第111話 リュヌ復活
「……ん? あぁ……ええと……」
リュヌに
昔はよく、魔道具に組み込んで料理道具に使われていたものだ。
ラインバックやフラウカークの魔道具店にも類似の魔道具はあったが、やはり
ただ、難易度がかなり違うので、制御に失敗すると火事になるけどな。 そういう意味では
どんな魔術にも善し悪しはある、ということだな。
それでリュヌである。
「……うえっくしょん!」
と、くしゃみをした。
ネージュの
このまま放っておくと今度は凍死するかもしれない。
別に容易に蘇らせられるからといってそうそう何度も死なれては手間だ。
「……
俺がそう唱えると、濡れていたリュヌの体が一瞬にして乾く。
これも生活に便利な魔術だが、やり方によっては体ごと乾燥してしまうのでやはり、制御は大事だ。
カラカラに乾いたミイラとか、それをも越えて砂になったりしてはさすがの俺も修復不可能である。
衣類なんかを乾かす場合も同様だな。
痛まないように乾かすさじ加減というのを身につけるまではひたすら練習なのだった。
「……はぁ。人心地着いたが……一体これはどういうことだ。そもそもそこの嬢ちゃんは一体……?」
きょろきょろと辺りを見つつ、リュヌが尋ねた。
いきなりネージュに凍らされてそれっきりだもんな。
状況がまるで掴めなくても仕方がない話である。
やろうと思えば凍り付いた体から幽体離脱する、なんてことも死霊であるリュヌには可能なはずだが、やはりまだ、死んで間もないからだろう。
人の体の感覚に引きずられてしまって本当に意識が飛んでいたようだ。
こういうのは慣れであるから、まだまだ修行あるのみだな。
「この子の名前はネージュだ。で、こっちがリュヌな。俺の……友達、かな」
正確に言うなら下僕とか眷属とかということになるだろうが、そういう従わせ方をする気はないし、してもいない。
それに本来の年齢はともかく、十四、五の娘にそんな話をするのは気が引ける。
したがってこれくらいでよしとしておく。
これにネージュは頷いて、
「……そうなの。生きていてよかったの。殺してしまったらアインに殺されてしまっていたかもしれないの……」
と若干おびえつつ言う。
……どうもネージュは俺の力を高く見積もりすぎている感じがするが、まぁ、無理に喧嘩を売られないと考えれば別にいいのだろうか?
しかし、ネージュをどうこうしよう、とは思っていないのでそれについては言っておく。
「こいつに関しては体が滅びたくらいじゃ死なないから大丈夫だぞ。普通の人間ならそうもいかないが、特殊なんだ」
「……そんな人間いるの?」
「いる。少なくとも……今はこいつと併せて二人はいるかな」
もう一人はもちろん、ジールである。
「……ほとんどいないの」
ネージュは不服そうだが、とりあえず流しておく。
「おい、アイン。俺はともかく……その嬢ちゃんは何だ? 一体どこから来たんだよ……ここは、さっきと場所、変わってねぇよな? グースカダー山の山頂付近だし……なのにそんな格好の娘が一人っておかしかねぇか?」
きわめて素直な疑問である。
俺もまた、素直に答えた。
「あぁ、だって
「なるほど、
リュヌはどうやら俺がふざけていると思ったらしい。
しかし、俺は他の答えを持ち合わせていない。
首を横に振って、
「いや、本当なんだが」
と言ったが、
「おまえなぁ……」
とリュヌは呆れきりである。
どうしたものか、と俺が悩んでいると、
「……じゃあ、見せてあげるの」
と言って、ネージュがとててて、と少し離れた位置にまで進み、そこでむん、と力を込める仕草をすると、その体がふっと雪に包まれるように掠れると同時に、巨大な質量が広がった。
雪煙がしばらく立ちこめ……そしてそれが晴れる。
「……おいおい、マジだったのかよ……嘘だろ」
リュヌが呆然とした表情で見つめる先には、しっかりと
こうして改めて見ると美しい竜である。
人化すると絶世の美少女へと変わるのも頷ける。
ぱっと見、真っ白い雪のような羽毛が包む、鳥のような翼を持つが、その頭部や首は明らかに竜のもの。
瞳は人化しているときと同様に紫の宝石のような輝きを持っていて、よく見れば知性の光も宿っているのが分かる。
戦闘中は野生動物のように獲物をひたすら追う視線をしていたが、落ち着けばこのように穏やかな存在だ、ということなのだろうな。
しばらく俺たちが鑑賞し、リュヌがしっかりとネージュが竜だと認識したことを理解すると、ネージュは再度、しゅるしゅると縮み、人の姿へと戻った。
「……さっきは凍らせてごめんなさいなの。敵だと思ったの」
改めてネージュが近づいてきて、リュヌにそう謝ると、リュヌは若干ひきつりつつも、すぐに意識を切り替えたようだ。
その辺りは元暗殺者らしい現実思考だな。
「いや……俺たちもたぶん、あんたの縄張りに勝手に入ったんだろう。だから別にいい。出来るならお互い様ってことでどうだ」
「そうしてくれるとうれしいの」
そして、二人は握手をしたのだった。
これで一件落着……でもないか。
俺たちがどうやってここに来たのか、なぜ来たのか。
その説明がまだだからな。
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