第4話 作られた価値
日曜日の朝、携帯にヒナちゃんからメールが入っていた。
ヒナちゃん「今日、ミナト君の家に遊びに行ってもいい?」という内容だった。
もしかしたらヒナちゃんのお父さんから何か仮想通貨に関する情報があったのでは・・・。
ミナト「いいよ。お昼すぎに来てね」とメールの返事を返した。
昼過ぎ、ヒナちゃんがミナトの家に遊びに来た。
お母さん「あら、ヒナちゃん元気だった?大きくなったね」
ヒナちゃん「こんにちは、ミナト君のお母さん。私は元気でしたよぉ!」
ヒナちゃんはいつも笑顔だ。
ミナト「やぁヒナちゃん。カフェとケーキあるから一緒に食べよう」
ヒナちゃん「ええ、ほんと?ありがとー」
ミナトとヒナちゃんはリビングのテーブルでケーキを食べた。
ヒナちゃん「このケーキおいしいね。私チョコレートケーキ好きなの」
ミナト「僕もチョコレートケーキが好きかなぁ。チーズケーキも好きだけど」
ヒナちゃん「ああ、チーズもいいね」
他愛もない会話をしてからミナトは本題の仮想通貨の話に切り替えた。
ミナト「今日、ヒナちゃんがうちに遊びに来たのってさぁ。お父さんから何か仮想通貨の情報あったから?」
ヒナちゃん「そう!いろいろお父さんが調べてくれたの」
ミナトのお母さん「あら、ヒナちゃんのお父さんはやっぱり教師ね。頭いいわ」
ヒナちゃん「そんなことないですよぉー。お父さん家の中だとけっこうダラけてますしぃー学校にいるときとは別人だってお母さんがいってますもん」
ミナトのお母さん「あははっうちの旦那も家にいるとダラけてるわよ」
ミナト「大人になるとみんなそんな感じなのかもしれないね」
和やかな雰囲気になった。
ヒナちゃん「マイニングについてお父さんに聞いたの。そしたら、お父さんがいろいろ調べてくれたんだ」
ミナトは耳を澄ませてヒナちゃんの説明を聞いた。
ヒナちゃん「仮想通貨ビットコインができたのはサトシ・ナカモトさんの論文があってそれを元にして世界中のプログラマーが集まって作ったんだって」
ヒナちゃん「ビットコインは仮想の中に存在する金なんだって」
ミナト「ほうほう、なるほど」
ヒナちゃん「山から金を掘るようにビットコインをパソコンを稼働させて手に入れるのがマイニングなの」
ヒナちゃん「でもね、なんでそれをやるかっていったら価値を持たせるためなんだって」
ミナト「価値を持たせる?お母さん価値を持たせるってどういうこと?」
ミナトのお母さん「価値を持たせるってすごいね。よくわからないけど」
ヒナちゃん「例えばさぁ、たくさんあるものって価値がある?」
ミナト「たくさんあるもの?」
ミナトはまるで見当がつかなかった。
ヒナちゃん「砂とか土ってミナト君欲しいと思う?」
ミナト「いや・・・いらない」
ヒナちゃん「じゃあ金だったら?」
ミナト「金だったらそりゃ欲しいよ」
ヒナちゃん「金は地球上にある量が少ないんだって」
ミナト「なるほど。ビットコインの量は少ないっていうことか」
ヒナちゃん「そう!賢いじゃないミナト君」
ミナト「いやぁそこまで説明されたら誰でも気づくよ」
ミナトのお母さん「私にはさっぱりわからないけどね」
ヒナちゃん「砂漠とか暑くて水が少ない国では水に価値があるの」
ミナト「水に価値がある・・・。なるほど、日本だと水はたくさんあるからそんな風に思ったことがなかったよ」
ヒナちゃん「ビットコインは”作られたときから価値がある”設定なんだって」
ミナト「なるほどね。金と同じで量が少ないんだね。量が少ないから価値がある」
ミナトのお母さん「確かに金とかダイヤモンドには希少価値があるわね」
ヒナちゃん「お父さんもミナト君を見習って仮想通貨を買うって言ってたよ」
ミナト「おお!ヒナちゃんのお父さんもビットコイン買うんだね。仲間だ」
ミナトのお母さん「うちのお父さんもミナトが買うんだったら俺も買おうかなぁって言ってたよ」
ミナト「ええ、お父さんも!?」
ヒナちゃん「みんなミナト君に影響されてるね!すごいね!」
