第15話森の中で

 私と姉上は剣を構え、咲香はスウォラを抱え、邪気の森を進んでいく。

「油断するな。いつ邪気が襲ってくるか分からない。」

『アリナさん。』

 私の後ろで咲香に抱えられているスウォラが静かに言った。

『今はボクがバリアを張っているので、強い邪気以外は寄ってこないと思います。ですが、バリアは短時間しか持たないので、覚悟をしてください。』

 私はスウォラが言ったことを、そのまま姉上と咲香に伝えた。

「分かった。すまないな。」

「ありがとう、スウォラ。」

 スウォラは咲香に頭を撫でられ、頬を赤らめた。

『いやぁ、そんな……。バリアなんて基本ですし……。』

 小さな声でスウォラがつぶやいた。



 それから、数十分が過ぎた頃。

 辺りは森に入ったときより暗く、茂みも多くなってきた。

「スウォラのバリアのおかげでまだ邪気と遭遇していないが……。この辺は結構邪気がいるようだな。」

 確かに、上を見ると目を光らせた邪気が何匹かいたが、襲ってきたりはしない。

 しかし、この辺りは今までと雰囲気が違う。

 空気が違うのだ。先ほどまでは普通だったのだが、空気が重く感じる。

『すみません、もうすぐバリアが解けます!』

「バリアが解けるそうです!」

 その瞬間、何かが割れる音がした。

 その音とともに、大量の邪気が襲ってきた。

「咲香、邪気が見えるか?」

 咲香は辺りを見回して、顔を青ざめた。

「なんとなく、黒い魂みたいなものが見える……。これって、邪気だよね?」

「ああ。できるだけでいいから、周りの邪気を倒してくれ。」

 姉上は咲香に短剣を渡し、自分の剣を構えた。

 私も、姉上から受け取った剣を構える。

 邪気が一斉にとびかかってきた。

 邪気が無残に斬られる音が、森の中で響く。

 姉上は大きめの剣で邪気を倒し、私は普通の大きさの剣で倒す。スウォラはバリアのせいで力を使い果たしてしまったらしい。

 ……咲香は、青ざめた顔で、立ち尽くしていた。

 ステラの家で、私が咲香に剣術を教えていた時。


 知ってる?アリナ。日本ではね、人を殺しちゃいけない決まりなの。戦争もしないって決めた国なんだよ。


 咲香が生まれた国、日本。それは夢にも思うほど平和な国。

 だから、咲香は今何も出来ないのだと思う。

 倒さない、否、倒せないのだ。

 その時、邪気が咲香に向かって一斉にとびかかる。

「咲香ちゃん!」

 私は咲香とたきさんの邪気の間に入った。

 咲香が、叫んでいた、ような気がした。


 私の目の前は、暗闇だった。


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