第26話 メイちゃんのターン

小学生のときにヒナちゃんが帰り道に僕に教えてくれたことがある。


ミナト回想(ヒナちゃんの言葉)

ヒナちゃん「メイちゃんがクリプトカレンシーボーイって噂されてる金持ちが誰かわかったら”私は付き合いたい”って言ってたよ。どうする?」


あれは空に夕日がにじむ帰り道だった。


懐かしいなぁ・・・。

あれから1年近く経ったんだ・・・。


僕の資産は250万円を突破していた。


中学生になったけど、この中学でも「仮想通貨の投資をしている金持ちがいるらしい。どうやらクリプトカレンシーボーイは去年まで小学校6年生だったんじゃないか?」という憶測が飛び始めた。


そういう噂や投資の話が同学年や先輩の間でちらほら聞こえることがある。

そのたびにミナトはヒヤヒヤしていた。


そんな2017年の12月の冬休み前・・・・。


体育の授業が終わって昼休みに入ったときのことである。

体育館から戻るとき、ミナトはユメリちゃんと話していた。


ユメリちゃん「今、テレビやユーチューブでも仮想通貨が騒がれはじめたね」

ミナト「そうだね、一年早ければみんなお金持ちになれたのにね」


ユメリちゃん「なんか同じクラスにいるメイちゃんが投資家、お金持ちが好きだって言ってたよ」

ミナト「えっ!?まだ言ってたの?」


1年前から全然メイちゃんは変わらないんだなぁ・・・。(汗)

ミナトからすれば、そんなことはもうどうでもいいのに・・・という想いである。

金持ちだとか投資家だとか・・・そんなんで人を好きになったりするのかな?


やっぱり僕はヒナちゃんと付き合えてよかった・・・と改めて思うミナトであった。


ユメリちゃん「ハハハッ、どういうこと?それってだいぶん前からそうだったってことなの?」

ユメリちゃんは笑いながら僕の肩を人差し指でツンツンつついて来た。

いじられてもユメリちゃんになら許せる気がする。


とっても可愛くて茶目っ気がたっぷりだから不思議だが悪意は感じない。


ミナト「小学校の帰り道にヒナちゃんがそれを僕に教えてくれたことがあったよ」


クリプトカレンシーボーイという名称で伝説化してしまった僕じゃない架空の人物に恋い焦がれているメイちゃんの話をした。


ユメリちゃん「あら~いいじゃない♪付き合ってあげればよかったのに♪そんなにヒナちゃんのことが好きなの?」


ミナト「そりゃヒナちゃんは幼馴染だし、一緒にいるのが当たり前で大事な人だよ」


ユメリちゃんは僕の胸元に手を当てて言った。

ユメリちゃん「私がもしミナト君の幼馴染だったら同じように大事にしてくれた?」


正直、その質問はめちゃくちゃ嬉しいけど・・・・ミナトは焦った。


ミナト「そ・・・・そりゃ、ユメリちゃんぐらい大人っぽくてキレイな人だったら大事にしたさ」


なんか僕がユメリちゃんに告白してるみたいな言葉になっちゃったぞ・・・。(汗)

この子は男を扱うのがうますぎる・・・。


ユメリちゃんはニコッと笑って「そうなんだ。ありがとう♪」と言った。


明るくてユーモアがあって男を手のひらで転がすのがうまい。


体育の授業が終わって教室に戻る途中、その会話をメイちゃんはどこからか聞いていたらしい・・・・。


メイちゃんはショートカットで目が大きくて活発な女の子で誰にでも気さくに話しかけるいい子だ。


冬休み前にメイちゃんと話す機会があったとき「体育館から戻る途中の話を私は聞いたよ」とカミングアウトされた。


メイちゃん「小学校で噂になってたクリプトカレンシーボーイってミナト君だったんだね。意外すぎる人物で私はかなり驚いたよ」


ミナト「いやぁその・・・・なんていうか、その噂で広がってるような人物のように僕は万能じゃないよ」


メイちゃん「私は投資家とかお金持ちと付き合いたいってずっと思ってる。今もね。だから、ミナト君が今、付き合ってる人がいないのなら・・・私はいいよ」


大胆にもメイちゃんのほうからの告白である。


ミナト「実は僕はヒナちゃんと付き合ってるんだ」

ここは男らしく正直に言うミナトであった。


メイちゃん「ああ・・・・そうなの?私はてっきりユメリちゃんと付き合ってるのかと思ってた。だって仲の良さがカップルにしか見えないもの・・・」


ミナト「ええ・・・そうかなぁ、でも、仲のいい友達ではあるよ」

う~ん、他の人から見たイメージってそんな感じに見えちゃうのかな・・・。(汗)


なんか僕ってこういう風に迫られることが増えたような気がする・・・。


メイちゃん「投資っていつから始めてたの?本当にすごく儲かってる?」


ミナト「投資は小6からだよ。利益はそれなりだね。親にはお小遣いをもらわずにやりくりすることはできるようになったよ」


ミナトはできるだけ利益が少ないようなイメージになるように話した。


まさか貯金してたお金10万円が250万円を突破したなんて言えない・・・。


メイちゃんは勘が良かった。きっとミナト君はかなり利益を出しているんじゃないかしら・・・?と予想した。


今年、テレビやネットのニュースでも仮想通貨、ビットコインはかなりトピックスにあがったワードである。


メイちゃんがミナトの胸元に飛び込んできた!


