転移装置の場所を示して尋ねると、意外にもこれにネージュは頷いた。
「知ってるの。お母様からあそこにある装置は大切に守るようにって言われたの」
「なんだって?」
ネージュの母上、というと創造神になってしまった真竜だと言うことになるが、なぜそんな存在が転移装置を……?
なぞだ。
「昔、ラスールって人に頼まれたって言ってたの。それに自分もたまに使うからって」
「ラスール……まさか。そんな……」
俺はその名前を聞いて驚く。
なぜといって、その名前は俺がかつて使えた魔王陛下の名前だからだ。
あの人は真竜と知り合いだった?
それも普通のではない、神にすら至れる古い、古い真竜と……。
なぜ教えてくれなかったのか、と思ったが、仕方がないとも同時に思う。
そんなものと知り合いなら手を貸してもらったらどうか、という話に絶対になっただろうからな。
陛下は、ここにいた真竜を戦争に無理に引っ張り出したくはなかったのだろう。
そもそもそういうものから距離を置いていた真竜だったようだし。
しかし当時の俺たちにそのことを説明しても、なにが何でもお願いしては、と言う者もいただろう。
だから、仕方がない。
しかし、それはそれとして……たまに自分も使っていた?
真竜が俺たちの転移装置を使っていたのか。
全く気づかなかったが……。
俺たちが負けたあとの話かもな。
けれどネージュは……。
「ネージュは使わなかったのか?」
「……百歳を越えたら使い方を教えてあげるって言われてたの。でも、その前にお母様は昇神してしまったから……結局教えられないままなの……」
「……昇神って、タイミングを選べないのか?」
「無理なの。世界に収まらないほどの力を得てしまったら、すぐに世界を出ないと……害が出るの」
一体どんな害が出るのか、観測してみたい気がしたが、そのときには俺も一緒に世界と滅びることになってしまうだろうし、断念せざるを得ない。
俺もいつか創造神でも目指すか?
いや、でも万の時を生きるというのは……必ずしもその年月いきる必要はなく、力さえ得られればいいのだろうが、矮小な人の身でそんなところまでたどり着くのは簡単でないどころかほとんど不可能だからな。
まぁ、俺もそのうち
そうすれば寿命はなくなるし、目指すことは出来るかもしれない……。
そのとき考えることにするか。
「……おい、昇神って何の話だ?」
リュヌが尋ねてきたので俺は答える。
「このネージュの母親は五十年前に創造神に昇神した真竜なんだよ。それで、もうこの世界にいないらしい」
「……もう神話の世界じゃねぇか。あんたと一緒にいると退屈しねぇな……しかし神様か。つーと……ネージュ。あんたの母親の名前は、アミトラか?」
リュヌがふとそんなことを尋ねるとネージュは頷いた。
「そうなの。どうして知っているの?」
「そりゃ、ポルトファルゼで主に信仰されている宗教が、アミトラ教だからな。グースカダー山の雪の神を祭っているとは聞いていたが……なるほど、あんたの母親か。しかも今や創造神って……」
そう言えば、アミトラ教の僧侶がどうのと言っていたな。
ここに年に一度登ってくると……ネージュの母親、アミトラに会いに来ていたわけか。
しかし、もういないわけだが、それでも来ているのか。
いや、ネージュがいるか。
そう言えば……。
「僧侶が魔術を見せてくれたり、食べ物をくれたりするって言ってたな?」
俺が尋ねると、ネージュが頷く。
「そうなの。おいしいの。それに人の魔術は見てておもしろいの。でもアインの使った強い魔術を食らうのはイヤなの」
「もうそれはやらないから……たぶん、ネージュにそういうことをするのは、ネージュをアミトラと同一視しているか、アミトラの子供と理解して祭っているのだろうな……」
「そうなの? 私、お母様みたいに強くないし、神様になるにはこれから何千、何万年も生きなければならないの」
この台詞にリュヌは、
「あれで強くねぇって、一撃で凍らされた俺の立つ瀬がねぇよ……」
「でも死ななかったの。この辺りの魔物はみんな凍らせたら死ぬの」
ネージュの容姿から出るとは思えない物騒な台詞だが、ここで生きているならそういう感覚も必要だろう。
「よかったな、リュヌ。魔物よりも丈夫だってさ」
「……それは喜んでいいのか? どっちにしろそれは俺のってより、あんたの功績だろうが」
「弱い死霊なら体を持っていても真竜の
「先にそれを言って戦わせてくれ……」
俺の後出しに不服そうにそう言ったが、言わなかったのはそもそも大丈夫そうだったからだ。
嫌がらせではない。
「まぁ、それはそれとして話を戻そうか。さっきも言ったが俺たちは、転移装置でここにきた。それがあそこにあって……壊さないでほしい、って頼もうかと思ってたが、その必要はなさそうだな」
「うん。壊さないの。お母様からの言いつけなの。でも……」
「でも?」
「私も使ってみたいの。使い方、教えてくれるの?」
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