第36話 HYIP

ミナトは学校から帰って来てパソコンディスクの前に座った。

前までは帰って来たらパソコンの電源を入れて、リビィングにある電気ケトルに水を入れてスイッチを入れていた。そして、カフェモカを飲みながらマウスをクリックしてブラウザを開くのが日課であった。


しかし、今はAI搭載のパソコンが24時間トレードしているのでパソコンの電源を切ることはなくなった。ほぼ毎日トレードしっぱなしである。


そのためリビィングで先にカフェモカを作ってから部屋に入る習慣に変わっていた。


ミナトが今日調べるのはビットコネクトの時価である。

情報サイトで時価の一覧表示がされている。


ミナト「ビットコネクト・・・・っと、あった!」


ビットコネクトは時価総額で19位に位置している。時価はなんと434ドルになっていた。


仮想通貨のレンディングサービスをスタートさせるゴールドゲートはこのビットコネクトと同じ種類のサービスを提供するのである。


まだICO中なので市場にはゴールドゲートのコインは出回っていない。もし市場に上場することになれば、前例として参考になるのはビットコネクトである。


今のゴールドゲートの発行するコインBGGの価格は1BGGが1.7ドルである。

日本円で190円に相当する。


市場に上場すればかなり高騰が期待できるコインであった。


ビットコネクトがICOを終えて市場に上場したとき、1BTCは0.7ドルだったのだ。


そこから434ドルまで昇りつめている。

つまり0.7ドルのときに100万円投資していたら・・・。


4億3千万円を手にすることになる・・・・。(汗)


ミナトは少々、冷静さを失った。彼にしては珍しく正常な判断ができなくなっていた。


仮想通貨の投資では高利回り投資を謳ったHYIP(ハイプ)と呼ばれるものが流行っている。

ミナトにはビットコネクトがどうしてもそれにしか見えなかった。


しかし、コインを上場させている企業がハイプなんてことはないはずだ・・・。


ビットコネクトの月利は最大で40%もある。どうしてそんな利回りで運営できるのかは不思議だが今も順調に経営しているようだ。


ビットコネクトという前例がある以上、ゴールドゲートという仮想通貨のレンディングサービスを展開する企業が成功する可能性は高い。


ミナトはこのゴールドゲートに投資すると決めたのでまず10万円ずつ投資して様子を見ることにした。


もしゴールドゲートのICOが終わって、BGGが取引所に上場となればそれだけでコインの価格は高騰するはずだ、とミナトは予想した。


さらにコインのレンディングサービスで利回りを得ることができる。

まるで夢のようなサービスである。


銀行金利がゼロの日本ではにわかに信じ難い利率である。


海外ではアルゼンチンやブラジルなどは銀行金利が10%以上ある。これらの国は社会情勢が悪く、安定していない。

銀行自体がいつ潰れるか分からない状態なのだ。そのため預金者には配当金利が高く設定されている。


日本ではバブル崩壊後、不良債権処理に追われた銀行が国民が預けた預金の金利を使って不良債権の回収にあたった。しかし、不良債権の処理が終わると今度は国が発行する国債を買うために利益の大半を使っているのでいつまで経っても国民に利子が配当されることはない。