突然、抱き着かれたミナトは硬直してしまった。あまりに予想外の出来事だったので驚きを隠せなかった。


ミナト「メ・・・メイちゃん、どうしたの?」

そっとメイちゃんの肩に手を置いた。


メイちゃん「私、ミナト君となら付き合える。ヒナちゃんと別れて!」


ミナト「お・・おお、かなり突然だね。それは・・・悪いけどできないよ。僕はヒナちゃんが好きだからね」


やんわりと断っているがミナトの心の中ではメイちゃんが”したたかで利己的な人”という風に見えてしまった。


メイちゃんは実際したたかで利己的である。自分に有益になること、得することであればプライドも周りも気にせずに自分の主張ができてしまうタイプである。


そのためミナトとヒナちゃんが別れることになってヒナちゃんが傷ついても”その部分”に気づけない性格であった。


お金に関しては敏感、人の気持ちに関しては鈍感な少し面倒な心の持ち主なのだ。


人が困っていることも気づかない。傷ついても気づかない。


なぜならメイちゃんは少々の荒っぽい扱いを受けてもまったく気にしない人だからである。


メイちゃんは人間というのはみんな「利益」「得」を求めて生きるものだとさえ思っていた。


そのため利害関係で「利」があるなら自分から歩み寄ることをいとわないのだ。

害があるなら淘汰する。つまり「ヒナちゃんと別れて」は自分にとって「害」だという判断である。はっきり意識しているわけではなく女の本能や勘が彼女にそうさせていた。


ただメイちゃんはまだ大人になりきれていない少女なので、それをやったことによって相手が深く傷ついたり、人間関係が壊れる可能性があるということがまだ理解できていなかった。


「人ってそういうものでしょ」というスタンスで生きているので気持ちに対して鈍感である。


ここで一つミナトは大きな判断ミスをしてしまう。


ミナト「僕はヒナちゃんとは別れないよ。ただ、もしよかったらメイちゃんにクリスマスプレゼントをあげるよ。それをあげるから僕のことは諦めて欲しい」


この後、メイちゃんから欲しいものを聞いて、ミナトはメイちゃんにクリスマスプレゼントを渡した。


ミナトからすれば、これはユメリちゃんに秘密がバレたときに買い物デートをしてうまく事が収まった有効な手段である。


実際はユメリちゃんがミナトが思っている以上に考え方が大人なので、そういう秘密はみんなに公表しないほうが自分に有利だと判断しただけであった。


ミナトは自分から歩み寄ったことによってユメリちゃんをうまく丸め込めたと勘違いしていた。


しかし、メイちゃんの場合はさらにミナトに執着してしまうのだった。

なぜなら彼女は「お金持ち」「投資家」というお金を稼ぐことに長けた才能がある人物が好きだからである。


彼女は引き下がらないのだ。投資家、金持ちと付き合うという目的のために手段は選ばない。


なぜなら彼女にとって付き合ったほうが「得」「利益」なのだから・・・。


それ以来、休み時間に積極的にミナトと一緒にいようとしたりミナトが部活に行く途中に突然、腕を組んでくることさえあった。


当然、それはヒナちゃんも見ているのでヒナちゃん的にはかなりショックだったようだ。


帰り道にヒナちゃんに説明して作戦が失敗したことをミナトは告げたがヒナちゃんは少々不機嫌である。


ミナト「メイちゃんに投資家ってバレちゃった。かなり面倒な状況になっちゃったよ」

ヒナちゃん「クリスマスプレゼントなんて渡したら、そりゃますます言い寄ってくるに決まってるでしょ!」

付き合って初めてヒナちゃんの逆鱗に触れたミナトであった。


ミナト「ごめん、僕、ほんと不器用だからうまく女の子を扱えないんだ」


ヒナちゃんは帰り道に言葉が少なめだった。それはミナトにとってとてもショックな出来事である。

しかし、メイちゃんにとって、この二人が仲が悪くなることは好都合ということになる。


ミナトはなんとかヒナちゃんに機嫌を直してもらったがこれからも投資家であるミナトには女性の試練が続きそうだ・・・。


投資家で頭がよくて小学生にして大金を手にした、みんなが想像しているような人間離れしたクリプトカレンシーボーイではなく、女の子の前では弱腰でただの平凡な男の子である。


投資はうまくいくのに女関係はなかなかうまくいかない・・・ミナトは自分の不甲斐なさにちょっと嫌気がさした。


冬休みに気分を切り替えよう、心機一転がんばろう!


ミナトは2017年の年末にそう誓った。

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