第9話

  ☯


「俺の名は皆神みなかみ蛭子ひるこ陰陽院おんみょういんに来たからには広輪京こうりんきょうの中央にあるくさびはしら……正式な名前は楔御柱くさびのみはしらだっけ? ……まあ、その楔御柱くさびのみはしらを俺たちは守らなきゃいけないわけだけどさ、そんな当たり前のことを言われても困るよな? それを守らないと日本ひのもとは崩壊しちゃうし。君たちの家系が三百年それを守ってきた。俺も徹底的に楔御柱くさびのみはしらを守ろうと思っているさ。……こんな上から目線な言い方だけど、そうでもしないと俺の本気は伝わらないと思うから」


 俺は周囲を見る。


「……そんな感じでよろしくなっ! 今は葛原かつらはら青葉あおばちゃんのアパートに住まわせてもらっているから、気軽に声をかけてきていーんだぞっ!」


『……!』


 クラスの生徒たちが一斉にざわついた。


 俺は空いている席へと座る。


 隣の席の青葉ちゃんは、きっ……とした感じで蛭子をにらみつける。


(わたしの名前を出さないでほしいとあれだけ言ったのに……蛭子くんはいったいなにを考えているの……)


 俺は隣の席にいる彼女の険しい視線から逃れるように目をそらす。


(まあ、俺が行動しなければ、なにも始まらないというわけで……どういう答えが返ってくるのやら)


 再度、俺は周囲を見る。


(この感じ、あまり歓迎ムードじゃねえな。俺の特性も関係しているんだろうけど、しばらく様子を見てみるか)


  ☯


 ――昼休み。


 とある人物が俺と青葉ちゃんのクラスに現れた。


「……あなたが皆神みなかみ蛭子ひるこね」


 俺の目の前には青葉がいた。


 いや、違う――青葉ちゃんは隣の席にちゃんといる。


 正確には青葉ちゃんの顔をした別の人物だ。


「あたしの名前は葛原かつらはら青花せいかひがし葛原かつらはら――つまり、魂生師こんせいしの家系に属する巫女よ。あなたにはそれが理解できて?」


 俺は隣の席の青葉ちゃんを見る。


 青葉ちゃんのフルネームは……葛原かつらはら青葉あおば


 そして、目の前の女……葛原かつらはら青花せいか


「もしかして、お二人さん……双子なのか?」


「……そうよ、皆神みなかみ蛭子ひるこ。あたしたちは双子なのよ。出来の良さは比べ物にならないけど」

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