第9話 コインの種類が増えた

2017年、新年を迎えた。

テレビは毎年、恒例の漫才をやっていたり、とても可愛いタレントが着物を着て髪型も華やかにお正月を彩っていた。


親戚たちがミナトの家に集まった。今年のお年玉は少なかったがまったく気にしていない。両親からは「あなたは投資のこと話しちゃダメよ。お年玉もらえなくなるからね!」と釘をさされた。


ミナトは投資の話は大人同士でもタブーなんだな・・・と心のどこかで引っかかった。

それはさておきコインチェックのほうでは取り扱うコインの種類が増えていた。

よくわからないが5種類ほど追加されたようだ。

ミナトからすれば取引所にあるコインが増えるというのは嬉しいニュースである。

自分のコレクションを増やせるチャンスなのだ。そして、投資したコインが高騰すれば利益も出せる。


ファクトム、モネロ、ジーキャッシュ、ダッシュ、オーガ、ネムと凄い名前のコインだな・・・。(汗)

ゲームでもそんな奇抜な名前使わないだろ!と思わずツッコミを入れた。

なんだか戦隊もののヒーローが増えたような気持ちになった。


ミナトはコインの機能についてはあまり詳しく知らなかった。

新しいコインが増えた。嬉しいと単純に喜んでいる。

コインの機能について知っているのはビットコインぐらいだ。ビットコインはブロックチェーンの技術が使われている。取引した履歴はすべて残っている。

それがあるからプログラムでありながらもネット上で”存在”しているということになるのは理解していた。

タケル君のお父さんがいうには「基本はビットコインのブロックチェーン技術を採用しているんだよ、他のコインも」ということだった。

ビットコインに使われた技術+そのコイン独自の技術で新しいコインの誕生という話だ。

既にあるコインが新しい機能を付けることをハードフォークと呼ぶらしい。

ハードフォークにはいくつかのパターンがあるそうだ。アップデートだけの時もあればイーサリアムのようにイーサクラシックと二つに分裂したものもあるという。

どうりで名前が似ていると思った・・・。(汗)


