第17話 キング・オブ・コイン

2017年の夏、ビットコインは他の仮想通貨とは比べものにならない上昇を果たした。

7月になりビットコインの価格は30万円を突破した。


ミナトの保有資産は遂に100万円になっていた。

何度か相場全体が上がったタイミングに売り抜けて、下がったタイミングで買い戻した。


買値と売値の価格の差(スプレッド)でそれほど利益があげられなかったコインもあるがビットコインの調子の良さも相まって資産は増える一方だ。


ブログでは自分の資産が増えたことには触れていなかったがニュース番組などでも取り上げられるようになってきた。


そのため学校ではユメリちゃんに「いくら儲かったの?」と聞かれることがある。

その度「ちょっとだけだよ」とか「今回はそれほど儲かってない」と答えるようにしている。


ビットコインがこれだけ人気があるのは世界の取引所のインフラ整備が整いつつあるからだろう。

もっともインフラ整備が整っていて知名度があるのはビットコインに他ならない。

ビットコイン決済を導入したというニュースを頻繁に耳にするようになっていた。

他の仮想通貨、コインはまだまだこれから・・・といった感じだ。


7月に入ってビットコインの価格が上がって浮かれていたミナトだった。

浮かれていたミナトにある出来事が起きた。あれは7月半ばを過ぎた蒸し暑い夏の日だ。

4時限目に体育の授業があって体育館でバスケットボールをしていた。中学校の体育の授業は男女別になっていて、男子生徒だけ、女子生徒だけで授業をする。

そのため体育館の半分は男子生徒2クラスが合同でバスケの練習をして、左半分は女子生徒2クラスが合同でバスケの練習をするように分かれて授業を受けるようになっている。


体育の授業は楽しかった。他のクラスの男子生徒と一緒にこうやってスポーツをするのも悪くない。

ミナトは他の小学校からあがってきた同級生たちと打ち解けて仲良くなっていた。

4時限目の体育の授業が終わってボールを片付けるとき仲のいいグループで「ボールを片付けるのジャンケンで決める」という遊びが生まれていた。

僕もそのグループでジャンケンを楽しんでいる。


だんだんその仲間が増えていて、何回か往復しないと全部バスケットボールが片付かないというのは、みんなわかって参加していた。


なんと・・・・僕は見事にジャンケンに負けてしまった。

おお!なんてこった・・・。

全部、ボールを片付けるのに3往復しないといけない。


仲のいいグループのみんなは「ミナトどんまい」とか「お前ついてねーなー」と言いながら先に教室に帰って行った。

ミナト「マジかよぉー。ほんとについてない。誰か一人ぐらい残っていけよ」と愚痴をこぼしながらみんなのバスケットボールを片付けた。


3往復目に体育館の中央にある倉庫に入ったとき、外から声がした。

「ちょっと早く出てくれない!私、体育館にカギをかけて職員室に持っていくの任されちゃったから、早くカギ返しに行きたいんだけど!」と言っている。このハスキーな声どっかで聞いたことがある・・・。

ミナト「その声・・・ユメリちゃん?」僕は倉庫の外から聞こえる声の主に尋ねた。


倉庫のドアがちょっとだけ開いて、ユメリちゃんが倉庫の中を覗き込んだ。

僕とユメリちゃんは目が合った。


ユメリちゃん「なんだ、投資家のミナト君じゃない。なんでみんなのボール片付けてるの?」声のトーンがちょっと変わった・・・安心した。

ミナト「ああ、これジャンケンに負けて僕が片付ける罰ゲームやってるんだよ」

ユメリちゃん「へぇ投資家で頭の良い君はそういうことやらないのかと思ってたよ」


なぜかユメリちゃんは倉庫の中に入ってきた。

ミナト「いやぁバスケのボールは片付けたから、もう大丈夫だよ。すぐ出るよ」と僕は急いで倉庫を出ようとした・・・・。

そのときユメリちゃんは突然、僕の両肩をつかんだ。


ミナト「へっ?どうしたの?」いきなりのことなので焦った。

またドキッとした。体操服を着てるだけでもドキッとするのにいつも突然何かをやる人だな・・・この人。


ユメリちゃん「正直に答えて、いくら儲かってるの?」

真顔で真剣な表情だからどう接していいか・・・わからない。

ミナト「まぁ資産は100万円ぐらいかなぁ・・・」

いろいろ秘密を握られているから正直に言っとくか・・・。


ユメリちゃん「ミナト君、そんなに儲けてたんだ・・・」

ユメリちゃんは僕の両肩を抑えていた両手を離した。

僕はホッとした。


・・・が!


