第11話 クリプトカレンシー

冬休みが終わって学校が始まった。久しぶりに会う友達と正月はどんな過ごし方をしていたかを話すのは楽しい。

みんなの話題はテレビ、アニメ、恋愛、ゲームがほとんどだ。他のクラスの男の子がそのクラスで一番かわいい子に告白して付き合い始めたって話もあった。そういう話はちょっとドキドキする。なんで僕がドキドキするのか自分でも意味がわからない。


なんか「告白」っていうのはお互い、まだ全部を知っていない状態でやる儀式のような感じがしていた。

僕は幼馴染のヒナちゃんと自然に一緒にいるからなぁ・・・。告白っていうのはちょっと違うような気がする・・・。でも、ヒナちゃんは僕のことどう思ってるのかなぁ・・・。

いつも笑顔だし一緒にいるとき明るいから「嫌い」じゃないことはわかるけど・・・。

ミナトも小学生らしく「恋愛」となるとどうしていいか、わからなかった。


学校の帰りはいつもヒナちゃんと一緒だ。恋愛を意識したのでちょっと話し方がぎこちなくなってしまった・・・。

そんなミナトをよそにヒナちゃんは今日も笑顔だ。


ミナト「久しぶりの学校だったから楽しかったね」

ヒナちゃん「そうだねー、冬休みもっと長くてもよかったけどみんなと会うのも楽しいね」


ミナト「そうだね、今日さぁ、他のクラスの男の子が告白したって話聞いた?」

ヒナちゃん「ああ、それ知ってるぅー!3組のトワ君がヒカルちゃんに告白したの」


ミナト「ええー!?そうなの?トワ君だったの?マジかー・・・・。大人しいイメージだったけどやるなぁ。確かにスポーツできるしシュッとしてるけど・・・」


ミナト「それにしてもヒナちゃん情報早いね」

ヒナちゃん「アハハッだってヒカルちゃんに相談されたもん」


ミナト「ああ、そうだったの・・・。ヒナちゃんなんかそういう相談多そうだもんね」

ヒナちゃん「そうだね、なんか恋愛の話で相談されること多いかも。私は相談したことがほとんどないけど」


ミナトはなぜかその言葉が胸に刺さった。なんか・・・今の言葉は「私は恋愛していません」って聞こえた気がした。(苦笑)

そこからはとくに何も聞かずに他の話に逸らすことにした。


家に帰ってからミナトは仮想通貨の情報サイトを開いた。情報サイトにはそのサイトの運営サイドが登録しているツィッターやフェースブックがあった。

ミナトはそういったSNSサイトも登録するようにしている。

ツィッター経由で海外の情報を見るとほとんどが英語なので新しい情報があっても読むことができなかった。


ミナト「そうだ。翻訳ってどういうのがいいんだろう・・・」

タケル君のお父さんにさっそくスカイプでチャットを送った。

ミナトが使っているブラウザはマイクロソフトのインターネットエクスプローラーだったが「英語の翻訳だったらグーグルクロームがいいんじゃない?」とタケル君のお父さんにアドバイスをもらったのでさっそくグーグルクロームを使ってみることにした。


グーグルクロームをダウンロード、インストールしてブラウザを開いた。翻訳機能があり英語のサイトを自動翻訳することも可能だった。


ミナト「そういえば仮想通貨って英語でなんていうんだろう・・・?」

グーグルで調べてみると「仮想通貨」「暗号通貨」は英語では「クリプトカレンシー」というらしい。

ミナト「なんか英語にするとなんでもかっこよく聞こえるな」(笑)

僕はクリプトカレンシーを買うトレーダーなんだ。


仮想通貨の投資家というとなんだか重いイメージだが英語にすると軽いイメージになった。

グーグルクロームの自動翻訳機能によって英語のサイトも見ることが可能になったのでミナトの情報収集の幅は広がった。


自動翻訳では多少、誤字・脱字があるがだいたいの意味がわかればそれでよかった。

ミナト「よし!これからは英語のサイトも見ることができる。これで海外で起きていることもわかるはずだ」


新年が明けて学校が始まり、仮想通貨は軒並みさらに右肩上がりになってゆく。

ミナトの資産は2月を過ぎるころに60万円を超えることになった。

ビットコインのハードフォークについて色々囁かれるようになったが今回は延期となった。それによって価格は元の価格からさらに倍へと高騰するのだった。


ミナトの学校では教師や生徒、さらに主婦の間で「小学生の仮想通貨の投資家がいる」と以前から言われていたが誰かは特定されていなかった。


タケル君やヒナちゃんは自身の父親から「学校でミナト君が投資家ってことは内緒だよ」と秘密にするように言われていた。

もちろんタケル君が仮想通貨を買っていることも僕たちだけの秘密である。


架空の人物のように「小学生の投資家」は持ち上げられていた。

噂が一人歩きして「一ヶ月で100万円投資で儲けたらしい」とか「小学生なのにプライベートは全身ブランドだ」とか・・・。(笑)


