第8話

  ☯


「顔色が悪いけど……青葉ちゃんも休んだら? 俺に付きっきりだったんだろ?」


「…………」


 青葉ちゃんは顔色を整えながら言った。


「……ありがとう。君は優しいね。変態さんではあるけど」


「――変態……さん?」


「うん。君は、あほんだらな変態さんなの」


 青葉ちゃんは苦虫を噛み潰したような感じの表情や、顔を極度に赤らめた表情や、それらがまとめて噴き出したような、なんとも複雑怪奇な表情を目まぐるしく繰り返した。


「まあ、わたしのことは気にしないっ! 陰陽院おんみょういんに入ったら、嫌でも……わたしが、どんな存在なのか……わかるからっ!」


「……?」


「ここで一緒に暮らしていられるのも、そう長くはないと思う……。君が危ないよ。これ以上の手助けはできないし……それが君のためになることだからっ!」


「……よくわからんけど、気にする必要ないと思うけどなあ」


「気にしたほうがいいよ。陰陽院おんみょういんでは常識だから。わたしが『非魂ひこんの巫女』であることが、どういう意味を持つのかを」


 青葉ちゃんは深刻そうだが、俺はあっけらかんとしていた。


「青葉ちゃんっ!」


「はい?」


「君は俺をどうしたいの?」


「……えっ?」


「君は言ったよな? なんでも言ってよ……って。でもさ……そのあとに、これ以上の手助けはできないって……なんか、おかしくないか?」


「…………」


「君は俺に、なにを求めて、なにをしてほしいの?」


 青葉ちゃんは思った。


(わからない。わたしが彼に、なにを求めているのか……なにをしてほしいか……わからない。ただ……)


 そんな彼女を見て、俺は言った。


「まあ、答えは陰陽院おんみょういんに行けばわかる。そういうことだろ?」


「……うん」


「わかった。陰陽院おんみょういんに行ってみるさ」


「――わたしを……見捨てないでくれませんか?」


 俺は決意を固めて言った。


「ああ」


 そして俺は、彼女の問いに答える。


「……言い忘れていたよ」


 気を楽にしているようにも見えるが、真剣なまなざしで。


「俺の名は……皆神みなかみ蛭子ひるこだ」


  ☯


 陰陽院おんみょういん――それは日本ひのもとに設置された魂装師こんそうしを育成する機関――平たく言えば学校のことである。


 ――翌朝。


 俺は青葉ちゃんの所属するクラスに入ることになった。


 現在、青葉ちゃんのクラスで朝礼を行っている途中である。


 俺は彼女のクラスで自己紹介をすることになった。

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