第5話 お菓子なお姫様と侍女。

「甘粕ナオト殿、よくぞ参られました」

「えっ?」

今まで店の中に居たはずなのに……何故か、映画の中のセットのような場所に居た。西洋のお伽噺とぎばなしに出て来るような、貴族の間のような。

「何で? あれ、猪口さんは?」

「これ、ショコラ姫の御前であるぞ。キョロキョロするでない!」

と、短めに髪を編み込んだ女性に注意された。

更に、その横にも少女が三人控えていたが、何か不思議な物でも目にするかように、俺を見ていた

「タルト、よいではないか。突然、お菓子の国に連れて来られたのですから。驚きもしましょう」

「お菓子の国?」

如何いかにも。ここはお菓子の国です」

と、タルトとかいう人が勿体ぶって答えた。

「ここは撮影スタジオか何かですか?」

と、俺は聞き返した。

「姫様。サツエー・スタジオとは、何でございましょう?」

「きっと、お菓子の名店に違いない。想像しただけで、つばが出て来そう」

「まぁ、姫様! はしたのう御座います」

しかし、このヒラヒラで、ど派手な格好。この人達はどこかの劇団員で、今日はアルバイトに違いない。状況判断からして、これはテレビのドッキリだ。そうとしか思えない。のだが。あ~、もう訳が分からない。可笑おかし過ぎる!

「あぁっ、その手にしているのはアマナットウではございませんか。何たる幸運。それを、ささ、こちらへ」

「あっ!」

左手に持っていた開封済みの甘納豆の袋を、タルトに略奪された。右手には謎の文字が書かれたメモの紙切れを。

「うむ、美味。そなた達も食してみよ」

「これは……豆ですか?」

「騙されたと思って。さぁ」

姫に促されて、御付きの人達は薬でも飲むかのように口に入れた。

「あらま、甘い!」

「本当っ!」

「美味しぅ御座います!」

「良い煮具合です!」

「良きかな……あぁ、ナオト殿よ。その紙をくしてはなりませぬぞ。元の世界に帰れなくなります」

「あのう、意味が全く分からないんですけど。そろそろ、おしまいに」

「ナオト殿。その手にしているのは召喚状です。あなたは異世界に時空を超えて、やって来たのです。嘘と思うなら、窓から外を見て、お確かめに。元居たニホンとは別世界が広がっているはずです」

俺は窓際に走り寄り、外を見た。

眼下には西洋の中世の街並みが。その向こうには地平線一杯に、森と山々が広がっていた。

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