第4話トマラの森

「んー……。おはよう。」

 朝。私と姉上と咲香は、咲香の家で夜を過ごした。

「しかし、完全に咲香の邪気は消えたな。」

 昨日と違って咲香の家は、邪気が一つもいなくなっていた。

「邪気って?」

「原因は、人々の溜まったストレスです。魂みたいな形なんです。」

「へぇ……。」

 私はいつもの黒いパーカーを着て、髪を一つに束ねた。

「よし、もうそろそろ行くか。」

 私たちは、咲香の家を出た。

「……ん?」

 一瞬視界が暗くなったかと思うと、辺りは木々で覆われ、後ろを向くと、そこに咲香の家は無かった。

「咲香ちゃんの家の周りって、こんな森の中でしたっけ……。」

「……いや、ここは。」

 目の前に、大量の邪気が現れた。

「トマラの森だ!」

「咲香ちゃん、邪気が見えますか?」

 咲香は辺りを見回す。

「え……。いったい、何が起きているの?」

「……それじゃあ、私と手を繋いでください。」

 邪気が見えない人は、邪気が見える人と手を繋ぐと、見えるようになる。

 咲香は恐る恐る私と手を繋いだ。一方、姉上は剣を構える。

「何、これ……。」

 咲香は顔を真っ青にして、目の前の光景を見つめている。

「怖かったら、私の手を離してくださいね。」

「……おい、アリナ。これは相当な量だぞ。剣を渡すから、襲われたら戦え!」

 私は姉上から剣を受け取り、構える。

「少し、離れていてください。」

 私は咲香と手を離す。

「え、アリナ、戦えるの?」

「ええ。小さい時に、母上から少し教えてもらったので。姉上ほどではないですけれど。」

 私は目の前の邪気を、次々と切る。

「ええ、そうです。私たちが住んでいたアウルでは有名なんです。」

 姉上が街を歩くと、皆はキラキラした目で姉上を見る。

 私はそれが羨ましくて、姉上のような素晴らしい剣士になりたくて、母上に剣術を教えてもらえるように頼んだ。

 でも、私にはそんな才能など、無かった。

「……そう、なんだ。いいよえ、なんか。」

「え?」

「私ね、走ることが、好きなの。でも、実際私より足が速い人だっているわけだし、それ考えたら、私って才能なんて何も無いなって……。あなたちは、いいよね。生まれつき、才能があるみたいで。」

「そんなこと、無いです。」

 生まれてからずっと、母上に言われた言葉。

 お前に才能は無い。やるだけやっても無駄だ。

 でも……それは違う。

「才能じゃなくて、努力だと思います。姉上は毎日欠かさず、剣の練習をしているんです。だから……。」

 その時。奥の方に、白い光が見えた。

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