第13話 トランザクション

小学校を卒業してヒナちゃんは海外旅行に行った。僕たち家族は国内旅行だった。

旅行後、お互いお土産を交換して土産話に花が咲いた。


ヒナちゃんからのお土産はチョコレートの種類がたくさん入った詰め合わせだった。

ヒナちゃんのお土産を選ぶセンスにいつも「良いなぁ」と思わせる何かがある。

僕からのプレゼントは現地の名物饅頭とキーホルダーだ。自分でもありきたりでセンスのなさを自覚している。

それでもヒナちゃんは笑顔で「ありがとう」と言ってくれる。嬉しい。


春になって中学校に入学した。中学は家から徒歩15分ほどの場所にある。

朝はまたヒナちゃんと一緒に通学している。

3つの小学校から中学に集まってくるので5クラスになった。これでヒナちゃんと同じクラスになれたら奇跡だな・・・。

初対面の男の子や女の子、同い年なのにちょっと大人びた子までいてミナトはちょっと引け目を感じていた。

なんか背伸びして大人ぶって話さないといけないような、そんな雰囲気がある。

実際は投資しているミナトのほうが知識と情報があり、大人に近いのだがコミュニケーション能力はそんなに高くなかった。

女の子の中には髪の毛が腰ぐらいまであって少し茶色い髪で顔がすごく透き通ったようにキレイな子がいた。大人になったらめっちゃ美人になるんだろうなぁと誰でも想像できる。さすがにミナトもその子に見とれてしまった。その日、多くの少年たちがその子のことを好きになっていた。


全校生徒が体育館に集まって校長先生の話を聞いた。ありがたい話だがよくわからなかった。

校長先生の話が終わって、中学生になった僕たちのクラス分けが書かれた紙が貼りだされた。

ヒナちゃんと同じクラスだったミナトは浮かれた。(笑)

ヒナちゃんも喜んでいた。ちょっと気になったのは”あのメイちゃん”も同じクラスだったことぐらいかなぁ。

それにしても制服っていうのは窮屈だなぁ・・・と思った。

体に身に着けるものがすべて地味、徹底的に勉強に集中させられそうな服装だと感じた。

ミナトが卒業した小学校では未だに「クリプトカレンシーボーイ」の話題があった。

どうやら神格化、伝説化していくようだ・・・(笑)

中学にあがってもすぐに同じ小学校から来た誰かが他の小学校からあがってきた子に話題として「クリプトカレンシーボーイって投資家の金持ち少年が僕らの小学校にはいたんだよ」と話して一部、囁かれるようになっていた。


両親が口止めしたように「ミナトが投資家ってことは学校で話しちゃダメ」っていう言葉の意味がようやく分かった気がした。

投資で成功した、金持ちになった、それで頼られても嬉しくなさそうだ。ミナトはそう思った。

「お金持ちだから付き合いたい」というメイちゃんのような子も苦手かもしれない・・・。それって女の子にモテてることにはならないよな・・・?


それに学校でそんな話ばかりになったら逆に”投資に集中できない”気がしていた。

やっぱり投資の話っていうのは信頼できる一部の大人に限る。


中学の入学式が終わって今日は早めの帰宅となった。これから部活をしたり塾に行ったりと、いくつかの選択肢を両親に相談しながら決めなけらばならない。

運動部だと選んだ部活によって帰る時間が異なるようだ。できればヒナちゃんと一緒に帰りたい。ここは僕の彼女のヒナちゃんと話し合って決めよう。

塾のほうは週2~3回ぐらいなら構わない。できれば塾より英会話スクールのほうが行ってみたいのだが・・・。英語が聞き取れたり話せたら投資に有利だから・・・。


小学生のときと違って中学生になると一気にやるべきことが増えた。考えなければいけないことが山積みとなった。

入学してすぐに焦るほど山積みの課題がある。これを一つずつクリアして早く落ち着きたいなぁとミナトは思っていた。


今日はとりあえず早く帰れたから仮想通貨の情報サイトを開こう。ミナトにとって精神安定剤のようになっていた。サイトを開いて情報を見ている時間がとても有意義に感じられ落ち着いた気分を取り戻せた。


