第16話

  ☯


「ただね、これだけは言える。たとえ君が、この広輪京こうりんきょうで、どんなに差別されていても関係ないってことが。君が、この世界で、どんな扱いを受けているのか……そんなのは関係ない。君が泣いている。助けを求めている。俺が君を救う理由は……これだけじゃ、足りないのか?」


「……!」


「それ以上の理由が必要なのか? なら、言うぜ。君は気づいてないかもしれない。でも、俺は気づいている。魅力的な人間だってことが。君は、あの青花ちゃんよりもスタイルが良い。出るところは……ぼんっ……と出ていて、締まるところは……きゅっ……と締まっている」


 青葉ちゃんは、かあああっ……と、赤面する。


「へっ……へ、へ、へ、変態っ! 変態よっ! あほんだらっ!」


「そうだぜ。俺は変態だぜ。俺が流れ着いた場所で君の体を触ったことを今も覚えている。柔らかくて、しっとりしていて、感触もぷるぷるしていて、とにかく……今まで触ってきた中で一番、最高の胸だったぜ」


(ま、胸を触ったのは初めてだったけどな)


 俺は自身の人生を振り返った。女性経験のなさに落ち込むが、気を取り直して想いを伝える。


「それだけじゃないぜ。君は俺が出会ってきた人たちの中で誰よりも柔らかいんだ。胸が、じゃないぜ。君がまとっている雰囲気が、だ」


「…………」


「思うんだ。君は誰よりも優しい人間なんじゃないかって。君は、この世界で否定的な感情を周囲の人たちにぶつけられ、『わたしはだめな人間なんだ』と思わされ、育ったかもしれない。だけど、その分だけ君は人の気持ちがわかる……そんな人だと俺は思ったんだ」


「…………」


「青葉ちゃん……君は俺を救ってくれた。今度は俺が救う番だ。俺は君の力になりたい。だから……」


「……違うよ」


 青葉ちゃんは否定する。


「違うよ。違う、違う、違うっ! わたしはそんな人間じゃないっ!」


「――青葉ちゃん……」


「わたしは君を見つけたとき、思ったんだ。君を助けることで、わたしは『非魂ひこんの巫女』から『人助けの巫女』になって周囲の人たちに認められる……そんな思いが頭の中に浮かんだの。だから、わたしは違うのっ! 君を利用しようとしていた。わたしの心は醜くて腐っている。だって、そんなことを思っちゃうんだもんっ! どうかしてるよっ!」


「――!」


「だけど、ありがとう。こんなふうに言われたのは久しぶりだよ。わたしの、お母さんのことを思い出しちゃった」

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