第22話 システムトレーダー
11月を過ぎる頃、ミナトのAI搭載のパソコンは順調である。
パソコンに「ST1号」と名付けた。
システムトレードの頭文字である。
ビットコインの価格はついに90万円まで上がってきた。他のコインも徐々に価格を上げて来ている。
これによってミナトの資産は180万円になった。
AI搭載のパソコン+自動売買ソフト+EA(売買パターン)ソフトの購入費とジンさんへの手数料で40万円ほど使ったが、使ったお金は仮想通貨の上昇によりマイナス20万円といったところだ。
もはやミナトには気にならない金額になっていた。
中学生になったミナトは少しだけファッションに興味を持つようになった。とくに服や髪型を良くしはじめた。
これはもしかしたらユメリちゃんの影響かもしれない。
月々、ヒナちゃんへのプレゼントも欠かしたことがない。だから、ヒナちゃんはいつもオシャレな服装をしていた。
システムトレードの利益の幅は小さいが確実な利益を出してくれているようだ。
買値と売値の幅(スプレッド)で利益が小さい時もある。
だが、毎日、自動売買によって積み重なる利益は2000円~5000円ほどあり、これはミナトが大人になるまで続けることができそうな気配があった。
このAI搭載のパソコンが最新であるが故に、世間一般や社会がこのシステムトレードに目を向けるまでにできるだけ利益を伸ばしておきたい、とミナトは密かに考えていた。
きっと5年後にはこれよりすごいパソコンやトレード方法が登場して、たちまち僕のシステムトレードは歯が立たなくなるだろう・・・そう思っていた。
なぜなら「ムーアの法則」が本当にあるとすれば電子機器の進化の2年周期を2回すぎたころに今の最新のパソコンとトレード方法が5年後の最新のパソコンに太刀打ちできるとは考えられなかった。
それならば今のうちにできるだけ利益を伸ばしておいて、海外のマイニング事業を手掛ける会社へ投資しよう、そういう目論見である。
自然エネルギーを使った大掛かりなマイニング事業を手掛ける会社がこのところ増える傾向にあったのだ。
自分の未来を託すにはそういった分散投資、リスクヘッジが大切なことをミナトはよく理解していた。
今日も美術部の活動が終わって、ミナトはヒナちゃんと一緒に帰る途中だった。
11月にもなるとさすがに外が暗くなるのは早かった。まだ17時なのでぼんやり明るいが家に着いて外を見ると真っ暗になっている。
ヒナちゃん「今日はねぇ、ヒマリちゃんと話してたんだけど好きな人がやっとわかったの」
ミナト「ええ!?誰?誰?」
ヒナちゃん「おお!珍しくミナト君が食いついてくるじゃなーい♪」
ミナト「そりゃヒナちゃんの親友の好きな人は僕も気になるよ」
ヒナちゃん「3組のマリオ君だって」
ミナト「へぇー!そうなんだ。ヒマリちゃんってそういうタイプが好きなんだね」
ヒナちゃん「おっと?それは意外だったってことかな?」
ミナト「かなり意外だったね。スポーツはできるけど勉強が全然って感じじゃない?」
ヒナちゃん「まぁね、でも、ヒマリちゃんはマリオ君の良さを理解してるからね」
ミナト「うん、ヒマリちゃんが好きなら応援したいね」
ヒナちゃん「告白するとき私も一緒についていくの」
ミナト「ああ、いいんじゃない。きっと不安だろうしそばに居てあげたらいいと思うよ」
中学校に入ってから11月になり、とうとうヒマリちゃんは好きなマリオ君に告白するようだ。
なんかすごく青春だなぁ・・・と感じた。
これがもしユメリちゃんが誰かに告白するとか、されるとかだったらあんまり心に響かないんだけど・・・。
すでにユメリちゃんには10人以上が告白してフラれているらしい・・・。(笑)
彼女とつり合いがとれる男なんてそうそういないと僕は思う。
もし付き合ったとしても手のひらで転がされて終わり・・・みたいな、ね。(苦笑)
ユメリちゃんだったら年上の人がいいんじゃないかなぁ・・・同世代では手に負えまい。
