第31話 ロックアップ

2018年を前にして中央集権機構であるリップルラボ社がXRP(リップル)のロックアップを宣言した。


つまり市場に流れているXRPしかユーザーは買えない状態である。


市場に流通する量をリップルラボ社はいつでも調整することができる。これが中央集権機構の強みであり、相当な数のXRPが存在しているがそのほとんどがリップルラボ社が保有している。


資金調達に使えるXRPであり、送金などにも使うことができて仮想通貨の中でも送金速度は群を抜いている。


例えばビットコインが数時間も送金時間がかかるとしたらイーサリアムは30分ぐらいだ。さらにリップルは3分かからないぐらい送金が速い。


トラブルや不正がないようにリップルラボ社が常にXRPの状態を把握している。


ロックアップするごとに価格が上昇するXRPであるが最終的なリップルラボ社の指標は7ドルである。


日本円にして800円近くになる予定となっている。


もちろんミナトもたくさんのXRPを保有している。


2018年早々に仮想通貨の価格は全面高になり、持っている資産の半分を売り抜けるミナトであった。


仮想通貨の価格の下降率が10~20%を狙って買い戻す目論見である。


彼は現物保有の徹底を行っているが全面高や長期連休に限ってはこの手法のトレードをするようにしている。

そのためゴールデンウィーク、盆休み、年末年始は彼にとってかき入れ時なのである。


小学6年生の時のミナトは正月の全面高の時に仮想通貨の現物の価格が上がっているにも関わらずそのまま保有をしていた。

しかし、連休明けからしばらくして全面安になったのだ。


その時の”苦い経験”が脳裏に焼き付いていた。


投資として失敗ではなかったが目の前を通り過ぎる利益をミスミス逃していた。

結局、その2~3ヶ月後にはコインチェックで売られている仮想通貨の全体の価格が上がったことにより、ミナトの資産は増えることとなった。


彼はその過程を深く考え、研究していたのだ。


コインチェックではコイン別に上昇率、下降率がわかるようになっている。前日比は目安として見ることができるのだ。

ミナトは、この上昇と下降のパーセンテージをうまく利用することを考え出していた。


上昇率が30~50%を超えるなら売り抜ける。逆に下降率が10~30%の間に入れば買い戻す。


これが連休の前後と連休の度にやるミナトの現物トレードの手法である。


小学6年生のときから中学の1年間の間に資産を倍にできたのはこれを徹底してやってきたおかげでもある。


出た利益はすべてマイニング事業への投資としているため手元にあるお金でいえば300万円のままである。


実際の資産は500万円を超えることとなったがマイニングへの投資したビットコインやイーサリアムが自分がどれだけ投資したかを覚えていなかった。


自分の資産は手元にある300万円のみ!と割り切り、マイニングで増えたコインの分配がコインチェックのほうに入って来たらそれは「お小遣い」として降ろしていた。


そのお小遣いもだんだん多くなっていることには既に気づいているが・・・。

お小遣いとして使うお金と投資としての資産を分けて考えるところが几帳面なミナトらしい部分でもあった。


2018年は節目の年、ムーアの法則が来る!


