第19話

  ☯


 一方、青花は嬉々とした表情で監視画面を見守る。


「残念ね、青葉。ちゃんとあなたの中にも魂はあったのよ。でも、あなたはそれを知ることなく死んでいく。そして、あたしは完全な青龍魂せいりゅうこんを持つ魂生師こんせいしになる」


 青葉が今まで受けてきた仕打ちは、青花が仕組んだことだった。


「あたしたちは世界に干渉できる能力を持つ。あたしは青葉の精神を破壊するために呪術を使用した。青葉を否定するようにお願いしたの。呪術をこの世界の人間にかけたら誰でも青葉のことを否定する。あたしたちは普通の人間より文字通り階級が上なのよ。だから、あたしは青葉が本当の青龍魂せいりゅうこんの持ち主であると気づいていた」


 長い旅が終わったような心地がした。


「あたしたちは双子だった。だから、あたしは青葉の青龍魂せいりゅうこんにつながることができる。青葉ちゃんは自分の力の使い方を理解してない。むしろ理解できないようにさせて、青葉自身が『非魂ひこんの巫女』であると思わせてやったの。それがあたしの狙い。それがあたしの復讐なの」


 母のことを思い出す。


「あたしたちの母――先代の葛原かつらはら青葉あおばが死んだとき、あたしは青葉の中の青龍魂せいりゅうこんの力が活発になることを感じた。つまり、青葉が死んだら……あたしの中に青龍魂せいりゅうこんが宿るのではないか? そう思い、あたしは青葉の精神を破壊し、自らの命を海へと放り出させる……そんな計画を練った」


 不敵な笑みを浮かべる。


「ふふ。青葉……あなたは昔、『海が好き』と言ったわね。よく『海の向こう側に行きたい』と。その願いをかなえてあげましょう。海の向こうは死の世界よ。あなたがどんな思いで海へ行きたいと言ったのかは知らないけど。……ああ、もしかしたら……そのころから死にたがっていたのかもしれないわね。あたしの呪術に気づきもしないで」


 勝ち誇った顔で言う。


「さようなら、青葉――」


  ☯


 ――海岸にて。


「……ああ、そういうこと……なんだ。青花お姉ちゃんは……嘘をついていたんだね」


 しんみりと青葉ちゃんはつぶやく。


「ここは悪神あくしんが現れる危険領域。青花お姉ちゃんはわたしに死んでほしかったんだ」


 青葉ちゃんは目の前のサメ――悪神あくしんを見る。


悪神あくしんさん……ありがとう。わたしを魂のある人間だと認めてくれて。これでわたしは心置きなくこの世を去ることができます」

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