第4話

  ☯


「父さん、また、いつか会おう。俺、がんばるから」


「ああ、お元気で……皆神みなかみ蛭子ひるこくん」


 漢字と読み方の情報は俺の脳へ伝わった。それさえも吸収したらしい。


「……それって、この世界での俺の名前?」


「うん、名字は皆を守れる神さまになれって意味。名前はヒルコの由来からだ」


「なにから、なにまで、ありがとう……じゃあね、父さん」


「バイバイ、皆神みなかみ蛭子ひるこくん」


 こうして俺と父さんは別れた。混じり気がなくなるように。


  ☯


 あれから、三百年が経過した。


 遠方に大きな島が見える。


 あそこへ行かなければ、世界を変えられない。


 俺は、すべてを取り戻す準備をしてきた。


 ゆえに、そのための行動をする。


 すべては、すべてを取り戻すために――。


  ☯


 ――とある海上にて。


 戦闘が発生していた。


 俺と化物の戦いである。


 俺は腕を構えた。


 その瞬間、腕は異質な材質へと変貌し、その腕で化物を殴った。


 化物は気絶した。


 化物の隙を俺は見逃さない。


 再び腕を構え、こぶしをつくる。


 そのこぶしで化物に猛撃を食らわせる。


 化物は消滅した。


 腕が、ふしゅう……とうなる。


 その腕から発生する蒸気は機械のようだ。


 俺は力を使い果たし、海に落ちた。


 俺は、かつて生まれた故郷ふるさとの地まで流されていく。


 俺の思い描く理想の地へと――。


  ☯


 神現暦しんげんれき三〇一年。


 俺がたどり着くべき舞台は日本ひのもとという国に存在する都市――広輪京こうりんきょうだ。


 広輪京こうりんきょうのとある海岸の砂浜に俺は流れ着いていた。


 その近くにいた緑がかった黒髪を持つ十六歳の少女――葛原かつらはら青葉あおばは俺を発見する。


(……人? なんでこんなところに人が倒れているの?)


 青葉ちゃんは俺の容態を確認するために俺のもとへと駆け寄る。


(……息をしている! 生きている! でも、体がすごく冷たい。すぐに助けなきゃ! だけど、こういう場合ってどうすればいいんだっけ?)


 青葉ちゃんは俺の口元を見る。みるみると青葉ちゃんの顔は真っ赤な色に変わった。


(こんなことを考えている場合じゃないのに! わたしのばかあっ!)


 俺は青葉ちゃんの手で胸を何回か圧迫されたあと、口と口が接触し、空気が送り込まれ……それに気づいたのは、そんなに時間がかからなかった――。

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