第7話 お菓子な作業着。

「姫様。着替えが終わりました」

「おお、タルト。御苦労。して、ナオト殿は?」

「ナオト殿、お早く出られよ。ほらっ!」

俺はタルトの言葉に拒否ったが、

「そおれっ!」

「よっこいしょ!」

「う~んとこせ!」

と、ネージェ、コルネ、ルシールの三人に別室から押し出されてしまった。

「おお、ナオト殿。それで思う存分お菓子作りに励めましょうぞ」

「はあっ? 姫様! 何でお菓子を作るのに、ドレス来て、化粧までして、女装しなくちゃいけないんですか?」

「ナオト殿、これには訳が」

と、タルトが耳元でささやいた。

「後宮で、御后おきさきや姫君のおそば近くにお仕えする者は、本来女性に限られています。ですが、もし男の方が同じようにお傍近くにお仕えしたければ、お持ちのを切断しなければならないのです」

「えっ!」

と、俺はドレスの上から股間を押さえた。

「姫様御提案のこのはかりごとも、ナオト殿の身を案じての事なのです」

「似合うておりますよ、ナオト殿」

と、ショコラ姫は至極ご満足気ごまんぞくげでいらした。

が、俺はきつめの衣装と化粧の香りで、クラクラと目眩めまいがしてきた。

「ナオト殿、早くお菓子作りを始めなければ。お時間がもうあまり」

と、タルトがかすが、無理難題であった。

家は和菓子屋と言っても、ちゃんとした作り方など分からない。もう何年も、作業場にろくに足を踏み入れていないのだ。

小さい時は、よく出入りしていたが、所詮しょせん真似事程度で。何もかも

店の陳列ケースに並べられるような和菓子は作れっこない。増して、お菓子合かしあわせなど……

俺はかつらの上から頭を抱えていたが、ショコラ姫は暢気のんきに甘納豆を一つずつ袋から取り出しては、口に放り込んでいた。

「姫様、それ待った!」

「ナオト殿、何を? 血迷われたかっ!」

「ああっ、わらわのアマナットウ!」

俺はタルトやネージェやコルネやルシールに全身を取り抑えられながらも、ショコラ姫から甘納豆を取り上げた。

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