1.8 はっちゃけNight!

『さて、もう恒例となってきました、あの子の部屋、横から見るか下から見るかのコーナーです!』

『ちなみに僕は穴から覗きたい!』

『はい、肉祭り《にくまつり》さんの嗜好は聞いてません』

『できれば、私は穴を――』

『自粛してください、肉祭りさん。あんまり編集の仕事を増やさないでくださいね。それはさておき、今日、お部屋を紹介してくれるのは、モデルの轟みこちゃんです』

『はーい。轟みこです。よろしくお願いしま―す』

『それにしても見事なスタイルですね。八頭身くらいありますか? 羨ましい限りです』

杏子きょうこアナは、三頭身!』

『ぶっとばしますよ、肉祭りさん。こほん、では、さっそくみこちゃんのお部屋を見ていきましょうか』

『えー、恥ずかしい』

『(ババン)はい、まず一つ目の写真です。あら、こんなこと言っては失礼ですが、生活感に溢れたお部屋ですね』

『あんまり見ないでください! 片付けとかさせてくれなかったんですよ。恥ずかしー』

『脱ぎっぱなしの服はスウェットですか?』

『はい、家では基本スウェットなんです』

『脱ぎ散らかした下着はないのか!』

『黙りましょう、肉祭りさん。あ、あのバランスボール、私も持ってますよ』

『本当ですか! 私、1日10分は必ず使うんです』

『あ、こちらが使っているときの写真ですね。すごーい。バランス感覚がいいんですね。私は、よく落っこちます』

『僕の人生は転落人生!』

『それには全面同意しますけど、みこちゃんのスタイルの良さは、こういうエクササイズに依るものなんですね』

『いえいえ、そんなことないです』

『では、次の写真、これはバスルームですか? お、みこちゃんの水着のサービスショットですね』

『うわー、これはだめだって言ったのに』

『入浴シーンはないのか!』

『はい、無視しますよ。それにしても広いお風呂ですね』

『お風呂だけはこだわったんですよ。足を伸ばせるお風呂がよくって』

『どこから洗うのかを教えてください!』

『教えなくていいですよ、みこちゃん。いやー、気持ちはわかります。でも、そんな長い足を伸ばせるお風呂なんてそうそうないでしょ』

『せめてお風呂の残り湯を――』

『お風呂の残り湯は洗濯に使ったりするとエコですよね』

『あ、私、やってますよ』

『みこちゃんもですか? 私もです。こんなきれいなモデルさんと同じことをしていると思うと何だか親近感が湧きますね』

『排水口の✕✕を――』

『捨ててくださいね。では、最後の写真です。ん? これは寝室の写真ですか?』

『はい。ベッドはモデル友達からもらったんです』

『へぇ、寝室はすっきりとした感じですね』

『僕とベッドインしませんか?』

『今すぐ、get out してほしいところですが、それはそれとして、ベッドの頭のところにお人形さんが居ますね』

『あ、はい。これはドール職人の友達からいただいたものなんです。私、けっこうこういうの好きで』

『それはそれは稀有なお友達をお持ちなんですね。うーん、私は詳しくないですけど、これは、本格的なお人形さんに見えますね。すっごくきれいです。こういう美しいものを身近に置いておくことが、美しさを保つ秘訣だったりしますか?』

『さぁ、どうでしょうか。ただ、このドールを見ていると、がんばらなきゃな、って心底思うんですよね。ほんと、心底』

『ライバルということですか? お人形さんがライバルだなんて、やっぱりトップモデルは違いますね』

『いえ、そういうのではないんですけど』

『はぁ、はぁ、お人形で、一人遊び。はぁ、はぁ、お人形の腕で、✕✕✕を〇〇〇〇して、はぁ、はぁ』

『さぁて、みこちゃん、ありがとうございました。それでは続いての大人気コーナー、肉祭りを血祭りに! よーし、今日のセクハラはひど過ぎたから、ぼっこぼこにするぞ♡』




               ★★★





 テレビの中で、グローブを付けた杏子アナが笑顔で芸人の肉祭りを殴っている映像を眺めながら、轟美心はごくごくと缶ビールを飲み干した。

 実際は一時間くらい収録したのに、オンエアは5分くらいしかなかった。テレビなんてそんなもんだが、少し悔しい。

 しかし、杏子アナは、ドールの話をきれいにまとめてくれた。

 あの質問のおかげで、ドールにまつわるエピソードが美意識の高い人アピールとなっている。それがいいのか、わるいのかは置いておいて。

 美心は、ちらりと寝室のドールに目を向ける。

 結局、買わされてしまったストローハットの少女のドール。彼女は、涼し気な風を思わせる白いレースを這わせたライトイエローのドレスに、肩下まであるグローブを備え、10万円超えのキラキラとした瞳をこちらに向けていた。

「がんばらなきゃな」

 まったく違う意味に伝わっていただろうなと思われる言葉が、自然と美心の口から漏れるのだった。

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