第10話

  ☯


 青花は自慢げに貧相で真っ平らな胸をぐっと張る。


(出来の良さ……ね)


 そう思いながら俺は青花の体を凝視する。主に胸を。


「……なあに?」


 青花は俺の態度を見て、ははーん……と、勝手に理解する。


「あたしの洗練された体をじっくり見ようとするなんて……生意気なのよ」


 尊大な口調とは裏腹に、青花の言葉には照れがにじんでいた。


「まあ、いいわ。あたしの魅力に惹かれるような人間は、この陰陽院おんみょういんにはごまんといるんだからっ! あなたはそのうちの一人として数えておくわ」


「なんてみみっちい女」だと俺は思った。


 青花は気を取り直すように、すぅ……と、息を整えて。


「……こほん。本題に入りましょう。なぜ、あなたが『非魂ひこんの巫女』である葛原かつらはら青葉あおばに近づいたのかを……ね?」


 俺は愚問だなと思いながら笑った。


「俺は彼女に救ってもらったんだ」


「あなたが? 救ってもらった? あの『非魂ひこんの巫女』に?」


「そうだよ。俺は葛原かつらはら青葉あおばに救ってもらったんだ。なっ!」


 俺は青葉ちゃんを見る。


 ざわっ……と、ほかの生徒たちが言った。


「なにもできない……あの『非魂ひこんの巫女』が?」


「いったいどんな術を使って皆神みなかみをたぶらかしたんだ?」


「術なんて使えるわけねーよっ! あの落ちこぼれのクズだぜ?」


 言いたい放題である。


「……はあっ?」


 青花は俺に苛立ち、つっけんどんな表情を青葉ちゃんに向けた。


「クズが、あなたを救ったですって?」


青葉あおば……ちゃんだぜ、青花ちゃん」


 にかっとした表情で俺は言った。


「気絶して海に流されて死にかけていた俺を青葉ちゃんが救ってくれたんだっ! この広輪京こうりんきょうで、陰陽院おんみょういんで、生きていること自体が、青葉ちゃんが俺にもたらしてくれた奇跡なんだぜっ!」


「海に流されたですって?」


 顔をしかめながら青花は思考する。


 気絶している人間に対する応急処置。それは――。


「――まさか、人工呼吸をしたってことなの? 皆神みなかみ蛭子ひることクズ接吻せっぷん?」


 わなわなと青花が震えだす。


「……あなたたち、破廉恥だわっ! 神聖なる陰陽院おんみょういんの近くで、なんて汚らわしいっ! 葛原かつらはらの恥さらしめっ! ……クズっ! あなた……形式上はあくまであたしの妹ということになってるのにっ! ほんとにクズで淫らで出来損ないのゴミなのねっ!」

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