ミナトは直感として感じていた。今年は今までと違った仮想通貨の動きになる。さらに取引所では取引できるコインが徐々に増えて来ると予想しているのだった。


2017年までと2018年の大きな違いは決済や送金に企業が使うと宣言することにあった。


銀行、大手企業、飲食店、服飾店、電気屋のどれもが決済の導入を決めてゆく。さらに実行されていく年が2018年であった。


それはビットコインだけではなくイーサリアムやダッシュ、ライトコインなども含まれている。


さらに驚くべきことにすべての仮想通貨をチャージできるキャッシュカードまで登場したのだ。


そうなると今まで現物トレードのみ、売買するのみであったコインが決済に使えることになり、今までとの価値観や意味合いが変わることとなった。


ミナトの今の強みはAI(人工知能)搭載のパソコンを使ったシステムトレードと現物保有、さらにマイニングである。


システムトレードのほうは信用取引を使っている。


ビットフライヤーのライトニングで口座を開設してレバレッジ15倍でAI搭載のパソコインにやらせているのだ。


1万円で15万円の取引ができることになる。10万円なら150万円の取引をすることになり、20万円なら300万円の取引が可能となる。


ビットコインの価格が大きく上がった今ならこのシステムトレードは大きな武器として使えるのだ。


少ない手持ちのお金で大金を得ることができる。


信用取引には「空売り」があり、株ではおなじみであるが仮想通貨でも「空売り」は可能となっている。


自分が持っていないコインを「売り」から入り、コインの価格が下がったところで「買い戻す」とその差益が自分の利益となる。


コインを売った時より価格が上がれば損失が出るので注意が必要だ。


ビットコインとイーサリアムは各取引所で信用取引にも使えるようになっている。


いずれライトコイン、リスク、モネロ、ジーキャッシュ、ダッシュでも信用取引が可能となるかもしれない。


世界の多くの取引所が取り扱っているコインはビットコイン、イーサリアム、リップルである。


徐々に他のコインの取り扱いも増えることが予想できる。そのため今までにない価格の高騰が始まることになるのだ。


ミナトの分散投資、リスクヘッジが成功へ彼を導く結果となった。


ビットコインだけを信じてビットコインだけに投資していたら数年後には大きな後悔をすることになっていたはずだ。


目に見えないところで世界は変わりつつあった。紙や金属類を使った紙幣・貨幣からデジタル通貨へ移行が始まっていた。


世界はまだ見ぬ仮想世界へと大きく前進しているのだった。


世界中のプログラマーが集まって作った”ビットコイン”がまさに世界を変える世紀的な瞬間に立ち会う時代である。


世界の銀行、為替取引、貿易摩擦、法定通貨が過去のものになりつつあった。


2030年には”当たり前”となっているが2017年からの激動は歴史に残るほどの凄まじい革命が起きていた。


情報のすべてがデジタルへ変わり、貨幣もデジタルに変わり、乗り物はほとんどがバッテリーで動くモーターを使用した乗り物に変わっていたのだ。


パソコンやスマートフォンを持っていないと日常生活もままならないほどの必需品となっていた。


情報を得るのも自分から情報を発信するのもスマートフォンやパソコンであり、実際に会ったことがない人とつながりを持ち、仲間になり、意識を共有することで安心感を覚える・・・・。そんな時代である。


アメリカ、ロシア、中国、韓国、インド、日本、シンガポール、オーストラリア、ヨーロッパ諸国を中心にしてデジタル革命が起きたのは2020年である。


東京五輪オリンピックがあった年、あの時を節目として世界の様相は変わっていった。


世界はよりグローバルになり、国同士の距離は縮まり、インターネットを通じて人々はつながりを持ち、その国にしかない食べ物、文化など、他の国の人々が情報として共有するようになった・・・。


情報の共有、意識の共有、デジタルの時代は案外、精神世界である。


みんなで認識する”お金”もデジタルになったことによって流動速度が過去最高となり、社会の進化はさらに加速することとなった。


2018年の正月、ミナトはヒナちゃんと一緒に過ごし、未来について話し合うことが多くなった。


小学6年生のときと違ってヒナちゃんにはミナトという幼馴染がどんどん大人になっていくのがわかった。


明らかに周りの中学1年生とは違うオーラ・・・。ユメリちゃんが男を扱うのがうまくて色気がありすぎるのと同じように・・・どこか大人びているのだった。


それは”経験”しなければ得られないものでもあり、ヒナちゃんには”大きな何かを乗り越えた”という経験がまだなかったので、自分との違いはなんだろう?と不思議に思っていた。


それでもヒナちゃんと一緒にいるときのミナトはいつも楽しそうであり、笑顔には子供の頃の面影があった。

ミナトの笑顔を見ると安心するヒナちゃんはずっとミナトのそばにいる。


ミナトもヒナちゃんと将来は結婚して、海外に移住したいと考えていた。


日本の未来を危惧して、安全な国、ゆったりと暮らせる国への移住を願っているのだった。


今、ミナトが保有している資産でも十分に海外生活は可能であり、投資を続けて、そのまま何年も生活できるだけの能力がすでに備わっていた。


そう、投資家は住む国を選べるのだ。


人口が多くて土地が高く、なんでもお金がかかる場所にわざわざ住んでいる必要はなかった。


何もない田舎でネット回線とパソコンさえあればミナトの投資は続けられるのだ。


グローバルな社会となり、他国の人間でも仮想通貨の取引所は簡単に開設できるようになっている。


銀行との違い、法定通貨との違い、仮想通貨には多くの強みがあった。


そのためミナトの考え方も次第に合理的なものへと変化しているのだった。


将来はヒナちゃんと一緒に海外で暮らしたい。自然が豊かな場所で楽しく過ごしたい。


それが彼の願いである。


2018年の投資はまだ始まったばかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る