タケル君のお父さんはプログラマーなのでそっちのほうが興味があるようだ。コインを作った人たちの意見が分かれたときにコインが分裂する可能性が高いという。

イーサリアム(推進派)とイーサクラシック(保守派)に分かれた場合、その二つのコインは同じではない。

推進派のほうはハードフォーク(アップデート)を繰り返しながらコインの機能を追加していくそうだ。保守派のほうは元のコインの状態を保っている。

一つのコインでハードフォーク(アップデート)を繰り返す場合はプログラマーたちの意見が一致しているとみていいのかもしれない。


ミナトはその辺はよくわかっていなかった。想像の域を超えてしまっていた。

タケル君のお父さんはそういった話になると力が入って熱弁を振るう。

ミナトからすれば「ああ、熱心な人だなぁ」と感心するぐらいだった。


新年はヒナちゃんやタケル君と一緒に近くの神社に初詣に行った。

ヒナちゃんはお正月なので少しいつもよりも華やかな服を着ているように感じた。タケル君と僕はいつもの普段着だった。

お賽銭を投げ入れて三人で手を合わせてお祈りをした。おみくじは僕は「中吉」でヒナちゃんは「大吉」、タケル君は「吉」だった。

今年の春、小学校を卒業して中学生になる。三人はこれから受験に向けて勉強をがんばらなければならない。

まだ実感はないけど中学校は先生も厳しくなるしなんか大変そうだなぁっていう漠然としたイメージがあった。

「三人同じクラスになれたらいいね」と話しながら神社の近くのファミリーレストランで楽しく過ごした。


やっぱり友達と一緒にいる時間は楽しい。話も弾むし一旦頭の中にある色んなことを忘れて無邪気に騒げるから。


家にいるときはノートパソコンで仮想通貨の情報サイトを見ながら常に新しい情報を気にしている。部屋で心を研ぎ澄ませて深く考えるようになっていた。

集中しすぎて時間を忘れることもある。張り詰めた心は疲れやすくなっているのだ。


お正月になって「かなりリフレッシュできた」とミナトは満足げに仰向けになって寝た。

両親と一緒に過ごしている時間も楽しい。一緒に出掛けることも多く、子供にかえった気分だった。


正月も三が日を過ぎるとテレビや正月らしさも薄れてくる。頭を切り替えたミナトはまたノートパソコンで仮想通貨の情報サイトと向き合っている。

今年は2017年だ。2020年まではまだ3年もある。

タケル君のお父さんが教えてくれた「ムーアの法則」とドバイのペーパーレス化、さらに東京五輪オリンピックが2020年・・・。

ミナト「これは偶然なのか?・・・・」

とにかく2020年に向けて投資をがんばってみよう。3年後なら僕は中学を卒業して高校に進学しているはずだ・・・・。


何もかもが偶然には思えず、何か大きな力が働いているように感じた。


取引所で取り扱うコインの種類が増えたという国内のニュースだけではなく、他の国でも慌ただしく仮想通貨に関するニュースは毎日、目白押しだった。

正月を過ぎてもさっそく考えることが山積みとなった。

世界が同時に動いている。同時進行で仮想通貨が使われている。これはミナトにとってとても重要な情報である。


インドでは高額紙幣が廃止されるというニュースがあり、仮想通貨を使うのではないか?と予想されていた。

中国では取引所ができるというニュース。ロシアでもビットコインの決済を導入するというニュース。あの大手通販サイトのアマゾンも仮想通貨の決済に乗り出すのでは?とトピックスに挙がっていた。

ロンドンでは仮想通貨専用の銀行ができるというニュースまである。


ミナト「なんか今年もスゴイことになりそうだな・・・」

小学生の彼が思っているよりも仮想通貨は世界で必要とされていた。

また思い出す言葉がある。「需要があるから供給される」である。


投資家としての基本中の基本ともいうべき言葉が脳裏をかすめる。


正月が明けて幸先が良さそうだった。木漏れ日がミナトの全身を包んでいるようなそんな感覚があった。

ミナト「マイニングで増えたコインを換金して、新しいコインを買ってみよう」と密かに期待を膨らませた。

海外ではポロニエックスで100種類のコインが扱われているのに対して日本ではせいぜい12種類程度だ。だが、しかし、日本で取り扱うようになったということは海外で”生き残った”という実績があるに違いない。

つまりコインの機能・利便性が優れているということになる。人気があるということになる。きっとそうだ。ミナトの予想は確信をついていた。


日本企業だけではなく海外の企業や政府も連携して秘密裏にテスト稼働させているコインやこれから国際送金に利用されようとしているコインもその中に含まれていた。

「生き残ったコイン」とはつまり必要とされていることを裏付けている。

ミナトは好きなことにのめり込むタイプだ。自分が興味を持ったことや楽しいと思ったことにやたら勘が働く。

生まれながらに持った天性であり何か特別な育ちをしたわけでも何でもない。


彼の”勘”は学校の勉強や知識で得られるものではなかった。


仮想通貨の知識・情報とまだ今は存在していないものまでも見通す力が合わさっている。毎日の情報収集の甲斐があって彼の”勘”は冴えていた。

これから有力視されるコインへ投資することになったミナトの未来は明るい。

この時、誰もそんなことを想像した人間はいなかった。


ただ日本でも新しいコインが増えた。取引所の取り扱うコインの幅が広がった程度の認識だった。

仮想通貨に関連した企業と一部の機関は「将来に備えた動き」をしていたが誰もそんなことを意識できるわけもなく、ただ投資対象として受け入れていただけだった。


ミナトの情報収集と想像力、好きな気持ちが未来を切り開いている。

世界が動くほどの一大プロジェクトが進められようとしているが気づいているものは誰もいない。ただ小学生の投資家の彼の”勘”がそれを引きつけていた。


これから世界が動くのは2020年頃だ。しかし、今はまだ誰も気づいていない。

世界が同時進行で仮想通貨を使える環境をインフラ整備している段階である。

2020年、ムーアの法則に従って画期的にデジタル技術は進化する。その時、仮想通貨でなければならないことがたくさん登場しているのだ。そして、多くの人は”後悔”する。


あの時「投資していればよかった」と・・・。


それが大人同士が投資の話をタブーとしている理由でもある。「あいつは儲けた、きっと誰かから情報をもらっていたに違いない」とか「あんなに高い車どうやって買ったんだ?くそー投資で儲けやがって!」など、嫉妬や逆恨みの対象になりやすい。

大人になると子供のころの純粋さを忘れ、利害に意識を囚われる。

利害関係ばかりを考える大人の”勘”は働かない。目が濁っているので未来がよく見えない。

ミナトは仮想通貨ビットコインに興味を持ち、投資を始めたが彼の心は透き通っていた。彼の目は未来を見通せる子供の目のままなのだ。


ミナト自身もはっきりと理解していたりわかっているわけではない。しかし、近い未来「きっとスゴイことが待っている」という期待とワクワクした気持ちが彼の”勘”を働かせていた。


2020年というキーワードだけで十分なのかもしれない。彼にとって特別に意識した年なのだ。

その時までにたくさんの点がつながって線になることはなんとなくわかっていた。

はやくこの目で見たいんだ、2020年はどれだけ電子機器が進化しているのかを!とミナトは無意識に心を高鳴らせていた。


彼の本能は知っている。2020年の素晴らしい世界を。

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