第35話 レンディング
正月明けの3学期、学校が始まって早々メイちゃんに言い寄られるミナトであった。
メイちゃん「ミナト君、今日は部活あるの?もしよかったら一緒に帰らない?」
メイちゃんはふだんそんな優しい口調ではなく男子生徒にも負けないほど強気なしゃべり口調であった。
ミナト「悪いけど僕は美術部に寄ってから帰るよ。あとヒナちゃんと一緒だから」
メイちゃん「あら・・・そうなの。それは残念」
メイちゃんが少し寂しそうな表情で去って行ったがミナトはメイちゃんに対して同情する気にはなれなかった。
もし気を許してしまったらヒナちゃんの機嫌がまた悪くなるからだ。
こういった関係もなんとか改善しないとな・・・と思うミナトであった。
ミナト「お金持ち、性格が良くて、彼女がいない同級生・・・・あっ!」
ミナトはタケル君にメイちゃんのことを相談することにした。美術部の活動が終わって帰るときにヒナちゃんにも”ある提案”をした。
ヒナちゃん「ええー、そんなにうまくいくかなぁ?でも、メイちゃんの気を逸らすにはいいかもね」
ミナト「そう!気を逸らす。それができたら解決できる問題だね。それにタケル君には彼女がいないし久しぶりに仲良く遊ぼうよ」
ヒナちゃん「そうね、クラスが違うしタケル君は塾にも通ってるからね。久しぶりに遊びに行こうか」
ミナト「決まり!そうしよう。4人でダブルデートだ」
こうしてミナト、ヒナちゃん、タケル君、メイちゃんでダブルデートを計画するミナトであった。
今週の土曜日に4人は駅前のデパートに集合した。この駅前のデパートは複合型の商業施設なので映画館やゲームセンターがあった。
4人は映画を観ることにした。ミナトが見たがっていたSF・アクション映画を4人で堪能した。
その後、昼食に洋食屋さんに入り、4人は映画の話で盛り上がっていた。
洋食屋さんではミナトとタケル君が隣同士で座り、向かい合わせの席にヒナちゃんとメイちゃんが並んで座っていた。
ミナト「仮想世界に人が溶け込むってすごいね!フルダイブがもし現実になったら僕たち死なないんだよ」
ヒナちゃん「何でも自由にできる世界っていいね!最後はちょっと怖かったけど・・・」
メイちゃん「私は何でもできるのなら世界中を旅したいわ。空も飛んでみたい」
タケル君「テクノロジーが進んだら、近い将来、そんな未来もあるのかもね」
各々、パスタやピッツァ、グラタンにオムライスなどを食べていた。飲み物はカプチーノにカフェモカ、アメリカンコーヒーにキャラメルマキアートである。
意気投合したところで本題に入るミナトであった。
ミナト「タケル君は今、彼女いないよね?誰かと付き合おうとか考えてないの?」
タケル君は突然のミナトの質問にアメリカンコーヒーを吹きそうになった。
タケル君「んぐっ!突然、なに?ちょっとコーヒー吹きかけたじゃん」
ヒナちゃんがすかさずミナトの援護をする。
ヒナちゃん「タケル君もお父さんも仮想通貨の投資でお金持ちになったし、海外旅行とか行くぐらいなんだから彼女つくってどこか国内でも行きたいところに遊びに行ったらいいのにぃー♪」
メイちゃんはハッとした表情でタケル君のほうを見た。タケル君もメイちゃんのほうを見て、目と目が合った。
タケル君はとてもマジメな性格で几帳面な人だった。彼から女性を誘うというのはかなり勇気がいることだった。
だが、メイちゃんは周りのことはお構いなしで前に進める性格である。
メイちゃん「ええっ!?タケル君って海外旅行とか行ったことあるの?私も行きたーい♪」
さっそく甘え口調である。
ミナトとヒナちゃんの作戦は見事成功するのだった。この後、二人は海外旅行の話で意気投合してさらに数か月後に付き合うこととなった。
ミナトたちは夕方、それぞれ帰宅するときにまた4人で遊ぼうと約束した。
ミナトは家に帰ってからパソコンを開いて自分のブログを更新するのだった。
自分のブログのページをひらいたときに1件のメッセージがあった。
ミナト「なんだろう?メッセージなんて珍しいな」
メッセージの主もブログを書いているようだ。内容は仮想通貨に関することだった。その方からのメッセージにはこれからICOして仮想通貨のレンディングサービスを展開する企業があるということが書かれていた。
ミナトの予想では”仮想通貨”に関するブログをランダムで選んでメッセージを送っているようにみえた。
確かに有力で良い情報だ。だけど、これをメッセージで送るってことはアフィリエイト目的なのかな?
