3.本物という幻想

心の破片-その3-


 続いて、エドワードは騎士ローリーのもとを尋ねた。

 彼は、アンジェリーナ王女の警護を主に担っており、今回の事件をとても悔やんでいた。

 エドワードが犯人探しをしていることを知ると、ぜひ協力したいと言い、事件の夜のことを語ってくれた。


「確かに、あの夜、俺とモーガンは姫様の近くにいなかった。けれども、周囲の警護は万全だったし、姫様に謁見できたと思われる者は数少ない」

「つまり、突発的な侵入者の犯行ではなく、関係者の犯行だと、ローリー様は思われているのですね」

「それ以外にありえない。中でも俺はタナーを怪しいと思っている」

 ローリーは、第一発見者の一人、タナーの名を挙げた。


「あいつは姫様が襲われたとき、城内にいた。それに、姫様に会った最後の男だ。つまり、あいつが姫様を襲ったに違いない」

「ですが、もしも彼が襲ったのだったら、姫様に会ったことを自分で告白するでしょうか」

「さぁ、そのあたりは俺にはわからない。ただ、あいつは何かを隠している。あの夜も挙動がおかしかった。姫様が襲われたというのに、どこか呆けていて、まるで心ここにあらずといった様子だった」

 悲惨な出来事に現実逃避をしていた、とも考えられるが、ローリーの鋭い直感は無視できないとエドワードは思った。


「そういえば、姫様の半顔の破片を、ローリー様は見ませんでしたか?」

「あ? そういえば見てないな。俺が着いたときには、既になかったぞ。モーガンが先に回収していたのではないのか?」

「モーガンが? 発見したのは同時では?」

「違う。俺とモーガンは別れて捜索していた。モーガンとタナーが会い、そして、姫様を発見し、その後に俺が駆けつけた。さほどタイムラグはなかったと思うが、時系列ではそうなっている」

 だとするとモーガンが見ていないと証言している以上、破片は犯人が持ち去ったと信じるほかない。


「つまり、あの夜、ローリー様は一人になった時間があるということですね」

「そうだが、おい、俺を疑っているのか!」

「いえ、確認しただけです」

「俺は違うぞ! 俺は姫様の美しさを警護することを誇りに思っていた。その俺が、姫様を貶めるようなことをするわけがないだろ!」

「わかっています。ただ、姫様は、ローリー様のことを野蛮だ、醜いとよく罵っていたと聞いています。そのことを、ローリー様は快く思っていなかったのではないかと」

「くっ! それは、たしかにそのとおりだが、しかし、それで姫様を壊したりはしない!」

「えぇ、僕もローリー様が犯人だと思っていません。ただ、正直に話していただきたいのです。そこから犯人の手がかりが得られるかもしれません」

 ローリーは顔を俯けて小声で言った。


「姫様の美しさをお守りしたいと思っていたことは本心だ。ただ、同時に姫様の人柄を憎んでいた。あの人は、俺のことを虫けらのように扱った。いくら尽くしても、ただ美しさという一点でドールを評価し、泥汚いと言って俺達を認めてくださろうとはしなかった。もしも、姫様があれほど美しくなければ、この事件の犯人は俺だったかもしれない」

 ローリーは皮肉げに笑った。


「実は、姫様が壊されてホッとしている自分がいるのだ。もう姫様を憎まなくても済む。もう動くこともなく、しゃべることもない姫様は、ただ、ただ美しい」

「ローリー様、さすがにその発言は」

「不敬だったな、すまない。だが、どうだろうな。そう思っているのは、俺だけではないはずだ。姫様は、誰に対してもひどい態度をとっていた。エドワードよ、おまえにもそうだっただろう」

「僕は、別に」

「姫様が修復されることは喜ばしいことだ。それを否定するつもりはない。しかし、決して、姫様が愛しいからではない。姫様の美しい姿を取り戻してほしいからだ。この発言を犯人のものと思われても仕方ないが、正直に話せと言われたからには、正直に話そう。あとはおまえが考えてくれ」

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