いつしかその架空の人物は「クリプトカレンシーボーイ」と名付けられていた。

ミナトが通う学校では教師や主婦が仮想通貨に興味を持ち始めていた。

生徒たちは「なんのことかさっぱり・・・?」といった感じであった。


学校の帰り道、たまにヒナちゃんがミナトをからかうように言う。


ヒナちゃん「ああ、そういえばクリプトカレンシーボーイが誰かわかったら2組のメイちゃんは付き合いたいって言ってたよ。お金持ちと付き合いたいんだって」

ヒナちゃんが小悪魔のようにニコっと笑っている。

ミナト「ああ、そうなの・・・・?」突然の告白でミナトは焦った。


ミナト「ブログでクリプトカレンシーって言葉を使ったら、いつの間にか学校でクリプトカレンシーボーイって言葉を聞くようになったんだけど・・・もしかしてヒナちゃん?」ミナトはヒナちゃんに恐る恐る訊いてみた。

ヒナちゃん「私は言わないよ。きっとミナト君のブログ見てる人がいるんだね。もしかしたらSNSサイトとかでバレちゃってるかもよ?クリプトカレンシーボーイさん」


ミナト「ああ、そうなんだ。ヒナちゃんじゃないんだったら別にいいよ。他の誰かなら気にしない」

ミナトはホッとした。ヒナちゃんがそういう秘密をバラす子じゃないことを信じていた。

ミナト「別にバレてもいいんだけどね。でも、お父さんやお母さんは秘密にしてたほうがいいって言うからさぁ・・・。ヒナちゃんのこと疑ってごめんね」

ヒナちゃん「メイちゃんのことはいいの?僕だよって言ったら付き合えるよ?」ヒナちゃんの大きな目が細く尖った。


ミナト「すっごい目が細くなってるよ。意味深すぎて震える」(怖)

ヒナちゃん「アハハッごめんごめん」(爆笑)


こういう自然な感じでいつも一緒にいるヒナちゃんに今更「好きです。僕と付き合ってください」っていうのも変だしなぁ・・・とミナトは思っていた。でも、冬休みの間に告白したトワ君が少し大人に感じた。背が高くてシュッとしてるし・・・。

そろそろ僕も・・・・。

ミナト「あのさぁ・・・。ヒナちゃんは僕がクリプトカレンシーボーイって知ってるじゃん?」

ヒナちゃん「うん、そうだね。知ってるぅ」


ミナト「で・・・どうなの?」(汗)

ヒナちゃん「へっ?何が?」

ダメだ~!ぜんぜん伝わらない・・・・。(汗)

しっかり意識を持って言葉のイメージ作らないと・・・。


ミナト「僕がクリプトカレンシーボーイだよって言ったらヒナちゃんは付き合ってくれるの?」

ヒナちゃん「なにそれ?」(爆笑)


ミナト「いや、いいや。今のは忘れて。僕が投資家じゃなくてもヒナちゃんのこと好きだからね」

ヒナちゃん「・・・・・・ありがとう」

ヒナちゃんはその後、黙ってしまった。


これはダメなのか?ダメなパターンかな?


しばらく沈黙が続いていたが・・・ヒナちゃんのほうから話はじめた。

ヒナちゃん「私もミナト君のことは好きだよ。私たちって幼馴染だったからこういう風に言葉にするのってなんか照れるよね」

ミナト「確かに。でも、言わなきゃいけないタイミングなのかと思ったんだ」


ヒナちゃん「タイミングって?」

ミナト「メイちゃんの話が出てきたけど、僕はメイちゃんと付き合わないから・・・」


ヒナちゃん「変な話を振っちゃってごめんね」

ミナト「いいよ。いいきっかけになった」


ヒナちゃん「ミナト君ってすごくポジティブよね」

ヒナちゃんがいつもの笑顔に戻った。「ああ、よかった」とミナトは思った。

ヒナちゃん「付き合おっか?」

ミナト「へっ?いいの?マジ?」


ヒナちゃん「アハハッ、私から告白しちゃった」

ミナト「なんか逆になっちゃったじゃん」(笑)


ミナト「僕はOKだよ」


こうして女の子に逆に告白されるというちょっと情けない感じで僕たちは付き合い始めた。

ミナトは小学生の顔と投資家としての顔の二つを持つようになっていた。

ヒナちゃんの前では素の自分でいられるのが嬉しかった。

投資家としての顔は周りには理解されないもの、孤独なものという気持ちが心のどこかにあった。

実際、相談できるのは大人だけだったし複雑な話になれば話せる人物は限られてくる。

ミナトは投資に対して真摯な心で向き合っていた。


学校で噂されるような「ブランド好き」「成金」のクリプトカレンシーボーイとは程遠い存在であった。

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