第92話 フラウカーク帰還
フラウカークに戻ると、両親と祖父母、それにファルコとイグナーツ、マルクやヨハンが迎えてくれた。
どうやら今日戻る、と先日のうちに先触れをロザリーが出してくれていたようだ。
それでみんないたわけだな。
この日はみんなで晩餐をとった。
マルクとヨハンは固辞したのだが、皆が進めるので断りきれず、結局一緒に、ということになった。
晩餐においては、最初の方はみんなで話していたが、徐々に個別のものに移り、大人は大人同士、子供は子供同士で話すようになっていった。
大人の口にはワインが入ったのもあるだろう。
ラインバックでの出来事の報告もロザリーにはあり、そういうことになったのもある。
なんとなく聞いているに、ロザリーは目的は概ね達成した、問題ない、ということを言っているようで、みんな安心しているようだった。
ジャンヌの恋心でハイドフェルド家とケルドルン家の間に亀裂が入る可能性もなくはなかったので、その心配が取り払われたからだ。
ただ、ロザリーが、「アインがうまくやりました」とも言っていて、そのときは俺に視線が集まっているような気がしたが、気づかない振りをしてやりすごした。
ファルコやヨハンと子供同士楽しく話している振りをしながら……。
「ラインバックはどうだった? 僕は行ったことがないんだ……ファルコはあるんだよね?」
主家にあたるファルコをヨハンが呼び捨てなのは、ファルコの願いからだ。
もちろん、人前ではしっかりとした言葉遣いをするつもりだろうが、本人からの願いである。
それにヨハンは器用というか、そういう切り替えがうまいから問題ないだろう。
「あぁ、あるぜ。でもあんまり外にはでれなかったからなぁ。パーティーに行ってきただけだし。アインはどうだったんだ?」
ファルコがそう尋ねてきたので、俺は正直に答える。
「色々なものを見てきたな。ケルドルン侯爵の屋敷はもちろんだが、ラインバック港の様子とか、大きな船とか……中を少し、見せてもらったりもした。
「えっ!? マジかよ……羨ましいなぁ。俺が行ったときは、母様は絶対に許してくれなかったぜ。『おまえは外に出たら即座に迷子になるからだめだ』ってよ……」
がっくりしたように言うファルコはなんだか可愛らしく見える。
それにしても即座に迷子になるとは。
確かにそんな気がするな。
ロザリーは母親として、しっかり息子の性格を把握しているようだった。
じゃあ、俺はいいのか、という気がするが、やっぱりロザリーは俺について色々思うところがあるのだろう。
そのうち、しっかりと説明しなければな、と改めて思う。
「
そういったのはヨハンである。
確かにフラウカークで
この辺りは結構、乾燥しやすい。
そもそも総数の多くない種族だ、というのもある。
そしてその大抵はラインバックのような海辺や、湿地帯、水場の近いところに住んでいるという。
中々会わないのも道理だ。
「本当に蜥蜴が直立しているみたいな見た目で、最初は面食らったけど……話してみると普通の人と同じだった。ただ、かなり大きな人が多かったかな」
「
「そうらしいな」
生きている限り、どこまでも大きくなっていく。
特に長く生きた
ただ、老化はしっかりとあるので、あまりに巨体すぎても支えきれなくなり、立ち上がれなくなる者も少なくないらしい。
しかし、そうなった場合はしっかりと種族の者で世話をするので生活に極端に困る、ということはない。
「それと……あぁ、魔道具店も見に行ったぞ」
「魔道具店!? なんだよ、本当に楽しく過ごしたんだなぁ、おまえ。俺も行きたかったぜ……」
口をとがらせるファルコに俺は言う。
「フラウカークにも魔道具店くらいあるだろ」
「あるけど……魔道具店は地域によってかなり品ぞろえが違うんだぜ。フラウカークのはもう見飽きるほど行ったからなぁ……それでもまた行きたいけど」
確かにそういうところはある。
魔道具は地域によって需要が大きく変わってくるからだ。
たとえば、鉱山地帯では掘削が出来る魔道具が求められるし、海辺では魚を寄せることのできる魔道具があったりとかな。
それに通常の品物のように、当然街の規模や交易の盛んさにも影響を受ける。
フラウカークよりラインバックの方が各地から物が集まるからな。
あそこだからこそ、俺のかつての同僚、マリア謹製の治療魔道具があったのだ。
「そのうち行けるさ……そうだ。ラインバックでジャンヌと仲良くなったって話はしたよな」
先ほど二人にはその辺りの話はしていた。
少女ながら剣術に身を入れるジャンヌの話を二人は感心して聞いていた。
二人とも、これでジャンヌ同様に剣術修行に明け暮れているからな。
心は近いところにある。
「そうだったね。それがどうかしたの?」
ヨハンが尋ねてきたので、俺はケルドルン侯爵とした約束の話をする。
「あぁ、それで、ケルドルン侯爵からたまに訪ねてくれって言われてて……特に、今度の夏にミトルワート高原の別荘に来ないかって話があってさ……で、友達も連れてこないかって。もちろん、向こうにお伺いを立ててからになるけど、許しが出たら二人も行かないか?」
「えっ! 本当か!?」
まず、ファルコが目を輝かせてそういい、次に、
「……僕も一緒でいいのかな? 貴族の方の別荘に、なんて……」
ヨハンが遠慮げにそう言う。
「たぶん、大丈夫だろう。ケルドルン侯爵は公的なところならともかく、身分で人の価値を決める人じゃないからな。だいたい、それを言うなら俺だって行っちゃだめってことになる。まぁ、聞いてみないと分からないけどな。ファルコはロザリーに、ヨハンはマルクにもお伺いを立てないとならないし」
「……母様か。許してくれんのかな……」
「おじいちゃん……頑張って説得しよう……」
俺の言葉に二人はそんな風に、絶望的な戦いに挑む戦士のような顔で呟いたのだった。
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