第17話

  ☯


「…………」


「……今日だけ。今日だけだよ。こうやって蛭子くんと一緒に暮らすのは。明日から別々に暮らすの。これが、わたしの最後の願い。それだけで、わたしは救われる」


「…………」


「さあ、最後の時間を過ごしましょう? わたしを救ってくれた英雄さん?」


「…………」


 俺は黙るしかなかった。


 黙って従うしかなかった。


 俺には彼女に対して思うところがあった。


 葛原かつらはら青葉あおばという人間が、過去の俺自身ではないかと。


 性別は違うが、生きてきた環境そのものは鏡で映し出されたようにそっくりだと思ったのだ。


 葛原かつらはら青葉あおばが「非魂ひこんの巫女」なら、俺は……。


 だから俺は葛原かつらはら青葉あおばを救うことができる……と。


 それはおごりなのかもしれない。


 俺は考えを改め――。


 ――ただ、今は……待つしかない。


 そう判断した。


 俺と青葉ちゃんは最後の生活を始めた。


「これが最後だから。二人で最後の思い出をつくりましょう? これが終わったら、わたしたちは別々の日常へ帰っていく。これが、最後だから……」


 俺と青葉ちゃんは背中を合わせながら布団の上で横になる。


 俺は青葉ちゃんの言葉を思い出しながら、涙を流した。


 青葉ちゃんは俺の言葉を思い出しながら、涙を流した。


 二人は涙を流しながら、泥のように眠った。


  ☯


 ――深夜。


 葛原かつらはら青花せいかは、広輪京こうりんきょう――主に楔御柱くさびのみはしら――を防衛するための基地にいた。


 青花は基地の監視画面で海岸全域を見ながら物思いにふけていた。


皆神みなかみ蛭子ひるこ……ね」


 青花は昔のことを思い出し。


「まさか、青葉に情が移るとは……」


 青花自身が青葉ちゃんにしたことを振り返る。


「昔からだ。この世界は青葉を中心に回っている気がする」


 気づいていたのだ。


「あたしはがんばった。青葉の環境を根こそぎ奪うようにね。必死に否定したんだ。がんばっても結果が出ないように思い込ませてやった。青葉の精神をぶっ壊すくらいに」


 これまでの青葉ちゃんに対する嫌がらせは、青葉ちゃんの……。


「……青葉の本当の力を封印するためのものだった。あたしたちは双子。ゆえに平等なんてありえない。あたしは権力を我が物にする計画を実行した。あたしはすごいの。本当にすごいのよ、あたしは……」


 青花は邪気に満ちた表情で、監視画面に映った自分と同じ顔の人物を見る。


「……青葉だわ。本当に危険領域に現れるとはね。本当にバカなんだから」


 これで、なにもかも終わる。


「……青龍魂せいりゅうこんは、あたしだけの力なんだからっ! たとえ双子であろうと、その力を使うことは許されないっ!」


 青葉がいなくなったら、あたしは本物になれる。


「あたしのために死んで……青葉」

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