第79話 狩猟人
次の日。
俺は珍しくロザリーと共にラインバックを散策していた。
二人で、である。
ケルドルン侯爵は護衛を何人かつける、と言ったのだがこれについてはロザリーが断った。
自分の身くらいは自分で守れるし、甥についても同様だと言って。
本来ならケルドルン侯爵もホストとして、それは認められないと言うところだろうが、俺が思っている以上にロザリーの武名は轟いているようだからな。
意外にもケルドルン侯爵はそれで納得した。
おかしなもめ事に巻き込んでしまった、という気持ちもあって強く言えなかった、というところも、もしかしたらあったのかもしれないが……。
まぁ、色々あるのだろうな、という感じだ。
ちなみにラインバックの街は以前にジャンヌも一緒にいろいろ回ったことがあるが、あのときに行けた場所はあまり多くなかった。
年端もいかぬ貴族令嬢であるジャンヌと一緒なのだ。
それも当然の話である。
翻ってみると、今日も一応、貴族令嬢であるロザリーと一緒なのだが、彼女はなんというか、普通の貴族令嬢ではない。
むしろカテゴリー分けするのであれば、女傭兵とか女盗賊頭とかそういうのと一緒のところに分類されるタイプだろう。
どんなところへ行こうとも微動だにせず、むしろ獰猛に笑っている姿が容易に想像できる。
もちろん、そんなことをロザリー本人に言ったら酷い目にあわされることだろう、ということはよくわかっているので言わないが。
それに、普段は本当に貴族女性らしいところも持っている人である。
ただ普通の貴族女性の数百倍、肝が据わっているだけだ……。
「……あれはなに?」
街を歩いていると、やはり俺にとっては非常に新鮮な景色で気になるものがたくさん出てくる。
そのたびにロザリーに色々と聞いていた。
ロザリーはそのたびに丁寧に説明してくれ、俺はありがたく思う。
子供のなんでなんで攻撃というのは結構面倒なもので、だいたいの大人はどこかで辟易し、適当にしか答えなくなるものだが、ロザリーはそう言う意味でも根気のある人だな。
さすがにそんな人を盗賊頭呼ばわりは酷いか。
それにしても、やはり、俺が以前生きていた時代とは街の感じは随分と異なる。
そもそも俺が魔族で、人間の街については普通に行くことはなく、訪れる場合は侵攻する場合とか、戦争活動に伴って、というのが通常だったから、普段の街の様子など観察する機会がなかった、というのもあるかもしれないが。
「……あぁ、あれか? あれは
俺が指さした建物を見て、ロザリーがそう答える。
これに俺は首を傾げ、
「
と再度尋ねた。
するとロザリーは、
「あぁ、そうだ」
「豚とか鹿とかを狩る人たち?」
「いや……そういうのは狩人という。
それは……昔にはなかった職業だな。
当然、昔から魔物は存在していたのだから魔物を狩る者は普通にいたが、そういう者たちはたとえば騎士や軍人であった。
それそのものを職業としている、という感じではなかった。
なぜか、といえば考えるに、戦争の最中だったから、というのが大きいだろう。
魔物を倒せる、それだけの武力を持つ者は戦争に投入される。
国に属していなければ傭兵になるものだったし……。
もちろん、魔物の素材というのは非常に魅力的なものであるからその需要は尽きなかったが、それこそそれは国が主導して狩り立て、ほとんどが軍需物資になっていた。
武具や魔導具の素材として。
民間に行き渡るのは、本当に低級な魔物の素材ばかりだった。
時代なのだろう。
今は、そういう感じではないようだ。
当時とは色々と状況も違うだろうし、世界中が戦火に包まれているというわけでもない。
となると、普通に魔物の素材を商売の種として卸業を行うというのはまっとうな思考だろう。
問題はそれを手に入れるために腕の立つ人材を確保することだろうが、昔であればほぼ全員、軍人になってしまっていたが、今の時代はそれもまた感覚が違うのだろうな。
「
なんとなく気になった俺の質問にロザリーは少し考えてから言う。
「難しいと言えば難しいが、簡単と言えば簡単だな」
「どういうこと?」
「……口で言うよりも行って確かめた方が早いかもしれんな。どれ、中を少し覗かせてもらおう」
ロザリーはそう言って、のっしのっしと
俺はそれを追った。
*****
加えて、ぱっと見るだけでは分からないが、至る所に魔術の気配が感じる。
建物そのものの強度をあげるためのものもあれば、魔術の発動を抑えるものとか、昇降機などの魔導具とか……中々の設備だな。
やはり、売り物が売り物なので儲かっているのかもしれなかった。
中に入ってまず思ったのは、人がまばらだな、ということだろうか。
「あんまり人がいないね?」
俺がそう言うとロザリーは、
「今の時間帯はな。日が高く昇っているこんな時は
「ははぁ……」
なるほど、と思う。
それからロザリーは建物内に設けられた受付らしきところに行き、そこに座っていた女性に言う。
「すまないが、
「……ええと? 失礼ですが、どのような……」
ご用件で、か、肩書きの人ですか、のどちらかが続くか、その両方を意味するためにあえて途中で止めたのだろう。
これにロザリーは正直に答えた。
「私はロザリー・ハイドフェルド。この子はアイン・レーヴェ。実は甥が街を散策している最中にここを目に止めてな。まだ五才だが、これで武術の修行をこの間始めたところなのだ。いつか魔物と戦うかもしれぬ甥に社会見学として、また魔物を倒したときに金を少しでも稼ぐ手段を教えておこうと、この
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