第32話 催眠
2018年になり街はすっかりお正月ムードだ。
テレビでは着物姿のアナウンサーやタレントが晴れやかに映し出されている。
さらにお笑い番組が新年の祝いを盛り上げていた。
ミナトは家族と一緒にコタツでそんなお笑い番組を見ていた。
ミナト「お母さん、ミカンまだある?」
お母さん「ああ、冷蔵庫にあるよ。ちょっと待ってね。取ってあげる」
ミナトは子供らしく母親に甘えていた。こういう小さなやりとりがミナトにとっての幸せである。
経済的に自立してしまったこともあり、仮想通貨の投資という形で親孝行もしたので中学生のミナトは本当は一人で生きていけるぐらいの力を身につけていたのかもしれない。しかし、まだどこかで親に頼っていたいという気持ちがあった。
すべての行動を自分でやってしまったら・・・・。
なんだか本当に両親と心が離れてしまいそうでイヤだったのだ。
それは少し怖い気がしていた。
”心のつながり”はミナトにとってとても大切なものである。両親の許可があったから18才未満にも関わらず仮想通貨の投資を始めることができた。
親の保護、協力を得て、投資を始めることができたのだ。
その一点だけでもミナトは感謝してもしきれないと思っていた。
周りの友達に聞いても「親の許可がおりない」と言って好きなミュージシャンのライブに行くことを諦めたり、友達の家に泊まりに行くことさえ許可されない友達もいた。
これほど親たちは「自分の子供を目の届くところに置いておきたい」と考えている。そして、親たちは”私たちがいなければ何もできない存在”と勝手に勘違いしているのだった。
大人が思っている以上に子供の成長は早く、中学生ぐらいになると情報と知識さえ与えてやれば本当は何でも自分でできるものなのだ。
この”意識の違い”にミナトは興味を持っていた。
「どうしてそんなことになるのだろうか?」と考えるようになっていた。
大人たちの考え、子供たちの考えが相反して、意見が合致しない。
お互いの見ているものが違っている点、子供が自発的にやりたいと言っていることを抑えつけようとする点、何が優先されるべきなのか?
ミナトは2018年の年末年始の休みを利用して、自己啓発や心理学の本を読み
それでも納得のいく考えや答えが見つからず・・・・。
とうとう催眠療法や催眠術に関する本にまで手を伸ばし始めていた。
催眠療法とは心の中に働きかけるものである。そして、潜在意識・無意識と呼ばれる部分に働きかけるときに催眠療法が役に立つらしい。
ミナト「ふむふむ、なるほど!人の心の中に意識できない部分があるということなんだね」
米国では催眠療法のことをヒプノセラピーといってカウンセリングの一つとして認知されている。
日本では催眠療法という言葉を聞くだけでも胡散臭く感じるし半信半疑であった。
催眠療法は心の中、奥底に働きかけることに対して催眠術とは一体なんなのだろうか?
催眠術とは体に働きかけるものである。”行動支配”とも呼ばれるものであり術者が意のままに被験者を操ることができるのだ。
どちらも「潜在意識」「無意識」への働きかけである。
ミナトは催眠術のほうにも興味を惹かれていた。
本には「催眠術はみんなかかっている」という一節がある。ミナトはその一節を見たときに驚きを隠せなかった。
ミナト「ええ!?僕も催眠術にかかったことがあるってこと?いつ?」
ミナトは自分が催眠術にかかった覚えがないのでかなり驚いていた。
本ではこんなことが紹介されていた。
例えば「お金」をみんなが思い浮かべるときに法定通貨がすぐに浮かぶ。お金になっている人物の顔まで浮かぶほどだ。
しかし、他の動物はそれを「お金」とは意識できない。つまり人間だけがそれをお金と認識していることになる。
他にもこれからの予定を掲示板に貼ったり、カレンダーに予定を書いているのも催眠の一つといえよう。
なぜならまだその日が来ていないのに人間だけがその未来の行動をお互いに共有しているのだから・・・。
他の動物にはそういった行動は見られない。
この概念が仮想世界を作り出しているのではないか?
