5.心の破片を握りしめて、私はホームに立っていた
心の破片-その5-
アンジェリーナ王女は、棺の間に飾られていた。
命の尽きたドールは、葬式の後に火葬される。だが、王族のドールは、その美しさを永久に残そうと、棺の間に置かれる決まりとなっていた。
一目ご挨拶を、と思い、エドワードは棺の間を訪れていた。
水晶でできた棺がずらりと並び、その中で先代達が座らされている。その末席に、アンジェリーナ王女が座らされていた。
半顔ではあるが、その表情はあまりに無垢であり、今までに見たことがないほど穏やかな姿であった。
姫様は、それほど疲れていたのだろうか。
姫様の心は、それほど醜いものだっただろうか。
姫様の美しさは、それほど妬ましいものだっただろうか。
エドワードには、どの感情もわかるようで、わからなかった。
ただ、エドワードは、もう一度、アンジェリーナ王女に会いたい。それだけであった。姿形を見たいのではない。口が汚くてもいい、心を閉ざしていてもいい、彼女の髪を結いながら、ときおり、うれしそうに口に出すネイルやジュエリーの話を聞いていたい。
そう願うことは、間違っているだろうか。
「姫様、あなたは、何をお望みですか?」
答えのない問を、エドワードは呟く。
そのとき、だ。
エドワードの問を咎めるように、彼の頬を矢がかすめた。
「誰だ!」
答える者はいない。ただ、闇に潜む黒い影は、次の矢を放ってくる。エドワードはあわてて逃げ出した。
影の中から現れたの黒服の者。
戸惑うことなく、黒服の者は、エドワードは追ってきた。黒服の手には銀色のナイフ。慣れた手つきで黒服はナイフを振り上げ、そして、エドワードに向けた。
キン!
甲高い音が響いた。
ナイフはエドワードに届かず、騎士の剣によって阻まれた。
「ローリー様!」
そこに立っていたのは騎士ローリーだった。黒服も予想外のようで、明らかに狼狽しており、そんな迷いのある者に、騎士ローリーが負けるわけがなかった。
黒服のナイフは簡単に弾かれ、ローリーによって黒服の者は組み伏された。
「いったいどうしてローリー様がここに?」
「俺は、おまえのことを怪しんで、つけていたんだ。アンジェリーナ王女を修復したいだなんて、動機がさっぱりわからない。もしかしたら、疑われないための自作自演なんじゃないかと思ってな」
「そんなことを」
「だが、違ったようだ。こいつこそが、事件の犯人だろう」
そう言って、ローリーは、黒服の覆面を剥ぎ取った。
顕となったのは、よく知る男。
執事、モーガンだった。
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