今度は僕の首に両手を絡ませて顔を近づけてきた。(汗)


ミナト「ユ・・・ユメリちゃんどうしたの?積極的なんだけど・・・」

ユメリちゃん「そろそろヒナちゃんと別れて私に乗り換えない?」

ミナト「ええ・・・それは・・・ない・・・か・・・なぁ・・・」

どうしよう・・・正直、めちゃくちゃ嬉しいけど・・・。(汗)


ユメリちゃん「ヒナちゃんと付き合ってるってどこまでヤッたの?キス?ハグ?それともH?」

ダイレクトな質問に困惑した。


ミナト「ええっとキスはしたよ」

倉庫の暑さよりもこのプレッシャーで汗が止まらない。


ユメリちゃん「私だったら全部あげてもいいよ。ミナト君♪よく考えといて」

ミナト「なんで僕と付き合いたいの?興味ある?」

なんか男女の恋愛でいうと逆な気がするがこんなに女の子からアプローチされるとは思わなかった。


ユメリちゃん「だってミナト君と一緒にいたら服買ってもらえるし楽しいから♪」

・・・・という理由だった。

いかにもユメリちゃんが言いそうな言葉だと僕は思った。


なんとかごまかして体育館を出て、ユメリちゃんが体育館のカギを締めるのを待った。


二人で職員室に向かう途中、グランドの真ん中にヒナちゃんがいた。


ミナト「ヒナちゃん♪」と言って手を振った。

ヒナちゃんはちょっとだけ手を振り返してくれた。


なんか心配そうな顔してるけど・・・どうしたんだろ?(汗)

ユメリちゃんから何か言われたのかな・・・。


ユメリちゃん「ヒナちゃんのところに行ってあげたら?きっと心配なんでしょ」

ミナト「ああ・・・わかった。先に行くよ」

僕はヒナちゃんのところに走って行った。


部活が終わってから帰り道にヒナちゃんに誤解されていないか確認した。

ヒナちゃんは僕のことを信用してくれているようだ。


だけど、ユメリちゃんの色気と男子生徒からの人気ぶりを考えたらやっぱり心配になるらしい。そこはやっぱり乙女なんだな・・・。


ヒナちゃんの女の勘も働いているのかもしれない。

ただ僕から彼女に言い寄ってるわけじゃないから別にいいんだけど・・・。


それにしても今日のユメリちゃんはいつもより積極的で大胆だったなぁ・・・。


僕には彼女に好かれるような魅力はないはずなのだが・・・?

やっぱりお金の魔力ってやつなのかな。

だとしたら、ちょっと悲しい。


投資の楽しさはきっと話しても伝わらないだろうし、消費すること、お金を使うことだけを考えるのではなく投資してお金を増やすことも考えてもらいたい。


きっとユメリちゃんが僕と付き合っても好きなブランドの服と遊びに全部使っちゃいそうだしな・・・。


もし付き合ったとしても学校でそういうのを自慢されても困る。


ヒナちゃんだったら絶対に言わないだろうし、自分が欲しい服をムリにねだることもない。


小学校から中学校にあがるときに既に人の考え方、生き方というのはある程度、方向が決まってしまっているのかもしれない。


僕は僕で方向が決まっているし、そういうのってなかなか変えられないものなのかもしれないね。


ここで僕が必要なスキルは一体なんだろう・・・?


それもまた学校の勉強では得られないもののような気がする。

ミナトはまた大人に近づいた思考になりつつあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る