第3話 オンラインバンク

ミナトは貯めたお小遣いを取引所の開設ついでに作ったオンラインバンクに入金した。

コンビニのATMでキャッシュカードを使って入金をしてドキドキしながら家のパソコンで入金確認をした。

ミナト「おお、ほんとだ。入金できてる。自分の部屋のパソコンで入金したお金が確認できるって便利だなぁ」

ミナト「今度はオンラインバンクから取引所へ銀行振り込みしないとな・・・」


初めての銀行振り込みなので戸惑いながらも作業を進めた。


ミナト「なるほどなぁ。取引所への銀行振り込みはアカウントの番号と名前の両方がわかるようにしないとダメなんだね」


ミナトは取引所から与えられた番号と自分の名前をフルネームで入力して10万円を振り込んだ。


ミナト「この銀行振り込みが反映されるのは明日か・・・。なるほど、銀行振り込みってけっこう時間がかかるものなんだね」


ミナトからすれば意外だった。ATMからオンラインバンクへ入金したお金はすぐに反映されるのに家のパソコンから取引所への銀行振り込みは一日かかるというのが”遅く”感じた。


なんだかじれったい・・・。そう思った。その焦りやもどかしさを忘れてヒナちゃんへのプレゼントをネット通販で探した。

白がメインで黒の花柄がモチーフとなっているヘアピンとモコモコして暖かそうなオレンジ色のセーターを選んだ。


次の日、ヒナちゃんに”だいたいこんなのを選んだよ”と伝えた。

ヒナちゃんは嬉しそうに笑っていた。


家に帰って来たらパソコンを開くのが習慣になったミナトはさっそく昨日オンラインバンクから振り込んだ取引所への入金確認をした。

ミナト「おお!僕のお金が反映されて画面の数字に表示されている」

画面の表示では「100,000JPY」となっている。

ミナトは考えた。とりあえず3万円分のビットコインを買ってみよう・・・と。そして、残りは他のコインを少しずつ買うことにした。


この時、1BTCの時価は5万円でミナトは0.6BTCを手に入れた。

これからコツコツ貯金の代わりにお小遣いが貯まったらビットコインを買っていくことにした。


小学生の間に貯めた貯金はビットコインや他のコインに代わりつつあった。

ビットコインの他にいろいろコインがあるがどれがいいのかわからないので適当に6万円分を分散投資した。


イーサリアム、リスク、リップル、ライトコインへ分散して買って保有しておくことにした。


ミナトからすればパソコンの画面で観れるこれらのコインは自分が保有していることを確認できる楽しさがあった。

RPGでレアなアイテムを手にしたときやお菓子のおまけで好きなゲームのキャラクターをカードでゲットしたときのような嬉しさがあった。


それに「時価」なので毎日少しずつ自分が最初に投資した10万円が増えたり減ったりして面白かった。

ミナトは一つの目標のためにこんなにがんばったことはあまりなかった。

夏休みの宿題で好きな工作をがんばったときに似ていた。

とにかく嬉しい。楽しい。ただ純粋にそれだけだった。その楽しさ、嬉しさのために少しずつではあるが仮想通貨の情報サイトを見て勉強していた。


小学生にはかなりハードな情報サイトであり、内容が簡単に理解できるような代物ではなかったがミナトは興味があることにのめり込むタイプなのだ。

その中でミナトが気になったのは「マイニング」という言葉だった。

「マイニング」を検索すると「採掘」と出る。


ミナト「はて?なんだろう、これは・・・・」

今まで仮想通貨ビットコインをわかったつもりだったが一体どういう意味なんだろう?

夕食時に両親に聞いたがわからないようだった。大人でも簡単にわからないことなんだ・・・と悟った。

ミナトはパソコンにダウンロードしたスカイプを立ち上げた。

とりあえずタケル君にスカイプのチャットで聞いてみよう。

しばらくしてタケル君からチャットの返事があった。


タケル君「マイニングをお父さんに聞いてみたよ。ちょっと説明が面倒だから明日、学校で話すよ」

ミナト「ありがとう。そんなに複雑なんだね・・・」


「仮想通貨」と「採掘」が頭の中で結びつかない。

ミナト「まぁいいか。明日、タケル君に教えてもらおう・・・・」

この頭の中で結びつかない単語二つがどうやってセットになったのか、とても興味深かった。


次の日、昼休みにミナトはタケル君のクラスに行った。

タケル君「ちょっと待ってね・・・」モグモグ給食を食べながら焦っていた。


ミナト「ごめん、ちょっと来るの早かった・・・」

タケル君「いや、いいよ。でも、よっぽど気になってたんだね」

タケル君は牛乳を飲んで給食のトレーを片付けた。


タケル君は席に着くと昨日、お父さんから聞いたことを静かに話始めた。


タケル君「昨日、お父さんに聞いたんだけどマイニングっていうのは日本語にすると採掘っていう言葉になるらしいよ」

ミナト「そうだね。採掘って翻訳が出てたよ」


タケル君「そうなんだ。採掘っていうのは山から金や銀、銅などを掘るときに使う言葉なんだって」

ミナト「へぇ~金とか銀を掘るときに使う言葉なんだね」


タケル君「でも、ビットコインってパソコンの画面でしか見れないでしょ?」

ミナト「うん、ネットとパソコンがないと見れないよね。それに実在していないし・・・」

タケル君「ここからなんか変な話になるんだけど・・・・」と前置きをした。


タケル君「ビットコインは地球上に埋まっているものだと仮定しているんだって。それでビットコインを掘り起こすためにパソコンを使ってビットコインをマイニングする必要があるらしいよ」

ミナト「ええ!地球に埋まってる!?」キョトンとした顔でタケル君のほうを見た。


タケル君「変な話だけど金や銀と同じようにビットコインも掘り起こさないといけないんだ。でも、ビットコインは実際に存在していない。だから、パソコンでマイニングして手に入れることができるんだってさ」

ミナト「ええ・・・。じゃあ僕のパソコンでもビットコインをマイニングできるってこと?買わなくても手に入ったってことかな・・・?」


タケル君「難しいことはよくわからないけどお父さんが言うにはビットコインのマイニングはパソコンのCPUの稼働率が100%になって電気をたくさん消費するらしいよ。だから、電気代のほうが高いから赤字になるんだって」

ミナト「じゃあ今、買ってるコインは誰かがマイニングしたものなのかな?でも、赤字になるんだったら誰も掘らないよね?」ミナトはかなり困惑した。


タケル君「そうなんだよなぁ、変な話だよね。じゃあ今、買えるコインは一体誰が何の目的でマイニングしたんだ?ってことになるよね」

ミナト「そうだね。言葉の意味がわかったけど、その先にもまだわからないことがたくさん出てきたよ」


ミナトとタケル君の話はそこで終了した。

二人はこの先、会話を続けても納得がいく答えを知ることができないということがわかっていた。


帰り道にガッカリした感じでヒナちゃんに話をした。

ヒナちゃん「そうなんだ・・・。あのタケル君でもわからないことがあるんだね」

ミナト「僕なんてわからないことだらけだよ」


ヒナちゃん「私もミナト君側でわからないことだらけよ」

ミナトはヒナちゃんの笑顔を見ると少し元気を取り戻した。


ヒナちゃんはハッとした顔をして「そうだ!お父さんに聞いてみる」と言った。

ミナト「ヒナちゃんのお父さんって教師だったよね?仮想通貨ってわかるのかな」


ヒナちゃん「仮想通貨は詳しくないかもしれないけど、私たちが調べるよりお父さんに調べてもらったほうがわかる気がする」

ミナト「確かに・・・・。教師だしなんかいろんな知識がありそう」


ヒナちゃん「じゃあ帰ったらお父さんに聞いてみるね」

ミナト「うん、ありがとう。ヒナちゃん」

ヒナちゃんは「また明日。バイバイ♪」と言って元気に帰っていった。


まさか仮想通貨、取引所、銀行口座以外で問題に直面するとは思ってもみなかった。

知らなくてもビットコインは買える。しかし、知らないのに買っている自分がイヤだった。

興味があった仮想通貨ビットコインなのに自分が知らない部分がまだあったというのがイヤだった。

駄々っ子のように”わがまま”なのではなく探求心が強くなっていた。

プロとアマチュアを分ける”小さな違い”のようなものがミナトには直感としてわかっていた。

「わからなくてもいい」「買えたからいい」ではなく、すべてを知っておきたい。そう思っていた。

マイニングという言葉の意味はわかった。しかし、「どうしてそんな構造になっているのか?」ということと「誰がやるのか?」という疑問。

この二つの疑問を解き明かしたときにミナト自身が大きく前進できるような気がしていた。

両親にはオンラインバンクさえも簡単に使いこなすデジタル世代だと驚かれて「凄いね」と言われたがまだまだミナトは物足りなかった。

ミナトからすれば「どうして今までデジタルじゃなかったの?」と不便だったアナログの世代を思いやった。

アナログの世代の両親から散々「あなたたちは便利な時代に生まれてきたの」と言われてアナログとデジタルの違いについて話を聞いていた。


アナログからデジタルの時代になり、それが進化して究極の形になったのがスマートフォンだと言われても”あるのが当たり前”になったミナトたちにはピンと来ない。でも、パソコンでオンラインバンクを使いこなせても取引所で仮想通貨を買えてもミナトはまだまだこれからだと思っていた。

もっとたくさんの情報と知識が欲しい。


この先にきっと何かがあるはずだ・・・。

マイニングを理解してさらに仮想通貨のことがわかったら何かが得られるに違いない。

ミナトは直感を信じている。そして、その先にあるのが希望だと確信していた。

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