第80話 狩猟人になるには

 ロザリーの説明に受付の女性は少し考え、それから、はっ、と何かに思い当たったような表情をする。

 しかし、なにに気づいたのかは特に語らずに、


「……なるほど。そのような事情でしたら、ご説明いたしましょう。かなり先のことと思いますが、いずれ魔物と戦われるのでしたら、知っておいて損はないでしょうし、私どもとしても未来の狩猟人ハンターは一人でも多く確保しておきたいところです」


「そう言ってもらえると助かる」


「いえ……ではアインさま。ご説明しますね」


 そう言って彼女は狩猟人組合ハンターズギルドについて説明を始めた。


「まず、狩猟人ハンターになる条件ということですが、これは意外に思われるかもしれませんが、実のところ何もありません」


「何も? 名前を登録したりとか、そういうこともいらないということですか?」


 組合を名乗るからには、組合員がいて、それになるために何らかの登録が必要、というのが通常ではないかと思っての質問だった。

 その疑問を察してか、女性は答える。


狩猟人組合ハンターズギルドにおける組合員はその大半が、狩猟人ではなく主に出資している商人になります。一部、狩猟人もいますが、その場合もやはり組合に対して出資をしている場合が普通です」


「それなら……狩猟人組合、ではなく、商人組合、と言った方がいいような……」


「本質的にはそうですね。もっと正確に言うなら、魔物素材商人組合、ということになりますでしょうか。実際、かなり昔はそうだったと言われています。しかし、それではわかりにくいとの声がかつてあがったそうで、それ以来、我々のような組織は狩猟人組合ハンターズギルドを名乗っているのです」


 つまり、狩猟人とは魔物の素材を魔物素材商人に対して売る者ではあり、その統合窓口として、狩猟人組合ハンターズギルドがある、ということかな。

 なぜ魔物素材商人組合という名称ではだめだったのかといえば、わかりにくいからと。

 誰からか、といえば当然狩猟人にとってという話になるだろう。

 狩猟人がいないと成り立たない存在であるから、狩猟人を気遣ってそういうことになったのかもしれない。

 そのあたりの事情は聞いてみなければ分からないが……とりあえず、今は、女性の台詞の中で少し気になったことについて聞こう。


「我々のような組織、とおっしゃいましたが、ここの他にもあるのですか?」


「ええ。ここの他にもと申しますか、ある程度以上の規模の都市には必ずございます。ただ、それぞれの都市にある組織は別の組織で、運営する者も異なります。もちろん、協力関係を個別に結んだり、大きく国単位で緩やかに協力することはあるのですが、いずれにせよ、それぞれの都市にある狩猟人組合ハンターズギルドはそれぞれに独立した存在です」


 これはたとえば、ラインバックにある狩猟人組合ハンターズギルドと、フラウカークにあるそれとは同じ組織ではない、ということかな。

 これはまぁ、わかる話だ。

 ラインバックに銀細工店があり、フラウカークにもあったからといって、どちらも経営母体が同じ、とは限らないのと同じだ。

 ただ、同じ銀細工店同士が協力しあうことはあるだろう。

 遠くから仕入れるために連絡しあったり、情報を共有しあったり……。

 その程度のつながりはあるし、また反対に言えばその程度のつながりしかない、とも言える。

 女性は続ける。


「ただ、小規模の町や村にも狩猟人組合ハンターズギルドがあることはございます。この場合は、どこかの都市の狩猟人組合ハンターズギルドの出張所、ということも少なくありません。その町や村、独自の狩猟人組合ハンターズギルドということもございますが……」


 これも、普通の店とパラレルに考えればわかることだ。

 小さな町にある銀細工店が大きな都市の支店、ということは普通にあるだろうからな。

 これで、だいたい、組織についてはわかったかな。

 

「なるほど……丁寧な説明ありがとうございます。それで、結局、狩猟人になるには一体どうすれば……?」


「先ほども申し上げましたが、何も条件などないのですよ。魔物を狩り、その素材をこちらまで持ってきていただき、売却されればそれでその方は狩猟人ハンターです。何も登録など必要ありません」


「それは、たとえば小さな子供とか、枯れた老人とかでも?」


「ええ、もちろん。実際にたまに子供が小さな魔石を持ってくることもありますし、お年を召された狩人のご老人が、空を飛ぶ魔物を偶然しとめたからと持ってこられることもありますよ」


 小さな魔石、というのは超小型の魔物からとれるもののことだろうな。

 魔物の大きさは千差万別で、それこそ手のひらよりも小さなものもいる。

 鼠とか虫系統の魔物とかだ。

 小さいからと言って必ずしも弱いとは言えないのが魔物の怖いところだが、種類を見分けられるのならあまりおそれすぎることもない。

 それに、ほとんど動かない植物系統の魔物などもいる。

 そう言った、取りやすい奴らをしとめて、お小遣い稼ぎをしているのだろう。

 もちろん、弱い魔物からとれる魔石なんてのは大した価値もないが、組み合わせて使ったり、融合させたりなんてことも数を集めれば出来る。

 安いは安いがそれでも値はつく、ということだろう。


 しかし、そういうことなら、登録なんていらないというのもわかる。

 魔物を狩って持ってくるだけでいい。

 その魔物については組合の方で鑑定して値付けをし、買取額を提示して、狩猟人が受け入れればそれで、受け入れなければ買わないか、交渉するか、という感じになるのだろう。

 

 ロザリーがここに入る前に行った、狩猟人になるのが難しいと言えば難しいし、簡単と言えば簡単、と言った意味が分かった。

 弱い魔物の素材でも売値がつくものを持ってくればそれで狩猟人にはなれる、ただし、それで狩猟人と胸を張って名乗れるかと言えば微妙なのだろう。

 その辺のがらくたで作った木彫り細工を露天で売ったことが一度二度あったくらいで商人を名乗れないのと同じだ。

 本当にそれを名乗るには、継続的に、それなりの成果を収めていなければならず、それが難しい、ということなのだろうと思った。

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