ミナト「他の子たちもちらほら付き合ってるって話を聞くよね?」
ヒナちゃん「そうね、中学生になってから半年以上が経ったから、みんな好きな人ができてもおかしくないものね」
ミナト「3つの小学校から集まって1つの中学校の同級生になるから、新鮮なのかもね」
ヒナちゃん「いろんな人がいて興味を惹かれることはあるよねぇ」
ミナト「そうだね、ほんとにいろんな人がいるね」
後日、ヒマリちゃんはヒナちゃんの付き添いのもとマリオ君に放課後、告白した。
結果はOKだったらしい。
その日の帰り道、ヒナちゃんもすごく嬉しそうにその状況を話していた。
僕もこの寒い季節にホットな気持ちになれて嬉しかった。
もう一つの話題がある。
もう一つの話題は僕自身のことである。
中学生になって、僕は親からお小遣いをもらうのをやめた。これは親から止められたのではなく、自分からいらないと言ったのだ。
ミナトのお母さん「あなた、お小遣いいらないの?ほんとに?」
お母さんはちょっと笑いながら言っていた。子供にお小遣いを与えなくていい状況っていうのが嬉しいみたいだ。(笑)
ミナト「ほんとにいらないよ。なんなら僕がお母さんにお小遣いをあげようか?」
ミナトのお母さん「アハハッ、あんたいくら儲かってるのよ!」
ミナト「それは教えないけどお母さんのほうこそ専業主婦になってるじゃん」
ミナトのお母さん「アハハハッ、それはほんとに感謝してるわ♪ありがとう」
ミナト「さいきん、服が派手になってない?」
ミナトのお母さん「ちょっとね、いいじゃない。私だってまだまだオシャレしたいんだもん」
ミナト「別にいいけど・・・。使いすぎはダメだよ」
ミナトのお母さん「ミナトは本当にしっかりしてるわね」
お母さんが専業主婦になって楽な生活になれたのは僕も嬉しい。それに僕がお小遣いをもらわないようにすればもっと楽になるはずだ。
少なからず親孝行できたのはよかった。あのタイミングで投資を始めていなければ今のような”未来”にはなっていなかったはずだ。
人は「行動する生き物」と自己啓発の本で読んだことがある。
それに「人の一生は選択の連続である」というのもその本に書いてあった。
僕もまさにその通りだと思う。行動しなければ何も始まらない。
もし失敗したとしても行動しなければ学ぶことはできないんだ。
人は成功よりも失敗から多くを学ぶという。
たまたま僕は仮想通貨の投資をやって成功できたが為替FXや株式投資で破産した人はたくさんいると聞いたことがある。
投資は失敗と隣り合わせだ。しかし、だから、大金を手にすることもある。
何もしなければ何も始まらない。
僕はすべてを理解して始めたわけではない。だけど、自転車に乗るときのように必死に乗りたいと思った。
理解したい。できるようになりたい。利益を出したいと思ったんだ。そして、毎日、仮想通貨に関連したニュースを見て情報を集め続けた。
「行動しなければ何も始まらない」
これは恋愛も投資も何もかもがこれに尽きる。
「行動の星」だと表現されるときもある。
僕はヒナちゃんに告白した。あの告白もきっとあのタイミングじゃなかったら成功していなかったのかもしれない。
投資も告白もタイミングが大切だ。でも、失敗して砕ける勇気が僕にはあった。
未来を切り開くと表現されることもあるがもしかしたら未来はすでに手の中にあるのかもしれない。
その手の中にあるものを自ら放り出しているのは自分自身なのだ。
チャンスが手の中にあるときに行動することによって成功がある。
今はなぜか僕の心の中で一番納得がいく答えになっている。
ミナトの心の中にある哲学者の部分が出てきていた。
答えはいつもシンプルだ。複雑にしているのは自分自身なのだ。
たまにミナトは自分の心の深い部分に問いかける。
そして、導き出された答えはいつも哲学のような原理原則であった。
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