第18話
☯
――深夜。
「……!」
俺は目を覚ます。
「…………」
布団から出る。
「……いない。青葉ちゃんがいない」
こんな時間なのに、どこへ行ったのだろう。
「…………」
青葉ちゃんの部屋の周りを確認する。
近くの食卓台にメモが置いてあった。内容は……。
『蛭子くんへ
蛭子くんの自転車を取りに行ってきます。
青葉』
「……まさか」
頭の中が真っ白になった。いつの間にか、足が勝手に動いていた。
☯
――深夜。
「寒い……やっぱり寒いっ! うーっ……ぶるぶる」
青葉ちゃんは独り言をしゃべりながら危険領域である海岸に来ていた。
「……でも、これでよかったのかも。お母さんの気持ちが少しだけ理解できたから」
青葉ちゃんは自身のお腹をさする。
「子供を産むことは本当に大変だと思う。ましてや双子だもんね。お母さん……わたし、生まれてきてよかったのかな?」
青葉ちゃんは漆黒の空を見た。星々が輝いている。
「……わたし、よかったよ。充実してた。最後に蛭子くんに出会えてよかった。わたしのことを気にかけてくれて……うれしかった。男の人では蛭子くんが初めてだったな」
青葉ちゃんは俺を思い出す。
「……この二日間、蛭子くんがいてくれたから本当に楽しかった。明日……いや、今日かな? 元の日常に戻るんだね。他人同士になってしまう。でも、これでいいの。蛭子くんに迷惑はかけられないし、そのほうがいいよね」
青葉ちゃんは俺の自転車と、ゴーグル付きヘルメットを見つける。
「たぶん、蛭子くんが言ってた自転車は……これ、かな? ついでにヘルメットも……たぶん、蛭子くんのだよね。……普通の自転車に見えるけど、どうやって空を飛ぶのかな?」
そんなことを思っていると。
「……! 海岸が……満ち潮に。……あれは、なに?」
波間に浮かんでは消える、意思を持った影が、月明かりに照らされ……きらり、きらり……と、瞬いている。
「あれは……サメ? 背びれかな? 砂浜に近いところなのに、どうして……こっちへ向かってくるの?」
大きな背びれが、青葉ちゃんのもとへと近づいていく。
「……! あっ……」
すでに青葉ちゃんの足元まで海水が満ちている。うまく動くことができない。
「……あれ? おかしいな? わたしの魂は、ないはずなのに……」
青葉ちゃんは確信した。
「あれは……普通のサメじゃない」
姿をあらわにする。
「……目玉がない」
青葉ちゃんは震えて動けなくなってしまった。
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