国民が預けた預金には利子が付かない。ゼロ金利である。


それに比べてビットコネクトは最大月利が40%もあり破格である。


ミナトが物心ついたときから銀行金利はゼロなのでこのビットコネクトの月利はにわかに信じ難いものがあった。


しかし、ビットコネクトを調べている内にいくつかのブログで個人が投資をしている過去の記事がミナトの目に留まった。

そのブログを書いている人はビットコネクトへの投資が信じられなくなり途中で止めたのだという。


その後、半年でビットコネクトの価格は50倍になったという。

ブログを書いている主は「悔やんでも悔やみきれない」という恨み節である。


ミナト「なるほど・・・・時間は元に戻らない」


そう、ミナトは気づいていた。投資でもっとも大切なのは資金力ではなく時間なのだ。


時間×投資=資産


これぞクリプトカレンシーボーイが独自にみつけた黄金律である。


千載一遇のチャンスは無数にあり、ありとあらゆる場所に存在している。しかし、多くの人は自らそのチャンスを見ることも手にすることも放棄しているのだ。


ミナトにはそんな風に思えた。


ヒナちゃんと仮想通貨の話をしたときもそうだった。


ミナトがヒナちゃんにも仮想通貨を買おうよと言ったが彼女は「私はパソコン苦手だし分からないよ」という返事であった。


ミナトはがっかりした気持ちになったが自分がやりたいことを人に強要するのも「違うよなぁ」という感覚がありヒナちゃんにはそれ以来、仮想通貨の投資を勧めていない。


タケル君のお父さん、タケル君、ヒナちゃんのお父さん、そして、ミナトの両親は2016年にミナトと一緒に仮想通貨の投資をスタートさせているので大金を手にすることとなった。


ターニングポイント・・・人生の分岐点、これはあらゆる場所に存在している。そして、その分岐点を過ぎると元の場所には戻って来れない。


そう、一方通行なのだ。そして、迂回ルートや逆走ができない。


ビットコネクトの前例を深く考え、考察したミナトは自信ありげな表情をして手を握り締めた。


ミナト「よし!これはいけるぞ」


彼の目標である億万長者の道は案外、目の前にあったのかもしれない。


仮想通貨を運営しているサイトへの登録、ICOの公募への登録などはアフィリエイト機能が付いている。

自分の投資だけではなく自分のURLから登録・投資した人の金額の数パーセントが自分の報酬になる仕組みだ。


さっそくミナトは投資仲間や両親、タケル君のお父さんやタケル君、ヒナちゃんのお父さんにゴールドゲートの話を持ち掛けることにした。


ミナト「今回、紹介するICOの企業はゴールドゲートという仮想通貨のレンディングサービスを手掛ける企業になります。

この企業と同じ業務形態で既にコインを上場させているのがビットコネクトです。

ビットコネクトの時価は434ドルであり、スタート時の0.7ドルから434倍の価格へ飛躍しています。

ぜひ皆さんゴールドゲートのICOへ投資して億万長者になりましょう!」


URL【https://goldgate.io/bggtgCH4uXYvKq1WmY】


ミナト「なおアフィリエイトでは2段階ありF1の報酬は15%、F2の報酬は3%となっています。早く登録してできるだけ情報を拡散してください。


そうすれば自分の資金の投資だけではなく、自分のURLから登録してくれた人の投資でも報酬が得られます。


僕はもし億万長者になったら海外の田舎でゆったり暮らしたいと思います。

皆さんも自分が好きな国に住むのも夢ではありません。

がんばりましょう!」


ミナトがメッセージを送ってすぐに5人ほどの登録者がいた。ラインでのメッセージにみんな好意的な反応を示していたのでいずれ30人ほど登録者が増えると見込めそうだった。


あと・・・両親からは夕食のときに直接、話があった。


お父さん「お前、億万長者になったら海外に行っちゃうのかい?」

ミナト「うん、ヒナちゃんと一緒に海外で暮らすよ」


お母さん「まぁあんたの人生だし好きにすればいいわ。でもちょっと寂しいわね」

ミナト「そんな遠い国じゃないよ。飛行機で8時間~10時間圏内にするよ」


お父さん「おお・・・賢くなったな、ミナト」

お父さんは自分の息子の頭の良さに驚きを隠せなかった。


まさか飛行機の移動時間と国の選択も視野に入っていたとは夢にも思っていなかったのだ。


小学校で伝説と化したクリプトカレンシーボーイはさらに進化しているのである。

もう大人と対等・・・いや、それ以上の知識と行動力を持っていた。


ラインからタケル君のお父さんやタケル君からは登録方法を確認したらミナトのURLから投資してくれるというメッセージをもらった。

さらにヒナちゃんのお父さんも一応、自分で調べてみてから投資するよという返事をもらった。


ミナト「あっ!・・・・秋山先生、忘れてた・・・」


遅れて秋山先生にもゴールドゲートの話を持ち掛けるミナトであった。

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