第19話 分裂するコイン

8月の始めにビットコインは分裂した。

ビットコインはメインの「ビットコイン」と「ビットコインキャッシュ」に分かれてしまった。


どうしてそうなったのか?


これはビットコインを作ったプログラマーたちの方向性が違ってしまったからだ、そうだ。


ユーザー寄りでアップデートをするメインのビットコインと自分たちが利益を出すために運営されるビットコインキャッシュに分かれたそうだ。


もしかしたら2017年の10月~11月にもう一度ビットコインが分裂するかもしれないという話がある。

ミナトはそれに備えようと仮想通貨の情報サイトを必死で見て情報収集に努めている。


仮想通貨自体が2017年から活発に取り扱われ始めた”まったく新しいもの”だから過去のデータも少なく、前例がないことも多々ある。


そのため取引所の対応も極めて慎重だ。


ミナトは今、為替でよく使われる「自動売買ソフト」に興味を持ち始めていた。

システムトレードというコンピューターが自分の代わりに売買してくれるソフトに注目していた。


このシステムトレードにはいくつかの売買パターンを入力する必要がある。そのへんがまだミナトには難しく感じた。


それに為替ではシステムトレードが主流であるが仮想通貨ではシステムトレードを取り入れているところはごく一部である。


彼は仮想通貨でシステムトレードを取り入れたいと考えていた。

さらにAI(人工知能)搭載のパソコンを買って、その売買パターン自体もAIにやってもらおうという目論見だ。


初期投資にかなりの大金が必要である。しかし、ミナトは「お金にお金を働かせる」という原点を経験しているので「お金を使う」ことは自分の利益を伸ばす有効な手段だと理解していた。


タケル君のお父さんに頼んでAI搭載のパソコンの調達とシステムトレードの設定をしてもらうことにした。


AI(人工知能)に覚えさせる学習能力や最初にどれだけ投資の知識と情報をインプットできるかが焦点となる。


もしこれが成功すればミナトは自分で何もしなくてもどんどんお金が増える状態を作り出すことが可能になる。


まるでおとぎ話に出てくる錬金術のようである。


ミナトの投資に対する知識や投資方法は独自のものになりつつあった。初歩的な簡単な投資から、やや玄人が好む投資スタイルに変化しつつあった。


中学に入ってから身長も伸びつつあり、声変わりもしてきた。ヒゲも少しだが生えてくるようになっていた。

ミナトの体が成長しているように彼女のヒナちゃんは体に膨らみがではじめた。

胸やお尻のあたりがふっくらしている。仕草もより女の子らしくなってきた。


中学生の彼らは体と脳の両方が成長段階である。

知識や情報を今はどんなものでも吸収できる大切な時期だ。


その時期を何も考えずに遊んで暮らすのはもったいない・・・・。できるだけ得られるものはすべて得たい、それぐらい渇望かつぼうしてもいい時期なのだ。


ミナトの投資はすでに2018年、来年を目指していた。

今の値動きに”気持ち”が揺らぐことはない。


8月も後半になり、山のようにあった夏休みの宿題も終わらせた。英会話は順調である。それとは別に英会話が習える最近、流行りの英会話カフェなどにも足を運び、ミナトは積極的に英語の勉強をしていた。


さらに投資の勉強会やセミナーにも顔を出すことがある。

ニュースでは詐欺の投資セミナーなどが横行しているという話もちらほら聞いていたので慎重にセミナーを選んで参加するようにしている。


とある仮想通貨のセミナーでミナトは美術部の顧問・秋山ミカ先生にばったり会ってしまった・・・・。


投資のセミナーは昼過ぎの・・・そう、あれは14時ごろだった。

セミナーは14時から開始が予定されており、ミナトは電車で街まで出た。会場となる場所はイベントホール・レンタルスペースとして使われる建物だった。


13時ごろにミナトは着いていた。仮想通貨のセミナーの会場である2階の真ん中の部屋に入った。

部屋の前には「仮想通貨の特別セミナーはこちら」という立て看板が出ていてわかりやすかった。


部屋の中に入ると受付があり、受付での署名を済ませて席に座った。それから30分ほどしてから人が徐々に集まって部屋の空席が埋まっていった。


受付のときに番号札が渡されて自分の席に着くのだが僕の隣が空いたままだ・・・。

きっとこの隣の人は来ないんじゃないかなぁ、予定をすっぽかしたっぽいなぁとミナトは思った。


仮想通貨のセミナーがスタートして10分ほどしてから部屋の扉が開いた。

秋山先生「すいませーん、電車乗るの遅れちゃいました・・・・」


なんと美術部の顧問の秋山先生がミナトが参加したセミナーに来てしまった・・・。

しかも、受付を済ませてだんだんミナトが座っている席に近づいて来るではないか・・・。


まさか!隣・・・?


