第4話 お菓子な買い物。

「あっ、いらっしゃい。あれ、もしかして直人に用かな? 」

「……えっ!」

突然、目の前に食べ物の職人姿の中年の男性が現れた。

「違った?」

「えっ、あ……ここは?」

今日は塾の日で、家に真っ直ぐ帰ろうとしていたはずなのに、何故か知らない場所に居る。

「和菓子屋だけど」

目の前の商品ケースに、和菓子が並んでいた。客がついさっきまで居たのか、レジの前に小皿と湯飲みが置いてあった。

「洋菓子店と間違えて、入っちゃった?」

「あぁ、と」

何て答えていいか、言葉も無い。本当に訳が分からないのだから……ふと、商品ケース内の、粒の大きな甘納豆が視界に入った。すると、お腹がいてるのか、自然とゴクリとつばを飲んだ。

あぁ、何だか無性むしょうに、それが食べたくて堪らない。口の中がその味わいを欲していた。

「この甘納豆を一袋、お願いします」

店を出て、初めて気が付いた。

「"和菓子の甘粕"……甘粕?」

もしかして、同じクラスの甘粕君の家? ここ、駅前の商店街の通りだし。甘粕君の家だ。間違いない。でも、

「あれえ?」

家とは思いっ切り反対方向で、全く可笑しい。猪口怜は思わず右手で頭を掻いた。左手には甘納豆の入った紙袋を抱えて。

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