第11話

  ☯


 青花が罵倒を繰り出す――瞬間、俺は青花に刃物で刺すような鋭い視線を投げつけた。


(――っ!)


 青花は目をそらす。


(――青葉ちゃん……)


 俺は彼女を見る。


 さっきから彼女は変だ。


 この教室に青花がやってきたとき。


 いや、アパートを出たときから変だ。


 俺と会話していたときは少しだけ余裕があったはず。


 だけど、今は……その余裕がひとかけらも残っていない。


「――――」


 ――青葉ちゃんは自分の気持ちを押し殺しているのか――。


「――青葉アオバイキンねっ!」


「――は?」


 俺は青花に向かって意味不明だ、と言わんばかりの声を出す。


「青花ちゃん、なにを……」


青葉アオバイキンなのよっ! 神聖なる場で接吻せっぷんをした。神さまたちが許さないわっ! あなたたち二人はバイキンっ! クズが原因でバイキンになってしまった哀れなバイキン……皆神みなかみ蛭子ひるこっ! あなたにはクズと嫌でも仲良くなる権利を与えるわっ! 二人まとめて青葉アオバイキンよっ!」


 そんなことを青花が言うと、クラスの教室にいる生徒たちが。


『アーオバーイキン!』


 青花の発言に合わせ、蔑称を唱えていく。


「本当にしょーもねえ奴らだなあ」


 俺は素直に言った。


餓鬼がきみたいなことして、楽しいか?」


 俺は自身の同級生らに訴えるように。


「それであんたらに得になることがあるのか? 一人の女の子をいじめて……それが日本ひのもとを守る魂装師こんそうしの正体か? どうかしていると俺は思うね」


 俺は彼女の苦に満ちた表情を見ながら。


「……もう一度だけ言わせてもらおうか。あんたらは……葛原かつらはら青葉あおばに、こんな顔をさせて楽しいのか?」


「――そんなわけないじゃないっ!」


 青花は激昂した。


「楽しいと思った? どうしてそんなことを思うのかしら? ああ、あなたは陰陽院おんみょういんに入ったばかりの新人さんだからわからないかもしれないけどねえ……あたしが今までどんな思いでここまでの存在になったと思う? クズが今までらくしてきたことを知らないから、そんなふうに言えるのねっ! あたしはクズの尻拭いをしてきたのっ! そもそもクズ魂珠こんじゅをつくれないのが悪いんじゃないっ! あなた、日本ひのもとがどういう国か理解できて?」

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