第15話

  ☯


「青花お姉ちゃんを助けることができたら、みんなを幸せにすることができる。この世界を守ることができる。でも、無理だよね。わたしに青花お姉ちゃんを助けることなんかできっこないんだ。だから『非魂ひこんの巫女』なんだ。わたしには魂がないんだ。もう、どうすることもできないんだ」


「…………」


「蛭子くん、ありがとう。わたしの話を聞いてくれて。わたし、蛭子くんがいなかったら……こうやって話をすることもできなかった。自分の気持ちにふたをしてた。だから、蛭子くん……自分の寮に行ってもいいんだよ。もう、わたしのそばにいる必要はないんだよ」


「…………」


「青花お姉ちゃんも言っていたじゃない。蛭子くんの住むところはここじゃないんだよ? 陰陽院おんみょういんの寮には蛭子くんの住むところがある。蛭子くんが暮らしていける環境がある。わたしは魂装師こんそうしとしても魂生師こんせいしとしてもひいでたものはないけど、陰陽院おんみょういんはそんなわたしを見捨てるまではしないから生きていくことはできる。……蛭子くんが、わたしの心配をする必要はないんだよ?」


「…………」


「蛭子くん、さっきから黙ってるけど……どうしたの? わたしの言ってる意味が、わからないの? わたしはね、この部屋から出て行って……って言ってるの。わたしにはもう蛭子くんが必要ないのっ! 出て行ってよっ! この部屋から出て行ってっ!」


 青葉ちゃんは泣いた。


 自分のせいで俺が巻き添えを食らうかもしれない……と。


 だから泣いた。


 泣くことしかできない。


 ただ、青葉が泣いて……なにかが解決するわけでもない。


 だけど、青葉ちゃんには解決する方法がない。


 解決しなければいけないのに、解決する方法がない。


 青葉ちゃんは理解していた。


 俺が、どういう人物で、どういう行動原理で動くのか……を。


 青葉ちゃんは、俺の心に訴えかけるしかないのだ。


「…………」


 そんな彼女を見ながら、俺は自身の想いを伝えようとする。


「……俺は日本ひのもとの事情を表面でしか見ることができない。日本ひのもとの事情を知ったのは、つい最近のことだし、ましてや君が魂生師こんせいしに属する家系の人間だったとは知らなかったよ」


 俺は青葉を慰めるように。

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