ミナトの予想通り、美術部の秋山先生はミナトの隣に着席した。

席を座った先生がこちらを見て、ミナトと目が合った。


ミナト「こんにちは・・・・。秋山先生、仮想通貨に興味あったんですか?」

秋山先生「ええーーーー!?ミナトくーーーーん」


秋山先生はとんでもなくでかい声を出した。


相変わらず・・・・状況を考えない人だなぁとミナトはため息をついた。


ミナト「静かにしてください。プレゼンテーション始まってますよ」と小声でささやいた。

秋山先生「ごめんごめん、ついつい・・・」(苦笑)


セミナー講師「ゴホン、いいですか?では、話を続けますね・・・」と言って、仮想通貨の特性などを詳しく話していた。


セミナーは仮想通貨の特性や取引所での売買方法だけで、これと言って目新しい情報はなかった。

ただのコインの情報と売買方法のセミナーだった・・・・。だが、最後になって講師が”ある投資”を持ちかけるのだった。


セミナー講師「皆さん、仮想通貨がこれからどれだけ社会で重要な役割を担うか、ご理解されましたね?」


セミナー講師「それではこれから私たちが取引所に上場するコインを特別にあなたたちに30%割引で販売させていただこうと思います。

えー、ご興味がお在りの方はぜひこの機会にご購入ください」


ミナトはいくつかのセミナーに参加して”ああ、このパターンね”と思った。

これは明らかに詐欺であり、仮想通貨のことなんてまったくわかっていない素人じゃないか・・・・と嘆いた。


ただの詐欺師で独自のコインとか言いながらまったく意味のない高額なものを売りつけて金をだまし取るだけの悪質な輩だ。


「将来、このコインが高騰して儲かりますよ」とか「上場前に買えるなんてラッキーですね」と次から次に「あなたは幸運だ。利益が出る。儲かる」というイメージを連想させようとする。


ミナトは心の中で「あーあー、せっかくの夏休みに時間をいて来たのにアテが外れた」とつぶやいた。

本当に心の底からガッカリしてしまった。


一方、秋山先生は「へぇそうなんだ。すごいよね!ミナト君。私、この上場前のコインを買おうかしら・・・・」と言っている。


ミナト(呆れた・・・・・・先生、信じちゃってるじゃん)と思った。


ミナト「先生、ダメですよ。これ詐欺ですから」と秋山先生の耳元で囁いた。

秋山先生「ええ、そうなの?このセミナー詐欺だったの!?」

ミナト「あとで説明します」


ミナトは秋山先生の手の引っ張って街のコーヒーチェーン店に移動した。


二人は好きなコーヒーを頼んでデザートやドーナッツと一緒にトレーに載せたものを手に持ってソファのある席に座った。


ミナト「ふぅーやっと落ち着けるぅー」

秋山先生「夏休みにまさか生徒に会うと思わなかったわ」(嬉)


ミナト「いやぁ僕も秋山先生に会えて嬉しいです。しかし、仮想通貨の投資に先生も興味があったんですね」

秋山先生「それはこっちのセリフよぉ!ミナト君がセミナーなんかに参加する子だとはまったく思わなかったわ」


秋山先生「いつからミナト君は仮想通貨に興味を持ってたの?」

ミナト「小学校6年生のときにビットコインへの投資を始めました」


秋山先生「へっ!!?」

ミナト「始めたときは投資とかよくわからなかったです。今はわかりますが・・・。ただビットコインが欲しくて買える環境を整えただけですよ。

周りにたくさん協力してくれる人がいたから僕はラッキーでしたね」


秋山先生「あ・・あら、そう。なんだかミナト君のイメージが変わっちゃった。私なんてつい最近、仮想通貨やビットコインのことを知ったところよ」


秋山先生にはセミナーの多くは詐欺であり、主催者や講師が何かしらの商品を販売して利益を出すものだと諭した。


多くのセミナーは詐欺だが中には本当に良心的な方がいて、そういった方はすでに何億も儲けている人であり、社会貢献も兼ねてセミナーをやってることがあるのも合わせて伝えておいた。


僕はいくつかのセミナーを通じて「本物」「偽物」を見極められるようになっていた。

それはセミナーの内容と講師の話し方による。


秋山先生「じゃあ仮想通貨のことはミナト君に教えてもらうね。ライン教えてよ」

ミナト「いいですよ。わからないことで僕が答えられることはなんでも相談してください」


ミナトは秋山先生とラインでつながった。

ミナトは思った。秋山先生が仮想通貨のセミナーで何も知らずに詐欺に引っかからなくてよかったと・・・。


二人は楽しくカフェでくつろいで帰って行った。


ほんのささいな夏休みの出来事であった。

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