ミナトは次第にそんな風に考えるようになっていた。そして、ミナトが大好きな仮想通貨も「催眠」に似ているのである。
実際に存在しないコインを”プログラム上で存在させている”のだから・・・・。
街の信号機を認知することや社会を動かすことも一種の催眠のようなものだ。
多くの認識は人々の”頭の中”で行われているのだ。
まるでスマートフォンが多機能でアプリをダウンロードすればなんでも画面上でできてしまうのと似ている。
人間は頭の中でたくさんのものを処理して、自分たちの社会の効率化を図っているのだ。
ミナトはこれからもっとこういったデジタルの技術が進むと本当に仮想世界に人々は溶け込んでしまうのではないか・・・と少し心配になるのであった。
2017年の終わりごろからミナトはICOを宣言した企業への投資も進めていた。
ICOする企業の多くは将来が有望で仮想通貨の投資になくてはならない存在だった。
トークンセールで新しいコインがもらえるのはミナトにとって楽しいイベントになっていた。
ミナトのパソコンにはいくつかのウォレットをダウンロードしてコインを管理しているものがある。まだ市場に出回っていないコインが複数、ミナトのパソコンに入っていた。
彼のコレクションである。
将来、これらのコインが5年後、10年後に市場で価値が上がって価格が高騰すればミナトはますますお金持ちである。
ミナトが投資するICO、トークンセールには偏りがあった。
彼が投資する多くの企業はマイニングに特化した事業である。とくに広大な敷地を持った国の自然エネルギーを使ったマイニング事業がスタートするときは、その企業がトークンセールを行えばミナトは惜しみなくその企業へ投資を行うのであった。
マイニング事業とクレジットカードなどを手掛ける会社のトークンセールへ惜しみなく投資を行っているミナトには一つの未来が見えていた。
それは彼にしかわからない世界観と未来図である。
もしかしたら仮想世界や仮想通貨、デジタル社会の到来を予測していたのかもしれない。
この正月が明けてからミナトとミナトの両親はパスポートを取得するそうだ。ミナトは投資仲間にパスポートの取得を勧められているのであった。
海外の取引所に口座を開設して、まだ日本では出回っていないコインを買うのが目的だという。
ミナトが両親に相談したところ「どうせなら家族でパスポートを取得しよう」ということになり、正月明けに家族でパスポートの申請に行くそうだ。
海外の取引所では実に将来が有望なコインがたくさんあった。そして、そのコインたちはまだ1ドル未満であったり、10ドル程度で買える価格で売買されていた。
ミナトは海外の取引所へ口座を開設することに胸を躍らせていた。
両親は仮想通貨はほどほどでいいと考えていたので海外旅行をどこにするか考えていた。
世界では目まぐるしく仮想通貨の取引所が開設されつつあった。それに伴って仮想通貨を扱うクレジットカード、ATM、チャージブースが設置されるようになり、近未来のSF映画のように預金を銀行から現金で引き出すのではなく、仮想通貨の取引所から携帯やカードにチャージするという方向へシフトチェンジしつつあった。
既に今でも携帯にウォレットをダウンロードして、そこにビットコインを送付させれば持ち運ぶことが可能である。
さらに支払いもできるようになっている。
今はまだわかりにくい使い方であり一般化されるまで決済システムなどが改善されていく見通しである。
最終的には北欧で体内にマイクロチップを埋め込んで支払うようにとてもシンプルで簡単な決済方法に変わるであろう。
クレジットカードに仮想通貨をチャージする方法であれば4桁の暗証番号を入力するだけで決済ができるシステムが導入されるという話はある。
世界が同時にこれからの時代の新しい通貨へシフトチェンジするのである。
法定通貨は国や政府が税金を回収して思い通りに使っているが民間主体の仮想通貨はそれとは別に違う役割を担う形で社会に浸透していくのであった。
ミナトは未来を予測していた。
今までと少し違った社会構造に変化することに気づいていた。それは駅前にあった英会話からネット回線を通じた英会話に変わったように・・・。
今までホームセンターに行って買い物をしていたのがネット通販に変わったように・・・。
インターネットが既存のビジネスを破壊するというニュースを小学生のころに見たことがあったミナトは未来がわかった気がした。
それは言葉を逆にすれば”インターネットが新しい社会を創造する”という言葉に置き換えることができるのである。
ミナトは2018年の2月あたりにビットコインとアルトコインの高騰があると予想していた。そして、そこから先はリップルやネムなどが今までにない高値を更新し始めるのだと信じていた。
新しい技術が新しい時代を作る。その
彼は少し先の未来と数年後の遠い未来の二つの点を線で結びつけているのである。
たくさんの点が線でつながるとき彼が真の投資家として活躍の場を広げるときである。
世間の誰もがこんな中学生がいるとは気づかない。社会の誰もがまだ何も知らないに等しい。そんなときにミナトはコタツで両親とお笑い番組を見てミカンを食べていた。しかし、頭の中は仮想通貨のことでいっぱいである。
2018年の2月・・・・。何かが来る。
そう思う、ミナトであった。
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