ミナト「なんか照れる・・・。でも、それがいいことなのかわからないけど・・・」
ミナトは少し不安な気持ちになった。
自分がやっていることに大人が興味を持ち、自分のマネをする。そんなことが今までなかったからだ。
今までは大人のマネを自分がやってきた。逆になることなど想像もしなかった。
ミナト「ビットコインのマイニングや価値について少しわかった気がするよ。ありがとう、ヒナちゃん」
ヒナちゃん「あとねー、マイニングは海外だと儲かるんだって」
ミナト「ええ!そうなの?なんで?」
ヒナちゃん「日本と違って海外は電気料金が安いところが多いんだって」
ミナト「ああ、なるほどー。電気代が安かったらパソコンをフル稼働させても利益が出るんだね」
ヒナちゃん「だから、マイニングする会社もあるんだって」
ミナト「ええ!マイニングする会社が存在するの?それは凄いね」
ヒナちゃん「すごいよね!それで暮らせちゃうんだもんね」
ヒナちゃん「いずれビットコインは買い物とか使えるようになるらしいよ。海外だったらすでにタクシーやホテル、飛行機なんかもビットコインで支払える国があるんだって」
ミナト「ほんとに!?ヒナちゃんのお父さんどれだけ調べてるの?」
ミナトはヒナちゃんのお父さんとの情報と知識の差に戸惑いを隠せなかった。
ヒナちゃん「うちのお父さんって学校でいろんな専門分野の先生と話せるから情報が集まりやすいんだって。お父さんだけだったら半分もわかっていなかったと思うよ」
ミナト「でも、貴重な情報をたくさんもらえて嬉しいよ。ヒナちゃんがお父さんに聞いてくれなかったら僕はずっとマイニングで引っかかってたもん」
ミナト「そうだ。ヒナちゃん、これプレゼント」
ミナトはリビングにあるソファの後ろから紙袋を取り出した。それはヒナちゃんが欲しいと言っていた白・黒のヘアピンとセーターだった。
ミナトのお母さん「あら、あんたいつの間に?」
ヒナちゃん「うわぁ!ありがとう。ヘアピンかわいいしセーターも明るい色でいいね」
ヒナちゃんは満面の笑みで喜んだ。
ミナト「よかった。気に入ってくれて。また欲しいものあったら僕が買ってあげるよ」
ヒナちゃん「これ大事に使うね。ありがとう、ミナト君」
ミナトのお母さん「あんたやるわね!」
ミナトのお母さんは自分の息子が女の子に気が利くことを嬉しく思った。
楽しい日曜日を過ごして、夜、机の前に座ったミナトは心を静かに研ぎ澄ませて今日ヒナちゃんから聞いた情報を頭の中で整理していた。
ノートには「作られた価値、ビットコイン」と書いて忘れないようにしている。
世界中のプログラマーが集まって作った。ビットコインは作ったときから価値があることが前提だったんだ・・・。
小学校6年生の少年の勘は当たっていた。
「何かがある」この何かとは価値だったのかもしれない。
いずれどこでもビットコインで買い物ができるようになるというのもミナトにとっては夢のような話だった。
ビットコインで買い物ができる。だけど、パソコンの画面で表示されてる数字でどうやって買うんだろう・・・?
ミナトの疑問は次から次に浮かんでくる。
今度は買い物ができるとしたらどうやってやるのか調べよう・・・・。
金と同じだって言ってたけど買い物ができるんだったら金とは違うような気がする。
何かわからないけどビットコインには不思議な魅力がある。
まだ「何かある」とミナトは思った。そして、その何かに期待した。
小学生のミナトには言い表せない「何か」だがこれは大人でも容易には理解できない代物だった。
わからないけど前に進む勇気、わからないけどとにかく行動するミナト。
まだ問題や情報は点でしか存在せず、線となって形を表すことはなかった。
迷路の中で道に迷いながら出口を探すような感覚なのだ。
一歩ずつ前に進み、間違ったらすぐに軌道修正する。
ミナトにとってこの仮想通貨の投資と向き合うことが大人でいう仕事のようなものに感じられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます