第16話記憶

 私……咲香は、襲ってくる邪気を見て、パニックになった。

 ……ああ、私はここで死ぬのか。

 死を覚悟し、抱いていたスウォラを離した時。

 アリナが、私をかばっていた。

 アリナはそのまま闇に包まれた。

「待って、アリナ!」

 私は、叫んだ。

 しかし、その声は彼女には伝わっていなかった。

「サフィアさん、アリナが……。私の、せいで……。」

 サフィアさんは、すぐ近くの闇を見て、呆然とした。

 闇は広がり、大きくなっていく。

「駄目だ……。こんなの……見たことが、ない……。」

 サフィアさんの手から、大きめの剣が落ちた。

 助かる道は、無いのだろうか。

「アリ、ナ……。」

 その時、一瞬だけ見えた、アリナの瞳。

 それは暗闇に染まり、元の色を失っていた。

 私たちは、ただその状況をながめることしかできなかった。


 


 ……ああ、私は、小さい頃の夢を見ているようだ。


 記憶の底に溜まっていたものが全て出てきたように、いくつもの記憶がよみがえってくる。


『母上。私、姉上のように強くなりたいです。』

『あなたには、そんな素質無いわ。』


『なんで姉のサフィアは頭が良いのに、妹のアリナは何もできないのかしら。』

『養子にでも出すか。どうせここにいても、邪魔なだけだ。』



 もう、どうでもいい。


 こんな記憶……。





 死んでしまえ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る