ミナトはアゴに手を当てて考え込んだ。まるで名探偵のようである。
ミナト「う~ん、悪くない話だな・・・。騙されたと思って乗ってみてもいいかもしれない」
仮想通貨のレンディングと聞いて、真っ先に浮かぶ企業はビットコネクトの運営会社である。
ビットコネクトは自分が買ったコインをレンディングできるサービスを展開して人気を博していた。
同じ方向、同じような企業はいくつも現れるものだ。その中で自分が気に入ったものを選べばいい。
独占禁止法もあり、民営の企業は同じようなサービスを展開しても許されるのだ。それにライバル企業がいたほうが競争力が増し、より良いサービスを作り出す可能性がある。
ミナトはICOする仮想通貨のレンディングサービスを展開しようとする企業への投資を決めた。
投資を決めてからその企業について調べても遅くない。トークンセールはまだ先の話なのでまだまだ時間はあった。
2018年、仮想通貨の世界で新しい動きがあることが嬉しいと思うミナトだった。
仮想通貨のレンディングサービスを展開する企業はこれからも増えるであろう。
もはやこういったサービス自体が銀行の役割を担うのが目に見えていた。
今の日本の銀行金利はゼロ。それに比べて現物のコインの価格の高騰による利益率は凄まじいものがあった。
それだけではなくコインのレンディングをして、コインの量に応じて利率がもらえるならそれは嬉しい話である。
実際、ビットコネクトの運営は順調である。
益々、面白くなりそうな2018年がスタートすることになった。
平成30年という節目も縁起がいいとミナトは思っている。
2017年を仮想通貨元年と表現されていた理由がわかった気がした。去年にはなかったサービスや企業とのタイアップが盛んに行われる予感が2018年にはあるのだ。
とくにイーサリアムのスマートコントラクトをベースとしたICOが多ければ多いほどイーサリアムの価格は上がっていくことになる。
それだけではなくまだまだイーサリアムにはそれ以上の可能性を秘めていた。
あと2回のアップデートで真価を発揮する・・・。
2018年の投資次第で億万長者になれるかどうかが決まる・・・。
ミナトにとって自分の人生を賭けるほど大事な1年である。
世界の国々の動きと国内の動き、さらにビットプラスという新しい取引所の誕生など、仮想通貨の世界はとても活気があった。
ICOの規制に乗り出す国、仮想通貨は信用できないという国、賛成派と反対派の意見がぶつかり合い、賛否両論である。
インドやロシアは一度は仮想通貨の取引を禁止していた。それが2017年になって取引を再開しているのだ。
中国の国内でも賛否両論であり、韓国でもいろいろと仮想通貨に関して囁かれている。
アフリカでは禁止されているのに仮想通貨のATMが設置されている国もある。
法定通貨がもはや過去のものになるのではないか?そんな不安さえある。
ミスターエクスチェンジ、国内の仮想通貨の交換所では米ドルがUSDとして表示されている。
つまりサイト内で仮想通貨から米ドルに両替が可能ということである。
いずれあらゆる国の法定通貨もサイト内で表示される数字のみになるに違いない。そう思うミナトであった。
法定通貨も仮想通貨も同じように表示され、携帯やカードにチャージして使う。
そんな時代が来るのはそう遠くない未来なのかもしれない。そして、そんな未来のさらに向こう側にはミナトたち4人が見たSF・アクション映画のように体ごとデジタルに変換してしまうフルダイブ技術が可能となっているのかもしれない。
デジタル世界で”自分”という概念が成立すればもはや死は存在せず、不死の存在になれるのだ。
お金、身分、階級、国など、分け隔てはなくなり、何でも自由にやりたいことができてしまう・・・。
楽園なのか?それとも・・・?
いずれ世界の人々は仮想世界に触れるであろう。そして、現実よりも楽しい仮想世界にどっぷりと浸かるのかもしれない・・・・。
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