「ビットコインの遅延問題」というトピックスがあった。さっそく見てみよう。

ビットコインの送金など取引の遅延が発生しているそうだ。

それはトランザクションの処理能力が関係しているという。容量不足っていうやつらしい。

トランザクションとはデータベース管理システム(または類似のシステム)内で実行される、分けることのできない一連の情報処理の単位だ。

ブロックチェーン技術の機能ともいうべき性質だ。

取引量が莫大に増えたビットコインの送金スピードがだんだん遅くなっているという。

これはすべての記録を台帳に記憶させる必要があるから・・・とかなんとか。

元々、ビットコインの容量はそんなに大きくない。量もそんなに多くないということが原因しているのかもしれない。


取引するたびにすべて記録されていくっていうのはかなりの労力だなぁとミナトは思った。

ミナト「じゃあ処理能力が上がったらどうなるんだ・・・?」

タケル君のお父さんが言っていたが仮想通貨のハードフォーク、アップデートで能力が上がったらどうなるんだろう・・・。

今までよりも使いやすいコインになったらどうなる・・・・?

自問自答しながらミナトはこれからのビットコインの可能性について考え始めた。


もしかしたら問題を見るよりも改善する方法を考えている人たちがどういった行動を起こすかを探ったほうが答えを見つけるのが早いんじゃないかな。

問題があるから、このコインはダメっていう考え方はちょっと違う気がする。


これからビットコインはハードフォークするっていう話がある。そのときコインが二つに分裂するって聞いた。

もしハードフォークでビットコインが良くなるなら・・・また高騰するかも・・・。

問題はあるがその問題を解決した先にある高騰に期待したい。


投資家の少年は中学生になり、より一層忙しさを増していた。

その中で自分で考えられる精いっぱいのことを考えて投資と向き合っていた。


両親やタケル君のお父さん、ヒナちゃんのお父さんもマイニングの会社に投資を始めているのでこれからは待っているだけでコインが増えていくことになった。

僕のお母さんとお父さん方はマイニングの会社に定期的に投資を行う方向になったらしい。タケル君のお父さん「現物のコインを買うよりもそっちのほうが確実だからね」と言っていた。確かに僕もそう思う。


僕も社会人になったらマイニングする会社に給料からいくらかをその会社に投資していこうと考えている。

僕らが年寄りになるころ「年金はもらえない」「退職金はない」と今すでに予想されているぐらいだから・・・。

年老いて働けなくなったときにまとまった資金や月々もらえるお金がなくなったら一体どうやって生活していけばいいのだろうか?(汗)


ミナトは両親が直面した現状と自分がこれから将来、大人になったときに直面する状態を合わせて考えていた。

僕は大人になって会社に勤める。勤めた会社を退職したら、そこからシルバーの人材派遣でバイトで暮らすのだろうか?

日本人の寿命は年々延びている。僕らが年寄りになるころは平均寿命が90才とも言われている。それに医療技術、テクノロジーが進化しているから病気は治るし体は動かせるのかもしれない。だが、しかし、僕が大人になって親の介護費や子供の養育費で生活が圧迫されるというのは容易に想像がつく。

現に両親は共働きでおじいちゃんとおばあちゃんの医療費や介護費を負担しているのだから・・・。それに僕の養育費も負担している。

僕が投資を始めたときに両親が一緒に投資を始めたのも「少しでも生活の足しにできたら・・・」という想いからだった。

幸い投資は成功して生活はだいぶん楽になったようだ。お母さんが専業主婦に戻ろうかなぁと言い出してるし・・・。(笑)

間接的ではあるが親孝行できてよかった。あとおじいちゃんとおばあちゃんに会うときは僕が食べ物を買って持って行けるからね。投資でお金が増えるって便利だ。


自分たちの生活が親と子供にかかる費用で圧迫されないようにする。そのためにはやはり投資でお金を増やすのがいい。とくにマイニングする会社に月々、定期的にお金を投資したい。仮想通貨を月々、買っていくことも考えている。それらのコインを大量に保有して年寄りになれたら僕は幸せかもしれない。


不安な未来と明るい未来。今はそのどちらも「空想でしかない」。しかし、そのどちらかの未来は現実になるだろう。


もし現実になるなら明るい未来がいい。ヒナちゃんと一緒に楽しく過ごせる明るい未来がいい。ミナトはそのために”今”がんばっている。

学校で勉強することや将来、会社に勤めることと同じぐらい投資が大切だと意識していた。ミナトの考えはすっかり現実を見据え、大人の思考になっていたのだ。

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