第3話 お菓子な召喚状。

「何か一つお勧めは?」

と、彼女は右手を唇に添えてただしてきた。

「あぁ、ええっと……大福、羊羹ようかん、いや、わらび餅? う~ん」

どれにするか、俺は念仏を唱えるかのようにつぶやいた。

「これは? この黒々としたのは何?」

「甘納豆です」

「アマ、ナットウ?」

「はい、甘納豆。食べてみる? みますか?」

「はい、お願いします」

一応クラスメートとしてか、それともお客様対応か、何だかチグハグ。

ええっ、小皿に爪楊枝つまようじ、それから……お茶もだな。

「どうぞ」

「では、頂きます」

大粒の甘納豆を口に。

「うーん……これは何とも美味《《びみ》」

「お茶もどうぞ」

「はい」

ゴクリと一口。

「ん?」

と、猪口さんは目を見開いた。チョコの色をした瞳が丸見えだ。

直ぐに、甘納豆をもう一つ。

また、お茶をゴクリと。

「これは、何ともまた、摩訶不思議な組み合わせだ事。甘味あまみと渋味がまるで、手を添えて抱き合い、ダンスを踊っているようですわ」

と、至極満足気な様子だ。

「ご馳走でした」

「いえ」

「紙とペンを頂けませんか?」

「紙? ええっと」

レジの横に置かれたメモ帳とボールペンを彼女に渡した。

って、おい、待て! これって、もしかして、もしかして。電話番号か? まじ? まじまじ?

俺の左胸の心臓の鼓動は一気に加速した。もう破裂しそうだ!

「はい、受け取って下さい」

受け取った。何が書かれているのか、俺は直ぐに確かめた。

が、何だ、こりゃ?

ローマ字みたいな、記号のような、訳の分からない……歴史の教科書の最初の方に載っているような古代文字の羅列のような。

これは一体?

「受け取りましたね?」

「はい。でも、これ」

と、言葉を続ける事なく、俺はその場から消えた。姿、形、影でさえ、何もかも……

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